「代替医療解剖」(新潮文庫) | 多摩川のふもとで犬や猫と暮らしている

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動物病院 EL FARO 院長が日々の診療の中で考えたことや思いついたことを書いています。

内容は、動物や獣医療に関することや、それ以外のことも、色々です。

まったくブログを書く暇が無く、、、いや、作ればあるのですがその気にならない。。。
というのも、現在ある専門書(英語)を丸々1冊翻訳中なのですが、これの〆切に追われてます。〆切、と言っても最終的な〆切が決まってるだけで、要はそれまでに全部を終わらせれがいいのですが、そのためには毎月自分で決めた〆切までに、予定の分の翻訳が終えなければならないのです。最後の1ヶ月でまとめて一気に訳すなんて芸当は到底できませんから、、、今年~来春くらいまではずっとこれに追われた状態になりそうです。(^_^;)

さらに、セミナーのスライド作りとか色々宿題があって、なかなか他のことをする時間が無いのですが、そんな合間を縫って最近読んでいる本を紹介します。

「代替医療解剖」(新潮文庫)という本です。友人(同業者ではない)に勧められて、面白そうなので読んでみました。
代替医療解剖 (新潮文庫)/サイモン シン
¥882
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まだ半分くらいまでしか読んでいないので「書評」などというものは書けないのですが、「代替医療」と呼ばれるもの(鍼灸、ホメオパシー、ハーブ療法など)に興味のある方、実践しようとしている医師や獣医師は必読だと思います。

決して代替医療を「非科学的だ」という理由で批判する目的で書かれたものではなく、それが代替医療であろうが西洋医学であろうが東洋医学であろうが民間療法であろうが、科学という同じ土俵に乗せて「真実は何か?」ということを徹底的に、先入観なく、あくまでフェアな態度で吟味しようとしていることろが素晴らしいです。だからそれぞれの代替医療における理論体系の科学的な検証というのは、なされていません。それはむしろこの場合、無意味だからです。理論はどうあれ、効くか効かないか、ということだけをできるだけ純粋に、科学的に検証するのが本書の目的らしいからです。

一般の方はよく以下の様な間違った考えを持っていると思います。

・西洋医学は科学的理論に基づいた学問であり、診断や治療法は科学的に実証された結果に基いている。

・東洋医学を始めとする代替医療は歴史と経験に基づいた、西洋医学の足りない部分を補完する“もうひとつの医学”である。


しかし実はこれ、あまり正しくないんですね。
現在の医学の主流である「西洋医学」も、元々は経験学であり、17~18世紀ごろのヨーロッパでは、病気で弱っているヒトから何リットルも血液を抜く瀉血という治療(?)をしたり、水銀やヒ素を飲ませたり、ということが普通に行われてたそうです。だから、何もしなければ治ったかもしれないのに、医者にかかった裕福なヒトほど死んでしまう、という状況だったようです。

そもそも西洋医学が科学的であり、東洋医学が哲学的、という分類も怪しいですね。代替医療の代表格であるホメオパシーとかハーブなどはドイツなどの西洋が発祥ですから、東洋と西洋で分けるのが本来は間違っているんだと思います。ま、イメージ的には捉えやすいですけど(^^)

でもまぁ、とりあえず便宜的に「西洋医学」と「代替医療」という用語をここでは使います。

上記のように、西洋医学もその昔はかなり非科学的だったんです。ただ、代替医療との違いは、近世になって「医学は科学的であるべきだ」という志を持った医師や研究者たちが、自らの知識・知見に対して科学的な検証をするようになったんですね。ここで大切なことは、「事実は事実として認める」という態度です。間違っているものは、いくら伝統や経験の積み重ねがあっても、「間違いである」と認めることです。そしてグレーなものはグレーなものとして、さらなる正確な検証を繰り返す。正しいものは、「本当に間違いがないか」とさらに正確な批判的吟味を加える。そうしてやっと得られた事実だけが、医学的真実である(この場合の「真実」とは哲学的な深い意味ではなくて、その治療法が有効か無効か、患者にとって有益か無益か、という非常にシンプルなものです)。

その結果、明らかになった間違いを改めることで、医学は「科学」へと進化できる訳です。実際にはまだ進化の途上です。でも現代医学は、出来るだけ「科学的であろう」という態度を示し続ける限り、医学は進歩を続けられるんだと思います。

実際に、私達の身近な獣医療でも、いままで標準治療として使用されていた薬剤や治療法が「実は効いていなかった」とか「無意味な行為だった」とか「却って有害だったのでは?」という理由から淘汰され、変更になる例は枚挙に暇がありません。椎間板ヘルニアの治療だって、骨折の術式だって、心臓病の治療法だって、糖尿病の管理方法だって、2~3年前とはかなり変わってたりします。ま、それだけ医学が不完全だ、ということもできるかもしれませんが、修正を受け入れ自らブラッシュアップしている限り、医学は信用に足る学問だ、と私は考えます。

これと対照的なのはいわゆる「代替医療」です。
代替医療の多くというのは、鍼とかホメオパシーなどは特にそうらしいのですが、その昔にある創始者が考え(あるいは閃き)、彼が編み出した手技(主義)や理論を忠実に守って行くのが普通らしいんですね。つまり発祥した時点で理論体系がすでに“完成している”訳なんです。だから以後これを実践しようとするヒト達は、先駆者の教えを忠実に覚えて学習し、それを目の前の患者に当てはめれば良いということになります。だから間違いは認めにくいし、改変・改定も起こりにくい。というか、そもそも科学的検証を体質的に受け入れ難い、という傾向があるみたいです。

でもですね、代替医療が「非科学的だから」という理由で退けるのは科学的態度ではないので、背景となる理屈や理論はどうであれ、実際に何がしかの効果があるなら「もうひとつの医療」として受け入れられるべきではないか?そういう目的で書かれたのが本書です。

最近は動物医療の業界でも鍼灸やホメオパシーなどの代替医療が“流行り”ですが、ご興味のある方は是非、ご一読をオススメします。


あ、「書けない」と言いながら、随分書いてしまった・・・(^_^;)