サン=テグジュペリ『ちいさな王子』 | 文学どうでしょう

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ちいさな王子 (光文社古典新訳文庫)/サン=テグジュペリ

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サン=テグジュペリ(野崎歓訳)『ちいさな王子』(光文社古典新訳文庫)を読みました。

『星の王子様』の光文社古典新訳文庫版です。『星の王子様』は少し前に新訳ブームがあって、たくさん新しい訳が出ました。どれがよいかはぼくも分かりません。

『ちいさな王子』は、サハラ砂漠で、飛行機が故障してしまった〈ぼく〉が、王子と出会う話です。

「おねがいします……。ヒツジの絵を描いてよ!」(12ページ)と王子は言うんです。

それから王子が、王子の星について話してくれます。バオバブという木についてや、美しい夕日について。たった一輪しかない花について。

王子が回ってきた星の話もしてくれます。王様やうぬぼれ屋、のんべえ、ビジネスマン点灯係、地理学者のいる星など。

そうしてようやく王子は地球にやって来たんです。地球の話はあえて触れませんが、キツネの名台詞だけは、引用しておきます。

「さよなら。じゃあ、秘密を教えてあげよう。とてもかんたんだよ。心で見なくちゃ、ものはよく見えない。大切なものは、目には見えないんだよ」(112ページ)


う~ん、深いですねえ。

やっぱり一番いいのは、王子が花を大切に思っていることなんですよ。どこにでもある花じゃなくて、王子の花だから。自分の領域に引き入れることによって、なんでもないものが特別なものになる。それって、もう愛ですよね。

王子が地球でどんなものを見たかは、あえて触れませんので、楽しみながら読んでみてください。

最後のところは、明らかに人間の人生の中の、ある出来事を描いていると思うんですよ。思わず涙しそうになります。

ファンタジーという感じではなく、寓意というか、この星はこんなことを表しているんだ、みたいのもはっきりしない作品ではあるんです。

ところが、この短い、しかもわけの分からない話に、夢中にさせられてしまう。それはきっと、誰しも心の中にちいさなこどもがいるからなんだろうと思います。

ぼくらがまだこどもだった頃、当たり前のことがまだ当たり前でなかった頃の、その感覚がなんとなくよみがえるんですよ。

楽しさや、ユーモラスさだけではなく、孤独や切なさなど、様々な感情の要素が、物語全体に散らばっている感じです。特別なストーリーがあるわけでもないんですが、何故か心に染み渡ってくるものがあります。

まだ読んだことがない方がいたら、すごくおすすめですよ。ぜひぜひ。まだ全然間に合います。

もし読んだら、恋人や友達にヒツジの絵を描いてあげてください。ヒツジの絵じゃなく、ヒツジが入ってるやつの方です。読んだ人は分かると思いますけども。

あとは、相手の方にユーモアセンスがあるかどうかで、場が盛り上がるかどうかが決まりますね。お試しあれ。