就職詐欺!?ウサギにされたハングタン | ザ・ハングタン+

ザ・ハングタン+

「ザ・ハングタン」とは法で裁けぬ盛岡の鬼を退治する乙女たち。
この物語はそんな乙女たちの戦いのドラマである。
(現在「いわてマル秘指令ザ・新選組」アーカイブも公開中)

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この物語はあくまでフィクションであり、事件、人物、団体などはすべて架空のものです。

あと、過度な期待はしないでください。


岩手県の県庁所在地、盛岡市。人口およそ30万で北東北の中核都市だ。盛岡学園はその盛岡市の中心地から北に位置するみたけにある。幼稚園から短期大学まで完備し、エリート育成にも力を注ぐ学園である。


そんな学園に一台の車がやってきた。

「何よ」

「学園の就活支援で毎年来てる吉野さんよ」

「吉野?」

「盛岡市内でビル一棟買い取ったぐらいの金持ちよ」


吉野が車から降りた。

「ありがとう」

そして中に入る吉野、それを牧村環が見ていた。


環は体育倉庫に白澤美雪と高橋弥生を呼び出し、吉野の話をする。

「吉野重也、盛岡で地主やってるの」

「それで?」

「就職活動の助けって、自分たちの店で働かせるらしいの」

環は吉野のビルのテナントで働いているOBの資料を見せた。

「う~ん、別に怪しいわけじゃないけど」

「でも何かあると言うのね」

「このご時世、働ければいいのよ」

「そんなこと言って、女の子をおもちゃにしても?」

美雪と弥生は驚いた。

「ええっ?」

「これを見て」

東北日報の社会面に小さく記事が出ていた。

「第3吉野ビルから女性が飛び降り自殺」

「それがどんな関係が」

「自殺した女性が盛岡学園の卒業生だったの。夏子さんの愛弟子で」


横田夏子は音楽室で今朝のことを思い出していた。

「裕子」

自殺した三上裕子は夏子に中学時代から教わっていた愛弟子だった。裕子が就職が決まったときには夏子が真っ先に喜んでいた。

「俊彦さん、裕子は誰に犯されたんですか?」


朝、夏子はほろ酔いの原俊彦から三上裕子の自殺を聞かされた。

「裕子が?どういうことよ」

「確か数日前、クラブのピアニストの子が男に連れられたんだが・・・ひょっとしたら」

「それって」

「そうだ。第3吉野ビルから飛び降りた、と言うことは吉野重也への恨み」

それを聞いた夏子はやるせなくなった。

「う・・・嘘、嘘よ」

そう言って俊彦をどついて走り去った。夏子は裕子が自殺するはずがないと思ってたのだ。

「自殺なんて、裕子」


理事長室で環たちが三上裕子の自殺と吉野重也の関係を大谷正治に説明していた。

「夏子さんの最愛の弟子が、あんな死に方をするなんて」

「これは立派な敵討ちです」

しかし大谷はこう言う。

「敵討ち?冗談はやめたまえ」

「でも」

「吉野さんは学園に必要不可欠な人だ。生徒の就職にも大きく関われるほどのね」

「は、はぁ」

「ところで、吉野さんは」

「吉野さんなら事務長のところだ」


吉野は事務長の浅沼博久と話をしていた。

「パチンコ屋はもうダメです。給与未払いの騒ぎが起きないとも限りません」

「左様ですか」

「ですが、幸いにも第1ビルに南コーポレーションが出店します」

「南・・・あの南坐房ですか」

「その通り。そしてこの店は店員のワークバランスを考えていらっしゃる」

「それは好都合」

「我々も南社長に学べと社員を増やし、店員のシェアリングをもって効率をアップさせたい」

「ならば、わたしとしても協力しましょう」

「お願いします」


夏子は第3吉野ビルの近くを通りかかった。

「裕子」

昼下がりだと言うのにもう傍らに花が飾ってあり、夏子も赤いバラの花をさりげなく置いた。


理事長室では斉藤葵、美雪、弥生が大谷と第2回交渉。

「夏子さん、早退したのよ」

「三上さんは吉野ビルから飛び降りた、と言うことは吉野への復讐なんてことは」

しかし大谷は聞く耳を持たない。

「君たち、横田君の情に乗せられては困る」

「困ります・・・か?」

