ジェイン・オースティン『高慢と偏見』 | 文学どうでしょう

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ジェイン・オースティン(中野康司訳)『高慢と偏見』(上下、ちくま文庫)を読みました。

ジェイン・オースティンは、ぼくが最も好きな小説家の1人です。長編は全部で6作品あって、どれも面白いですが、ぼくが特に好きなのがこの『高慢と偏見』です。ジェイン・オースティンの代表作です。

『高慢と偏見』は色々な出版社の文庫で出ていますが、翻訳のよしあしはともかく、同じ訳者で6作すべての訳が出ている、ちくま文庫がおすすめかもしれません。

『高慢と偏見』を読んでみて、最初はちょっと軽い翻訳かなという印象もありましたが、全体を通してみると読みやすくてよかったと思います。

『高慢と偏見』は、『プライドと偏見』というタイトルで映画にもなっています。

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映画も悪くないんですが、ぼくは原作に思い入れがあるせいか、原作の小説の方が好きですね。いくつか理由があるにはあってですね、少し古い時代の物語ですから、映像にするとコスチューム・プレイといって、いわゆる時代劇になってしまうわけです。そうすると独特の重みのようなものが印象として加わってしまいます。

それから、もう一点。ダーシーという登場人物がいます。映画のダーシーも、それほど悪くはなかったんですが、映像はやっぱりイメージが固定されてしまいますから、小説の方が抽象的なよさがあって、ダーシーという人間の個性が、映像よりも逆によく分かる感じがあります。内面のイメージが掴みやすいというか。

もっと簡単に言えば、映画は単純なラブストーリーになってしまっていて、映画だけ観ても目新しさというのはあまり感じられないんですが、小説にはジェイン・オースティンならではの面白さがあるような気がする、ということがあります。

これはうまく説明できないですし、原作に思い入れのあるぼくの単なる勘違いということもありえますけども、小説には批評眼や独特のユーモアが光る感じがするんです。なにより読んでいてずば抜けて面白いんですね。

ストーリーも確かにそうですが、ストーリーの展開がいいだけではなくて、文章を読む楽しみ、そして小説を読む楽しみのようなものを、感じさせてくれる小説なんです。

ちなみに、『ブリジット・ジョーンズの日記』に出てくるダーシーは、この『高慢と偏見』のダーシーの影響を受けているらしいです。堅物で傲慢に思えるけど、実は・・・というキャラクター。

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そもそも、映画版ではコリン・ファースがキャスティングされていますが、コリン・ファースのドラマの当たり役が『高慢と偏見』のダーシー役だったらしく、かなり狙ったキャスティングです。

あと変わり種としては、こんなのもあります。『高慢と偏見とゾンビ』。

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『高慢と偏見』はもうパブリックドメイン(著作権切れ)になっていることもあって、原文にゾンビをぶちこんで、ゾンビのいる世界でのラブストーリーに仕上げたトンデモ本です。

なんだよこれ~とか言いつつ、ぼくは読んじゃいました(笑)。ゾンビ好きの人はぜひぜひ・・・と言いたいところですが、せっかくなのでやっぱり原典を先に読んでみてください。

さてさて、この辺りから内容に入っていきます。

簡単にどんな話かというと、そこそこの家庭の5人姉妹の次女、エリザベス・ベネットと大金持ちのダーシーのラブストーリーです。

エリザベスの家は土地も持っているし、地方ではそこそこいい身分なんですが、ダーシーから見ると田舎者にすぎないわけです。それに加えてダーシーは人見知りというか、元々感情表現が得意ではないので、無愛想で傲慢な人間に見えてしまいます。「高慢」なキャラクターに見えるダーシー。

一方で、エリザベスというのは、それほどの美人ではないんですが、魅力的な部分はあって、なにより頭の回転が早いんです。人間観察が得意で、自分の考えをはっきり持っていて、ちゃんと自分の意見を言う、芯の通った女性です。皮肉というか、独特のユーモアセンスがあって、何度もダーシーをやり込める場面があります。

エリザベスにとってダーシーの第一印象は最悪で、なんて嫌なやつだと思うわけです。「偏見」の目で見るエリザベス。「高慢」と「偏見」でぶつかりあい、水と油の2人。これが水と油で終わってしまったらお話にならないわけで、この身分も性格も全く違う2人のラブストーリーだなんて、もうたまらなくいい設定じゃないですか? もうたまりませんよ。

