この物語はあくまでフィクションであり、事件、人物、団体などはすべて架空のものです。
岩手県の県庁所在地、盛岡市。人口およそ30万で北東北の中核都市だ。盛岡学園はその盛岡市の中心地から北に位置するみたけにある。幼稚園から短期大学まで完備し、エリート育成にも力を注ぐ学園である。
体育館では牧村環が女子バスケットボール部の練習を見ていた。
「弥生、ちょっと無理しすぎよ」
高橋弥生は少し飛ばしすぎていた。
「はぁい」
さらに環は動きのよくない部員に檄を飛ばす。
「田村、桜庭、美雪が見えないの?」
白澤美雪は自分の不注意だと田村愛里を弁護した。
「愛里ちゃんよりあたしがいけないんです」
しかし環はこう言って美雪を諭す。
「愛里は次期キャプテン最右翼よ、甘やかさないことが肝心だわ」
「わかりました」
そして美雪は練習に戻る。美雪から弥生、愛里とつないだボールがゴールに入った。
練習を終えた環は職員室へ。そこでは事務の川村嘉男がどこかへ電話をしていた。
「期日には必ず」
川村の慌てた顔を見た環は、川村に何かあると思った。
「あの、川村さん」
「はい」
「どうしたんですか」
川村は環の問いかけに何も答えなかった。
「べ、別に・・・」
「そうですか」
環はさばさばと引き下がった。しかし川村はまた電話をかける。
「あ、岩北銀行さんですか」
数日後、環は3Bの清掃を手伝った。斉藤葵、美雪、弥生も一緒である。
「そう言えば、事務室の川村さん」
環は川村のことを思い出した。
「どうしたのよ」
「教えて~、先生」
葵、美雪、弥生は環に詰め寄った。環は我慢できず葵に耳打ち。
「川村さん、実は夜な夜などこかへ電話してるのよ」
「ええっ」
葵は驚いた。そして葵は美雪に、美雪は弥生に同じことを伝えたが、弥生はいつものようにボケをかましてしまう。
「川村さんって、誰?」
その川村が3Bの前を通りかかった。
「おっ、牧村先生」
環は川村の声がしたので廊下に出た。
「はぁい、何ですか」
「実はお話があるんです」
そう言って川村は環にあることを依頼する。2階の踊り場で川村は紙を見せた。
「先生は実家が名のある企業だそうで。それを見込んでお願いします」
紙には岩北銀行本店、3000万円と書かれてあった。
「ええっ、3000万円?」
「実は岩北銀行の本店に振り出した小切手の金を受け取って欲しいんです。わたしは所用があってね」
「そんな、3000万円なんて大金・・・できません」
環の哀願にも川村は耳を貸さない。そればかりかこんなことも言う。
「ほぉ、あなた理事長の信任も厚いと聞きましたが」
その言葉に環は驚いた。ハングタンのことは絶対秘密のはずだ。そこで環は考えた。
「は、はい。だったら3000万、引き受けましょ」
「そうです。まずは金融担当の小野と言う人に会ってください」
放課後、岩北銀行の本店に環がやってくる。さっそく窓口で小野のことをたずねた。
「あの、すみません。小野さんと言うのは」
「2階です」
そして2階で小野高広が環に説明する。
「小野です、はじめまして」
「あ、どうも。盛岡学園の牧村です」
「さて、3000万円なんですが矢口様の振り出しと言うことで・・・」
環は小切手の話を聞いた。これを参考にしたいと言うからだ。
「振り出し、つまり今回の場合矢口様から盛岡学園へ」
「なるほど」
3000万円の金を用意したことを報告し、地下駐車場へ。
「現金輸送車も特注です。安心してください」
「ありがとうございます」
環は2人の警備員とともに現金輸送車に乗り込んだ。
現金輸送車は中央通から長田町、上田を経由した。そのとき一台のツーリングワゴンが現金輸送車を追跡していた。
「今、どの辺を走ってます?」
警備員がGPSを確認する。
「厨川駅方面へ向かってます」
「もう一息ってわけね」
箱清水から厨川の国道4号へ出る信号機は青く光っていた。しかし追跡していたツーリングワゴンの助手席から信号が赤になる装置の赤いボタンが押された。現金輸送車は立ち往生してしまった。
「どうやら赤信号だ」