「第一、何の証拠があるんだ」

生徒たちは反論できなかった。そこへ電話が鳴る。弥生が電話に出た。

「はい、大谷です」

「弥生ちゃんか」

「なんだ、俊彦さん」

「代わってくれ」

しかし弥生はそのまま長電話でもしようかと言う勢いだった。

「で、この前ラーメン食べたじゃない。あの奢り、今日返したいの」

「それより、ゴッド」

「はぁ?」

大谷は弥生から受話器を取り上げた。

「原君か。どうしたんだ」

「三上裕子は数日前・・・確か13日に男の人と一緒に店を出て、それから店に来ていなかったそうです」

「何ですと」

俊彦はさらに話を続ける。

「三上裕子が失踪したことは誰も知らなかったそうです」

「失踪ではなかった、と言うことか」

「そうではありません。実は・・・」

俊彦がとんでもない報告をしてきた。

「それは本当か」

「はい。あと、せめて13日に三上裕子を連れた男がわかればいいんですが」

「それだけわかれば結構だ」

大谷は電話を切った。葵がたずねる。

「原さんは何て」

「それがだ、三上裕子に瓜二つの女性が昨日クラブに来ていたと言うらしい」

「その子、まさか未成年」

「そのまさかだ。そして、その鍵を握るのが13日に三上裕子を連れ出した男」

「じゃあ、その仕事を・・・」

「その通りだ。吉野さんには話をつけておく」

そう言って大谷はまたどこかへ電話をかけた。


夜、大通りの第3吉野ビルにあるピアノバーで夏子と弥生がバニーガールに扮していた。

「弥生ちゃんはAカップだから少し上げて引き締めた8割カップ」

実は弥生の胸元の小さなカメオと、夏子のピアスに盗聴器をセットしていた。

「もぉっ、俊彦さんったら」

そんな時、一人の客が夏子にピアノのリクエストを頼んだ。

「何でもいいから頼むよ」

「はいはぁい」

夏子は任務を忘れてピアノを弾き始めた。

「うまい、さすが先生」

弥生がはしゃいでるのを見て、ある男が弥生に目をつけた。

「まさかな」

夏子は自慢のピアノで古典から最新のヒット曲まで演奏した。かれこれ2時間はやっただろうか。

「あっ、もう10時よ」

夏子は弥生に清水町の自室に帰るように諭す。

「あ、そうか。もう10時になったら家に帰るのね」

「ばかっ、わかってるならさっさと脱ぐ!」

夏子は弥生を脱がせた。それから夏子は先ほどの男から名刺をもらった。


翌日、夏子は俊彦に報告。

「ピアノのリクエストしてくれた人がいるの。田村真一郎さんって」

「何、田村?確か・・・」

俊彦は田村真一郎に心当たりがあった。4年前まで岩手緑高校の就職活動担当教諭だったが、ある生徒から話が違うと訴えを起こされたために免職されている。

「岩手緑高校の先生を辞めてから、吉野総業に就職したんだ」

「そう」


学園では3年生があれこれとバイトの話、就職どうすると話し合っていた。

「まだ就職もバイトも・・・」

まどかはかなり参っていた。

「弥生と葵はいいよね」

「ん?」

「どうして」

「弥生は福岡だから、こっちより働き口あるし」

しかし弥生は反論する。

「そんなことないよ」

「それに葵はおじ様をお手伝いすればいいんでしょ」

「まぁ、そんなとこかな」

そんなとき、B組の山田恭子が暗そうな顔でやってきた。

「あ、おはよ」

A組にいるまどかは、恭子のことについて葵に聞く。

「あの子は??」

「B組の山田恭子。結構勉強も出来るらしいの」

「でもこれからの進路を考えると」

「大変よね」

葵が恭子に声をかけようとする。

「恭子ちゃん」

「いいの、またやり直せれば」

しかしこれは山田恭子ひとりの事態ではなかった。他にも同じような生徒が4,5人はいたと言う。ハングタンは昼休みにそのことで話をした。

「いくら低経済で高給取りの企業でも」

「内定取り消しをだすなんて、人でなしよ」

「そう、それに夏子先生が追ってる自殺騒ぎも気になるし」

「恭子、かわいそう」

恭子は教室でうつろに空を眺めていた。


夜、A組の木村道広の家に電話がかかってきた。

「はい、木村です」

