人間のアタマの働きというのは、アタマのよい人もわるい人もとにかく基本的に支離滅裂なものであって、いいのわるいのといってみたところでドングリの背比べである。だから、アタマのよい人を羨んだり妬んだりするのはお門違いであって愚か。

 私はこれまでの人生で、自分よりアタマのよい人にたくさん出会ってきたが、その人たちはみんなよい人たちで、私に対して親切であった。だから、味方につけた方がいいのはわかりきったことだ。
 私も、自分のアタマの支離滅裂さに苦しめられるのは人後に落ちない。このせいでこれまでどんなにひどい目に遭ってきたか、まったく筆舌に尽くせないものがある。中でも、演奏中にあらぬことを考えてしまってドジを踏む、というのは最悪である。CDの紹介を兼ねて、そういう例を綴ってみよう。

Modachoki

別冊モダチョキ臨時増刊号

モダンチョキチョキズ

KSC2 76


 これは、モダンチョキチョキズが1994年にリリースしたアルバムで、新曲5、リメイク&リミックス5、それにギャグが5つ入っている。 全曲、濱田マリが独唱で、バックは激しくメンバーが入れ替わること、他のアルバムと同じである。濱田マリはキンキンした地声。地声ではあるが歌い方は決して下手じゃない。そしてこのキンキン声は、モダチョキの関西コテコテ冗談音楽に実によくマッチしている。

 私は東京生まれで関西にロクに行ったことがないくせに関西の冗談音楽が大好きだ。思えば私の関西ギャグ音楽志向は、小学生のとき聞いた、かのフォーク・クルセダーズの伝説的な、「帰ってきたヨッパライ」以来順調に培われてきたのである。フォークルも活動期間が短かったが、モダチョキも1997年で活動を止めてしまった。非常に残念なことである。フォークルほど独創的ではないが、その代わりより洗練されたサウンドだったのに。


 ところで、モダンチョキチョキズはこのアルバムの後、「レディメイドのモダンチョキチョキズ」というアルバムを出した。私は「別冊」の方がすきなのだけれど、「レディメイド」の中に「博多の女」という演歌調の名曲が入っていることを憶えておいでの方も多いだろう。そう、「友達が『博多の女』という温泉まんじゅうをおみやげにくれた。しかしそれは他の2つの温泉場のまんじゅうと包み紙が違うだけで同じ味だった。まんじゅうにはアイデンティティは、オリジナリチーは、イマヂネエエエエションは、ああ、いらないのか~」と歌い上げる、アレである。この歌、当時私がレッスンを受けていたW先生という、若い女の先生が大好きだった。

 さらに話は飛ぶが、フルートには「アルルの女のメヌエット」という、これはもう、代表的な名曲がある。これを代表といわずしてなにが代表か、ってくらいなもんである。さてこの「アルル」というのは南フランスの地名であって、しかも温泉場なのである。だから、もしアルルでおみやげにまんじゅうを売るとしたら、当然その名前は・・・ぎゃははは。などと師弟して笑いころげていた。


 しかし、名曲をギャグのネタにしたりしたバチはしっかりあたったのである。しばらくして私はとある老人ホームで「アルルの女のメヌエット」を演奏したのだが、なんと演奏中、伴奏ピアノとのテュッティに行く手前、長い長いクレッシェンドでフォルテになっているところの、そのまた手前のところで、あろうことかモダチョキの「博多の女」のことを思い出してしまった。

 ・・・なんとか笑いはこらえた。しかし気がついたらブレスしないまま長い長いクレッシェンドに突入してしまっていた。音楽を止めないでブレスを取り直す手段はとっさにはない。循環呼吸も無理。ということはそのまんま長い長いディミヌエンドになってしまい、最後はフォルテのはずが、世にも情けない蚊の鳴くようなpppになってしまったのであった・・・。ああ、なんて支離滅裂なわがアタマ。


L'Arlesienne ←クリックすると何が起こったのかはっきりわかります。

 ・・・おかしいですか?笑うならいまのうちだよ、演奏中じゃなくてさ!