「あと少し」
そこにツーリングワゴンを降りた二人組が乗り込んできた。
「何するのよ!」
環は必死で二人組に襲い掛かるが、男は環を踏んだり蹴ったり。さらに警備員もワゴンの運転手に狙撃されてしまった。
「ひどい、ひどいよ。バッキャロー!!」
環は必死で抵抗したが、とうとう3000万円もろともワゴンでさらわれてしまった。
横田夏子は清水町のマンションで環の帰りを待っていた。しかしなかなか戻ってこない。
「マッキー遅いわね。どうしたのかしら」
弥生が帰ってきた。しかし今日は一人。
「ただいま」
「弥生ちゃん、今帰ってきたの?」
「うん」
環がいないことに気がついた夏子は、弥生に聞いてみる。
「牧村先生は?」
「放課後すぐに学校を出てったきりよ」
「えっ?じゃ、弥生ちゃんも知らないんだ」
夏子は電話機を眺めながらつぶやいた。
「原さんなら知ってるかな。でも今は一関に取材で出かけてるし・・・」
「夏子さん、どうしたんですか」
「ん、何でもないわよ」
「本当ですか?」
「でも牧村先生がこんな時間まで電話もしてこないなんて」
夏子は環の安否を気遣っていた。
環は3000万円の入ったジュラルミンのケースの山に埋もれていた。そして口かせと首輪で満足にしゃべることさえ出来ない有様だった。
「助けて、助けてよ」
翌朝、職員室に環が現れなかったのを見た川村は心配そうな顔をしていた。
「まさか」
そこに夏子が現れる。
「理事長がお呼びです」
「わかりました」
川村は理事長室で理事長の大谷正治の叱責を受けた。
「川村君、まったく何をしているのだ。牧村先生の失踪と言い、3000万円の盗難と言い・・・」
川村は反省していた。
「すべてはわたしの不徳の致すところでございます」
「あなた一人の責任では済まされない」
「おっしゃるとおりです。では」
川村は去っていった。大谷は夏子に問答を出す。
「どう思う?」
「川村さんが怪しいんですか」
「・・・牧村先生に岩北銀行の現金受け取りを頼んだのは川村だ」
「でも、それだけでは証拠も何も」
「そこで君たちの出番と言うわけだ。この事件では岩北銀行も、警備を担当したセーフティいわてもとばっちりを受けている」
大谷は岩北銀行の小野と狙撃された警備員の高橋のデータを夏子に見せた。
「おそらく知っているだろうが、小野の妹と高橋の息子は君の教え子と言うことになる。と言うことは、牧村先生の失踪と3000万円強奪は・・・」
「川村を中心にしたトリックなんて、テレビみたいなことあるかしら」
「そんなことが現実に起こるんだぞ。あって不思議はない」
夏子には大谷の言葉が重く響いた。
3Bの教室で葵、美雪、弥生がひそひそ話。
「ねぇ、3000万円を岩北銀行から引き出すなんて話を知ってたの、川村さんだけよね」
「だから怪しいのよ」
「牧村先生いないのも、そのせいなのかな」
「弥生、牧村先生やっぱりさらわれたのかなぁ」
「まだはっきりしないけどね」
そこに夏子が来る。
「牧村先生はハードワーク、無理がたたって熱を出してしまいました。しばらく休むそうです」
夏子のこの話を大半の生徒は信じていた。が、弥生だけは疑っていた。
「牧村先生、どうしちゃったのかな」
昼休み、川村は屋上にいた。携帯電話で振出人の矢口に詫びていたのだ。
「いや、それが・・・」
「3000万円が消えただと?しかし学園側に3000万円が消えたと言う話は届いていないはずだ」
矢口は自分の経営する金融会社のオフィスから電話をかけていた。
「それにあの女、どうする気だ」
「あの女でしたら、廃工場の奥でおねんねしてますよ」
「そうか」
「あのぉ、牧村先生を使って何しようと言うんですか」
「牧村環、新潟で有名な高級日本酒を製造している牛島酒造の関係者だと言う」
「その牛島酒造をどうしようと」
「牧村と言う蔵の責任者の娘を犯し、脅迫するのだ」
川村はそれを聞いて驚いた。話が違う。
「わたしはただ3000万円の一部を借金の完済に・・・矢口さん!」
「ごたごた言うな、わたしの言うとおりにしろ」