「あ、木村さんのお宅ですか。道広さんは・・・」

「僕です」

「実は昨日のことなんですけど」

道広はうなだれたようだった。

「・・・そうですか。わかりました」


その時間、クラブで田村真一郎が携帯電話の電源を切っていた。

「お金を積んでもダメな奴はだめなんだよ」

そう言った後ソファーに腰掛けると、そこになんと三上裕子がいたのだ。

「ゆうこ、今日も奢りだからな」

そこへ夏子がやってくる。裕子はすぐに夏子だとわかった。

「あの人、先生?」

「ゆうこちゃん」

田村は裕子に抱きつこうとした。それを見た店員は止めようとしたが、田村は店員に眼を飛ばした。

「ちぇっ、お楽しみの邪魔をしやがって」

夏子はこの日もピアノを弾いていた。


翌朝、まどかは早朝からバイトの履歴書を書いていた。

「写真よし、印鑑よし、あとは・・・」

そんなまどかの横を木村道広が通り過ぎた。

「やあ」

「おはよう」

道広はやはり昨夜のことが気になっていたようだ。

「まさか、昨日の山田さんと言い、今日の木村君と言い・・・おかしいわね」

まどかは念のため道広に話を聞いてみることにした。

「この前吉野総業に面接に行ってきたんだ。そして僕や山田さん、C組の上野、みんな内定が取れるって喜んでたのに」

道広は悔しさのあまり泣いてしまった。まどかはこれですべてがわかった気がした。


夏子と環は理事長室で大谷に報告。

「田村真一郎は三上裕子と出来ているかもしれませんね」

「どういうことかね」

「念のため岩手緑高校に問い合わせたんですが、一人欠席した生徒がいるんです」

「で、その子の名前は」

環は三上裕子そっくりの女性の写真を出した。

「浅田祐子、岩手緑高校3年。どうやらバイトで店に来ていたようです」

「それを連れ込んだのが田村さん」

「・・・そうか。これは吉野社長に説明してもらわんとな」


大谷は環を連れ吉野総業の本社にやってきた。

「盛岡学園の者です」

「お入りください」

社長室には吉野と秘書の坪井史奈がいた。

「いらっしゃいませ」

「大谷さん、どうして」

「実は盛岡学園の生徒の内定を取り消したとかで」

しかし大谷の話を聞いた吉野は何も知らない顔。

「見てみぬふり、ですか」

「それから、三上裕子と浅田祐子のことも」

「ああ、あれはすべて人事責任者の田村君が・・・」

吉野が田村の名前を出した。それを聞いた大谷は席を立った。

「そうですか、田村さんに言ってあげてください。あなたは間違ったことをしてます、と」

「・・・は、はい」

「それでは」

「大谷さん、またいらしてください」


しばらくして、田村は吉野に呼び出された。

「田村君、今日限り君は来なくていい」

「ど、どうしてですか」

「坪井君」

坪井が三上裕子と浅田祐子の履歴書を田村に見せた。

「こ、これが、これが何の証拠になるんだ」

「それだけじゃない、盛岡学園の生徒の内定取り消したそうじゃないか。盛岡学園の理事長が抗議に来た」

田村は怒った。

「それは、このご時勢なんやかんやあるにせよ、本気でこの仕事できる人間が欲しいんだ」

「確かにそれも一理あるが、そのために一旦取った人材を使いもせずに捨てるのはどうなのか。一度頭を冷やして考えてくれ」

「わかりましたよ」

田村はふてくされたまま社長室を出た。その模様をハングタンたちも聞いていた。

「よし、今夜決着をつけるぞ」

俊彦は今夜第3吉野ビルで決着をつけると決めた。

「これで田村がどう動くかしら」

「そのためにみんなバニーちゃんじゃないか」

ハングタンたちはバニースーツに着替えていた。

「弥生ちゃん、おみ足サイコー!」

俊彦はくだらないことを言って、ハングタンたちの失笑を買った。

「処刑開始だ!」


田村は吉野に解雇通告を突きつけられ、精神的に滅入っていた。

「まったく、社長も理解できてないよ。人件費削って安売りのどこが悪い」

そこへ俊彦がやってくる。

「あのぉ、一言よろしいですか?人件費削って安売りとは、どう言うことでしょうか」

「あ、あんたは」