作品のあらすじ


田舎の地主、ベネット一家の近く、ネザーフィールド屋敷にあるお金持ちがやって来ることになったところから、物語は始まります。

ベネット一家の母親は、女性らしい女性というか、娘を嫁にやることしか考えてないんです。そこで、早速夫に挨拶に行くよう促します。

やって来たお金持ちは、ビングリーという若者で、妹たちやダーシーという親友と一緒に来たんです。早速交流ができて、舞踏会が開かれます。ビングリーとベネット家の長女ジェインは、すぐに打ち解けて心を通わせました。

ジェインというのは本当に素晴らしい女性で、美しいことはもちろん、人を疑うということを知らないんです。優しく、忍耐強く、いつも他人のことを考えているような女性です。

舞踏会でのビングリーの評判はかなりよかったんです。陽気で気さくで大金持ちなのに飾らない人柄なので。しかし、それ以上によかったのがダーシーです。美男子で、大富豪のダーシー。誰もが注目する存在です。

ところが、ダーシーはすぐに、みんなの反感を買ってしまいます。態度が偉そうで、ちっとも楽しそうな顔をしないので。周りからすると、お高く止まりやがってという感じです。

男性の数が少ないのに、ちっとも踊ろうとしません。ビングリーがジェインの妹を紹介してもらおうかとダーシーに言うと、こんな場面になります。

「どの人?」ダーシー氏はうしろを振り返ってエリザベスを見たが、視線が合うと、すぐに目をそらせて冷たく言った。「まあまあだけど、あえて踊りたいほどの美人じゃないね。それにぼくはいま、ほかの男から相手にされないお嬢さまのお相手をする気分じゃないんだ。きみも早くあの美人さんのところへ戻って、かわいらしい笑顔を楽しみたまえ。こんなところにいたら時間のむだだ」(上、22ページ)


ああ! ダーシーやっちまったなあという感じです。当然エリザベスはむっとしますよね。ライオンの尾っぽを踏んづけたようなもので、もうここからエリザベスはダーシーが大っ嫌いになるわけです。

ビングリーとジェインは仲良しになっていく。ベネット家の母親は大はしゃぎ。もう周りに結婚が決まったような話をしたりします。

ある時、ジェインがビングリーの家に遊びに行っている時に、具合が悪くなって寝込んでしまうことがあったんです。エリザベスはジェインのことが心配なのですが、丁度馬車がないので、歩いてビングリーの家に行くんですね。

ところが、その行動がビングリーの妹たちの顰蹙を買ってしまいます。女性がそんなことをすべきではないと。ところがこの辺りから、ダーシーのエリザベスを見る目が変わっていきます。

エリザベスはダーシーのことが大っ嫌いなので、冷たく当たるわけですが、その話し方には独特のユーモアがあって、話す内容は皮肉めいたことなんですが、頭の回転の早さが見て取れるわけです。

ジェインとビングリーが距離を縮めている間に、エリザベスにも求婚者が現れます。コリンズという牧師。ベネット家に男の子はいないんですが、なんでも財産相続の決まりがあって、男の子がいない場合、親戚に土地や財産が行ってしまうらしいんです。

その親戚がコリンズ。なので、ベネット家の父親が亡くなると、ベネット家の財産はコリンズが相続するわけです。そこで、コリンズはベネット家のお嬢さんと結婚すれば、自分にも伴侶ができるし、向こうも満足だろう、すべて万事解決! と思ってやって来たんです。

初めは長女のジェインに目をつけるんですが、ジェインはビングリーと結婚しそうだと聞いて、次女のエリザベスに狙いを変えます。

コリンズはすぐさまエリザベスにプロポーズします。エリザベスは即座に断るんですが、コリンズは自分が断られると思っていないので、それを淑女のたしなみの態度だと思って全然話を聞きません。ベネット家の母親は、どうして承諾しないのかと怒り出します。

ベネット家の両親はうまくいってないということもないですが、夫は妻の頭が空っぽだと思って全然相手にしないんです。このエリザベスの父親も独特のユーモアがあって面白いです。たとえば、コリンズのプロポーズに関して、こんなやりとりがあります。