そう言って矢口は電話を切った。その光景を荒川まどかが見ていた。
「矢口?借金の完済?」
まどかは葵と校庭で立ち話。もちろん川村のことだ。
「ねぇ、川村さんが犯人だとして、あなたのおじさまが3000万円持ってたとしたらどうする?」
葵は考えた。
「うぅん、今日はパァ~ッと派手に行くわよ、なんてこと言いそう」
「そうね。とすれば、夜の街を探せばいいのよ」
「それは名案ね。みんなに話してみる」
一方、夏子は小野高広の妹の直美に話を聞いていた。
「お兄ちゃん、今朝銀行の人から色々と言われたみたい」
直美は泣いていた。
「知らないって言ってたけど、どういうことなの?3000万円盛岡学園に入るお金はどうなるの」
「3000万円は必ず取り戻します。お兄さんはシロですよ」
「えっ、そうなの?」
「お兄さんが横領を働いていないこと、それに3000万円と牧村先生を取り戻すこと、それが出来る人たちがいるんです」
直美は夏子の言葉を信じた。そして小野高広のアパートへ向かった。小野は黙って水を飲んでいた。
「3000万円なんて、ネコババしてないんだよ」
そこに夏子がやってきた。
「開いてるよ」
「こんにちわ、直美ちゃんがお世話になっている盛岡学園の横田と言います」
「妹の先生が、何の御用でしょうか?」
「実は3000万円事件のことで」
「終わったんだ、そのことは」
小野は夏子に帰ってくれと頼んだが、夏子は引き下がるどころか粘り強く話を聞こうとした。
「お願いです、あなたに罪はありませんから」
「何回同じことを」
ちょうどそのとき、ダイヤ商事と言う会社の人が訪ねてきた。夏子はすぐに出て行ったが、ダイヤ商事の社員は小野高広の首をロープで締めた。
「ふっ、とんだ邪魔者が入ったが・・・まぁいいさ」
直美がアパートに戻ってきたとき、部屋が暗かったので明かりをつけてみると、首を吊って死んでいる兄の姿が目に飛び込んできた。
「お、お兄ちゃん!?お兄ちゃん、お兄ちゃん・・・」
直美は泣き叫んだ。
翌日、東北日報の記事で夏子は小野高広の首吊りを知った。
「嘘よ、小野さんがそんなことするなんて」
夏子は涙を浮かべていた。兄の身の潔白を証明できなかった悔しさもある。しかしそれよりも小野が自殺すること自体許せなかった。
「直美ちゃん、見捨てないでね。きっと仇はハングタンが取ってくれるから」
そこへ呼び鈴が鳴る。
「横田夏子さんですね、警察のものです」
夏子は恐る恐るドアを開けた。するとそこにいたのは原俊彦だった。
「原君」
「やぁ先生。大変だったでしょう」
「直美がかわいそう」
実は俊彦も小野高広の横領疑惑を追っていた。盛岡ジャーナルに載った俊彦の記事を見た夏子は驚いた。
「3000万円の小切手を振り出した矢口竜之介、彼は元阿部組の企業舎弟で今はダイヤ商事と言う金融会社を作ってる」
「え、ダイヤ商事?」
「そうだ、知ってるの?」
「昨日小野さんのアパートに来たのよ」
小野の首吊り自殺を知った川村が小野のアパートにやってきた。
「このたびはどうも、ご愁傷様です」
川村が焼香している間にまたダイヤ商事の社員がやってきた。
「川村さん、こちらでしたか。ささ、おもてへ」
川村はダイヤ商事の小田から小野高広の保険金の話を知る。
「小野が死んだら1500万ですよ。借金の完済に充ててもまだまだ余る」
「でも、だからと言って」
「こっちには切り札がある」
小田が人質、つまり環のことを話した。
「あんたも協力者だ。絶対に忘れるなよ」
そう言って小田は川村と別れる。だが、この会話を俊彦が聞いてしまった。
川村はその夜市内のナイトクラブでブランデーをたしなんでいた。
「それにしても矢口さんはいい人だ。競馬の借金まとめて棒引きして、今じゃ低金利時代だかなんだかで利息圧縮なんて言って、おかげであいつの保険金の半額分で済むんだからな」
「あんたって、悪い人ね」
「しかし自殺するとはな、これで4500万円か」
「それを考えたのはあなたでしょ」
「おい、めったなことを言うな。誰か聞いてないだろうな」
