2006年。アメリカ。"GRAY MATTERS".
  スー・クレイマー監督・製作・脚本。
 8年も前の映画がDVDストレートながらも新作として発売される。この作品はカルト映画の一種で一見平凡なラブコメみたいだが、完全なレズビアン映画で、ゲイの人々の共通の趣味である映画に対する愛情も強く、マニアックな映画ネタが全編に散りばめられているので、ゲイ的なものに寛容な映画ファンなら楽しく見ることが出来る。
 スクリューボール・コメディと呼ばれる早口の会話劇を中心にする喜劇なので、字幕ではほとんど会話の内容に追いついていかない、もどかしさが残る。一流の声優を使ったテンポの良い吹き替え版で見てみたかったが、キャストの地味さから売上金額を考えると無理な願いなのかも知れない。

 マンハッタンで兄のサム(トム・キャヴァナー)と暮らす広告代理店勤務のグレイ(ヘザー・グレアム)とは仲の良い兄妹で、周囲の人々は二人を恋人同士だと間違えるほどにいつも一緒にいる。
 社交ダンスを愛する兄妹の共通の趣味であるMGMミュージカルのポスターが部屋に飾られたりしている様子から、兄のサムはゲイなのではないか、と疑わしく思っていると、ある日、公園で知り合った美貌の動物学者チャーリー(ブリジット・モイナハン)に一目ぼれしたサムは、デートに出かけた翌朝にはチャーリーにプロポーズして二人の結婚が決まってしまう。

 兄の突然の決断に戸惑うグレイだったが、兄が好きになった女性であるチャーリーのことをグレイも自然に好きになっていき、結婚前夜のパーティーで泥酔したグレイとチャーリーはいつの間にか抱き合ってキスしてしまった。混乱しながらもグレイは自分がゲイであることに気づく。
 ゲイであることに気づいてから深刻な悩みや苦しみ、周囲の無理解と直面する、といったことはニューヨークが舞台なので全く起こらない。
 ひたすら軽いシットコム風な描写でレズビアン賛歌のクライマックスまで突っ走るだけの映画だったが、シシー・スペイセクやアラン・カミングなどの芸達者な脇役の効果もあって、まあまあ楽しい。
 ゲイっぽい俳優が次々に登場する中で主演のヘザー・グレアムは全くゲイには見えないがセクシーではない点は多少ゲイっぽいのかも知れない。ゲイの人々にも人気のある女優らしく、ヘザー・グレアムの人間としての魅力、人柄の良さ、聡明さが物語を引っ張る最大の力だった。
          IMDB

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 8年前の作品なので、現在は44歳のヘザー・グレアムも撮影当時は30歳代半ばで若々しい。
 作品の最大の見せ場は、1946年の超カルト映画、『雲流るるはてに』というミュージカル映画のダンス場面をヘザー・グレアムとブリジット・モイナハンとが再現するシーンで、映画の完全コピーを成し遂げており、相当のハードなレッスンを受けたのだろう。日本未公開の映画でそんな映画の存在さえ知らなかったが、有名な映画らしい。

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 ヘザー・グレアムが許されざる恋に悩む相手役のブリジット・モイナハンの黙って立っていれば知的で聡明そうなな顔立ちの美女だが、しゃべりだしたとたんにバカっぽさが全開になる感じが残念だった。これではヘザー・グレアムが恋する相手という役割が維持出来そうにない。
 兄のトム・キャヴァナーも地味すぎて印象が弱い。モリー・シャノンというどこかで見かけた女優が面白くて助かった。

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