宮部みゆき『模倣犯』 | 文学どうでしょう

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模倣犯1 (新潮文庫)/宮部 みゆき

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宮部みゆき『模倣犯』(全5巻、新潮文庫)を読み終わりました。Amazonのリンクは1巻だけを貼っておきます。

いや~、かなり時間がかかってしまいました。実はずっと読んでいたんです『模倣犯』。

ぼくはわりと安易に面白いとか傑作だとか言っちゃう方ですが、また言いますよ。これは傑作です。まさに金字塔と呼ぶにふさわしい作品だと思います。

えっ、もう知ってるよって? そうですか。ぼくは初めて読んだんです。

これは推理小説ではないんですよ。限られた空間で犯人を探していく話ではなくて、様々な登場人物が登場する群像劇かつ、人間ドラマになっています。

物語は、公園で女性の片腕が発見されるところから始まります。それを発見してしまった高校生、孫娘が行方不明になっている豆腐屋の主人、刑事たち、ルポライターの前畑滋子と、様々な視点で事件の発生が丁寧に描かれていきます。

最初の方は、視点が複数に切り替わるので、ちょっと読みづらい印象でした。

一人被害者が出て、それで終わりならまだよかったのですが、どうやら行方不明になっている女性にも犯人が手を下しているらしいことが分かる。

犯人がふざけたやつで、TVメディアにボイスチェンジャーを使って、電話したりするんです。事件は劇場型犯罪のようになっていく。

そしてあることが起こって、事件は収束をむかえたように見えるんです。

ここから先のあらすじはあまり書きませんが、ここからが宮部みゆきの真骨頂なんです。視点が変わって、ある人物の話が描かれていきます。

事件は思わぬ展開をむかえ、そしてルポライターの前畑滋子が事件の真相に追っていく。そういう話です。

事件の真相自体はあまり大したことはないというか、犯人あて自体は問題ではないんです。いかに犯人を追いつめていくか。そこが抜群に面白いんです。特にタイトルの意味が分かる瞬間ですね。あそこはすごくいいです。手に汗握る興奮ですよ。

刑事や前畑滋子が決して完璧なヒーローじゃないのがいいんです。

みんなが悩みつつ、色々なものを抱えながら、それでも悪に立ち向かっていくんですね。天才的なひらめきを持つ探偵はいませんので、普通の人が、普通の人なりにがんばっていきます。

群像劇だけに、物語に厚みがありますし、犯人像も決して薄っぺらくないんです。どこかしら読者は犯人に共感できなくはない。心理的にまったくの拒絶はできないはずです。

そうした巧妙な作り、メディアを使った劇場型犯罪、群像劇としての人間ドラマ。読み終わると、じんわりとした感動のようなものが胸の中に広がっていきます。

こうした作品を書ける作家って、本当に少ないと思います。ポップさや、物語としてのかっこよさを求めないところでの、ある種の頂点なんじゃないかと。

前半はちょっととっつきづらいですが、途中からすごく面白くなりますので、読んでない人はぜひ読んでみてください。傑作ですよ。