「それより、新しい女ってどこにいるのよ。早く紹介して」
ホステスが川村にせがむ。
「あの小娘ならみたけの廃工場・・・いや、あそこは今は学園の用地だ」
その声をバニーガールに扮した夏子が聞いてしまう。
「3000万円を学園に渡したところで、まだ750万ある。これがわたしの取り分」
「もう、許せない」
再び清水町のマンション。夏子が川村の昨夜の行動を報告した。
「昨夜は大通りで2軒、菜園のスナック、計7時間の飲み歩きだったわ。750万あれば何でもできるって」
それを聞いた葵は机を叩いて怒った。
「川村さん、もう許せません!」
美雪、まどか、弥生も同意した。
「やっぱり」
「こうなったら・・・」
まどかは川村の電話を傍受できる盗聴器を準備していた。
「これで川村と矢口の関係を押さえるわ」
「それから、弥生は自動車整備室へ。牧村先生は奥のほうに眠ってるわ」
盛岡学園自動車整備室の奥に、サーキットのピットのような設備室がある。環はそこに囚われていたのだ。
「おい、はなせ、バッキャロー!」
そこに小田が数人を連れてやってきた。男たちは口かせを外したが、小田は環に屈辱的な命令を出した。
「お嬢さん、ここで脱げ」
環はもう我慢できなかった。
「そ、そんなことさせないで」
すると小田は服を脱ぎ、環に迫った。
「お前も脱げ、脱げ・・・」
と、ここで美雪と弥生がやってくる。
「先生にみだらなマネはさせません」
「あんたたちだったのね、先生を誘拐して3000万円奪ったの」
小田が返答する。
「ああ、俺たちがやったさ。だけど川村さんも共犯だ」
「川村って、事務の人?」
「その事務の川村がうちの社長と腐れ縁なのさ。お前ら雑魚に関係ない話だ!」
その隙に弥生は環の救出に向かう。しかし環のロープを解いたところで男たちに取り囲まれた。
「な、何するのよ」
環が立ち上がる。それを見て男たちは一斉に環を蹴飛ばす。弥生も小田に4発蹴りを入れられた。
「ふっ、小ざかしい」
だが環は起き上がった。そして金属棒を振り回した。それを見て美雪がかんしゃく玉を小田に投げつけた。
「どうかしら、かんしゃく玉のお味は」
さらに愛里も駆けつけた。
「先生、それに先輩たちも」
「田村!」
男たちは愛里に飛びかかるが、それを見て環は目潰しの煙幕を張った。
「弥生、しっかり」
「裏から逃げましょ」
弥生はジュラルミンケースを握ったままだった。
「先生…先生」
保健室で夏子が養護教諭の鈴木淳子と弥生の看病をした。
「牧村先生は大丈夫?」
「あの先生なら大丈夫・・・なわけないか」
隣のベッドには環がいた。夏子はすぐに環のほうの看病をすることに。
「弥生ちゃん、大丈夫。あの人たちは悪い人なのよ」
「・・・悪い、人。本当に悪い人」
そこに小野直美が入った。
「直美ちゃん、どうしたの?まだ憂鬱なの」
直美は兄の自殺が信じられず、欝気味だった。
「直美ちゃんのために、牧村先生は・・・」
夏子が直美に環のことを話す。直美はさらに泣いてしまった。
「横田先生、うそつき」
夏子は直美に言われたくない一言を言われてしまった。
「お兄ちゃんを返して!」
「直美ちゃん」
直美は保健室を出た。夏子は追いかけようとしたが、環が引き止める。
「お姉ちゃん・・・」
「マッキー、大丈夫じゃん」
夏子は環の回復ぶりを驚いていた。
さて、まどかは川村の通話を傍受していた。
「矢口さんの紹介ですよ、これほどのうまい話はありません」
川村はメモを取りながら電話していた。
「おたくより質のいい教材を集める金は、たんまりとあるんですよ」
「金、金、金、金の亡者よ」
そして昼休み、川村の電話に矢口からの連絡が入った。
「こっちに電話するなとあれほど念を押したのに」
「いや、小田から連絡があった。あの女、逃げたそうじゃないか」
「すいません、油断してました」
「そんなことで済むと思っているのか」
「いやぁ、ですがその、借金の完済受け取りはいつになりますか」
「それは次の電話で知らせる」
保健室でハングタンたちは川村と矢口の会話を聞いた。