「わたくし、フリーのジャーナリストです」

そう言って俊彦は田村と名刺の交換をした。

「そう言えば、ピアノを弾くバニーさんは?」

「あっ、いないぞ」

俊彦は夏子がいないことを確認したのだ。一方その夏子は・・・と言うと、三上裕子に話をしていた。

「この前ビルから突き落とされたのは、あなたに似てた浅田祐子さんね」

夏子がこう言うと、裕子は泣いた。

「あたし、ひどいことしちゃった」

「えっ?」

「田村さんがあの子を追い詰めたの。未成年なのにお酒を飲まされて、それで・・・」

「どうしたのよ」

「田村さんが詰め寄ったところで」


裕子の回想によると、あの夜は浅田祐子が田村の一存で不合格となったことに腹を立てた。

「ひどいわ、あたしはすべてを捨ててここで働きたかったの」

「でも君には、もっともっといい働き口があるだろ」

「・・・そ、そんなこと言ったって」

「パチンコ、居酒屋、何でもありだ。別に怪しまれない」

「そんなところじゃ・・・」

浅田祐子は哀願したが、田村は彼女の口にウォッカを注ぎ込んだ。

「ははは、金のなる木は裏の世界に育つもんだ」

「い、いや、恥ずかしい」

それを裕子も見ていた。しかし田村に首根っこを押さえられた裕子にはどうすることも出来なかった。

「もうどうすることも出来なくて・・・ただ追い詰められた彼女が飛び降りるのを見てるしかなかった」


裕子が大粒の涙を流した。

「浅田祐子さんは、あなたに間違えられて死んだのね」

「はい、あたしになりすませば、田村さんめかけにしてあげるって」

「酷い話」

「夏子先生、ごめんなさい。あたし、ピアノが弾きたくてこんなところに入ってしまったの」

裕子は夏子の胸の中で泣いていた。

「いいのよ、ピアノが好きだった裕子があたしも好きよ」


夏子と裕子はピアノの二重奏を演奏することになった。

「ここにお集まりの皆様、大変長らくお待たせしました」

環の司会で夏子と裕子のピアノショーが始まった。だが、徐々に曲調が暗くなっていく。
「おい、どうした」
田村は苛立ってステージに立とうとする。
「やめ、やめろ!」
すると環、美雪、まどか、弥生が田村の前に立ちふさがった。

「田村さん、お帰りにはまだ早すぎます」

「うるせぇ、貴様らこの店をめちゃめちゃにする気か」

ここで俊彦が割り込んできた。

「そうですよ、田村さん」

「証拠もちゃんと、秘書からいただいてます」

葵が吉野と田村の会話テープを田村に聞かせる。

「三上裕子と浅田祐子が似てるからと、転落事故死の被害者をすりかえるとは」

「そ、そ、それはあの子が」

これを聞いた田村は葵からテープを奪おうとした。しかし葵はすぐに美雪へパス。弥生、まどか、環と来て最後は俊彦だ。

「こうなったら」

田村は数人の取り巻きを呼び、ハングタンに襲い掛かった。しかしまどかの蹴りや美雪の打撃技の敵ではない。

「よぉし、最後はあんただけね」

環は田村とタイマン勝負をした。田村が棒を持って迫るが、環はひらりとかわして田村を背後から攻めた。

「よくも、よくも就職先を騙して・・・バッキャロー!!

田村は泣きながら謝った。そして夏子の葬送行進曲が響き渡った。

「あなたは高校生の就職を邪魔しましたね あなたは女子校生にお酒飲ませましたね」

夏子の歌声もあってか、田村はもう黙っていられない。

「そうだよ、そうだよ」

そして裕子は田村に言いがかりをつけようとしたが、そこは葵、美雪、弥生が制止させた。

「落ち着いて」

「離して、お願い」

「田村さんを殴ったところで何になるんですか」

夏子がピアノを止め、裕子にこう言った。

「田村さん、本当は会社のためを思ってたのよ。でもそれが吉野社長に理解されなかった」

「・・・うそ」

裕子はもう一度夏子の胸で泣いた。


翌朝、吉野総業は山田恭子、木村道広らの内定を改めて決定した。

「恭子、よかったじゃない」

葵が恭子の内定を喜んでいた。しかし弥生は悩んでいた。

「どうしたの?」

「福岡に帰りたい・・・でも牧村さんと離れたくない」

弥生が泣くのを葵と美雪は黙って見ていた。

「やっぱり」