「まあ、こっちへ来なさい」エリザベスの姿を見ると、ベネット氏は言った。「大事な話があるので呼んだんだ。コリンズさんがおまえにプロポーズしたそうだね? それはほんとうかね?」エリザベスはうなずいた。「なるほど。それで、おまえはそのプロポーズを断ったんだね?」
「はい、お断りしました」
「なるほど。それで話はわかった。そしてお母さんは、この話はぜったいにお受けしなくちゃだめだと言うんだな? そうだね、おまえ?」
「もちろんです。もし断ったら、二度とこの子の顔なんて見ません」
「エリザベス、困ったことになったぞ。今日からおまえは、両親のどちらかと親子の縁を切らなくちゃならん。お母さんは、おまえがコリンズさんのプロポーズを断ったら、二度とおまえの顔を見たくないと言ってる。だがお父さんは、おまえがあんな男と結婚したら、二度とおまえの顔を見たくない」(上、194~195ページ)


こういうのぼく好きなんです。くすくす笑ってしまいます。ユニークじゃないですか?

誰もがビングリーとジェインがうまくいくといいと思っていたんですが、ビングリーは突然ロンドンに帰ってしまいます。それきり帰ってこない。ジェインは悲しみに沈みます。

ビングリーはなぜ、ジェインの元を去ってしまったのか?

一方、エリザベスには心惹かれる男性ができます。ウィッカムという美しく、爽やかで洗練された印象の軍人。このウィッカムが実はダーシーの知り合いで、ダーシーにひどい目にあわされた経験があるんですね。

無愛想で傲慢なだけでなく、ダーシーがひどいやつだということが分かります。ますますダーシーを軽蔑するエリザベス。

無愛想で「高慢」で、ウィッカムに対して、ひどいことをしたらしいダーシー。ダーシーを「偏見」の目で見て、軽蔑しているエリザベス。

身分も、性格も合わず、なんの接点もないはずの2人。ところがダーシーがエリザベスを見る目は以前とは変わっていて・・・ついに大きく動き出す物語。起こるいくつかの事件。やがて明らかになっていく真実。そして物語は大感動のクライマックスを迎えます。

ストーリーを楽しんでもらうために、ほとんど触りだけしか紹介してませんが、前半と後半で、ダーシーのイメージはかなり変わります。前半は叩かれっぱなしのダーシー。

もう完全にひどいやつのイメージです。それが変わるのか、変わるとしたらどのように変わるのか、という点に注目してみてください。

おすすめの関連作品


リンクとして、映画を紹介します。ぶつかりあう男女というテーマに関連して、腹黒い男女のラブストーリーを2本。

まずはコーエン兄弟監督『ディボース・ショウ』です。

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これはぼくが大好きな映画の1本で、何度観たか分からないくらい観てます。結婚詐欺の女(キャサリン・ゼダ・ジョーンズ)と弁護士(ジョージ・クルーニー)のラブストーリーなんですが、お互いにお金目当てで結婚するところがあるんです。

それぞれ腹黒くて、やがて本当に惹かれあっても、それは素直に言えないんです。この2人が本当におしゃれで、シェイクスピアのセリフで会話したりするんですよ。しびれます。おすすめなので、ぜひぜひ。

もう1本は、『10日間で男を上手にフル方法』という映画です。これも腹黒いですよ。

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男(マシュー・マコノヒー)の方は賭けで、女(ケイト・ハドソン)の方は雑誌の記事を書くために、あえてひどい付き合い方をするんです。女の方はこうしたら別れられるという記事を書くために、散々ひどいことをするんですが、男の方も賭けをしているから、ひどいことをされても別れられません。

腹黒い2人がやがて心から惹かれあっていくんですが、お互いを騙していたことが分かって・・・というラブコメ。面白いです。こういうの好きなんですよねえ。

まあ映画はちょっと脱線でしたけど、ぶつかりあう男女が恋に落ちるというのは、何回観ても、何回読んでも面白いです。

『高慢と偏見』はぼくがイギリス文学の中で最も好きな小説です。うまく魅力が伝えられなかったかもしれませんが、本当に1人でも多くの人に読んでもらいたい作品です。興味を持ったらぜひ読んでみてください。

難解さは全然ありません。ユーモラスで、ドラマティックで、面白いです。ダーシーいいですよ。不器用で。すごくいいです。おすすめですよ『高慢と偏見』。ぜひぜひ。