「つまり、借金完済で小野の保険金は山分けなのよ」
「それに3000万円のために詐欺まがいのことまで・・・」
「まさか3000万円に手をつけてないだろうね。念のため廃工場を見て来い」
矢口のこの声を聞いた弥生はびっくりして倒れてしまう。
「弥生ちゃん!」
「バッキャロー!弥生をあんな目に遭わせて」
「直美のお兄さんを殺し」
「学園の金を私するなんて」
「許さないわ。ハングタン、処刑開始よ!」
夏子は粉ミルクを全員に振る舞い、乾杯した。
「よぉ、お嬢さん」
俊彦が校門で待っていた。
「俊彦さん」
「処刑開始か」
俊彦は携帯電話とボイスレコーダーを夏子に手渡した。
「相手は一筋縄でいかない。だが・・・」
「何か考えてるんだ」
「バレた?」
そして俊彦はハングタンたちと別れた。
「先生、頼んだよ」
夏子はさっそく携帯電話で川村に電話した。
「もしもし・・・あぁ、横田先生」
「おりいって相談なんだけど」
「相談?」
夏子はここでボイスレコーダーのスイッチを入れた。
「お、俺はやっちゃいない」
「だ、誰だ」
小野の呪いを演じているのは俊彦である。
「川村嘉男、お前がやった」
「何だと。名を名乗れ!」
しかしそこで電話を切った。次は矢口である。
「矢口さん、あなたは仏のような人ですね。ならばいっそ、仏様になってみますか?」
「な、何を」
「矢口さん、わたしは今すぐにもお迎えに上がります」
「誰だ。まさか・・・」
「そう、そのまさかです」
「金か、それとも」
「死人に金なし、ってね」
「何が言いたい」
「今すぐ3000万円の取引がしたい。廃工場、もとい盛岡学園自動車機械整備棟へ来られたし」
「わかった」
矢口は慌てて川村に電話した。
「川村です」
「金出来たようだな」
「は、はい」
「すぐに廃工場へ向かう」
「お待ちしてます」
「ところでだ、3000万円の取引をしたいって言うのはあんたか」
「し、知らないよ」
「ならいいが、どうも録音テープとかゆすりのネタはたっぷりあるそうだ」
「録音・・・まさか」
川村は電話機の裏を調べた。すると盗聴器が見つかった。川村はすぐさま盗聴器をちぎって捨てたが、すでに手遅れだった。
整備棟に矢口たちダイヤ商事の連中がやってきた。
「川村!3000万円はどこだ」
小田が整備棟のドアを蹴破ろうとする。しかしどこからともなく声が聞こえる。
「川村嘉男!矢口竜之介!4500万円は我々が預かった」
俊彦のこの声に川村も矢口たちもいきり立った。
「ちくしょう、騙したな」
「だまされるあんたが悪いのよ」
そしてハングタンたちが現れる。
「その金は学園の金よ!」
「返してもらうわ」
「な、何なんだ。お前たちは」
「あたしたちはハングタン」
「あんたたちのような悪党を制裁する処刑人よ」
「ハングタンだと?」
「所詮はガキのお遊戯だ」
そう言って矢口たちは刃物をもってハングタンに襲い掛かった。しかし美雪の回転ラリアットや葵のクロスボウの相手ではなかった。
矢口と小田は環と格闘。矢口は長ドスで環の腹を刺そうとしたが失敗、逆に矢口が小田と衝突して延びてしまった。
「バッキャロー!!」
川村はジュラルミンケースを持って逃げようとしたが、そこに弥生が現れた。
「川村さん、まさかあなたが」
「・・・すべては矢口さんへの借金返済なんだ」
川村はハングタンたちに囲まれ、白状してしまった。
「みんなわたしの考えたことだ」
「よしよし」
午後の業間時間、夏子は直美に手紙の便箋を渡した。そこにはこう書かれてあった。
「放課後、お兄さんを殺した犯人をお見せします」
そして放課後、みたけの通りを川村と矢口が引き回された。
「矢口さんが小野さんを締めたんだ」
「違う、あれはうちの木村が」
「でも指示はあんたが出したはずじゃ」
「お前こそ4500万円ネコババするつもりじゃなかったのか」
「違う!750万円は立派な俺の金だ」
「ふざけるな、ずさんな経理だとか言われたくないから見栄を張ってるんだろ」
「冗談じゃない」
通行人は二人に罵声を浴びせた。そして直美は弥生の胸にすがり泣いてしまった。