2013年。アメリカ。"The Conjuring".
  ジェームズ・ワン監督。
 『インシディアス』でも素晴らしかったパトリック・ウィルソンと、『エスター』のイメージが強烈なヴェラ・ファーミガとの組み合わせに新鮮さはなかったが、この二人なら都会の恋愛喜劇や犯罪喜劇の方が似合いそうなぜいたくなカップルだった。
 へまを仕出かして窮地に陥った男の役が似合うパトリック・ウィルソンと、パートナーの不誠実さを敏感に見抜いて相手をじわじわと追い詰めていく女の役が似合うヴェラ・ファーミガだと、さまざまな映画に対応可能なので、可能性は無限大にありそうに見える。せっかくなら犯罪がらみのサスペンス調の恋愛喜劇あたりで見てみたい二人だったが、全米初登場第1位という栄誉を手にしたからには、その可能性はさらに拡大したことになる。

 今年のホラー映画は『ダークスカイズ』がベストワンだと思っていたら、同じチームが製作したこの映画がそれを軽く上回ってしまった。
 『ダークスカイズ』は素晴らしい映画だったが、ホラー映画なのに大して怖くないというのが最大の弱点でもあった。この『死霊館』の最大の特長は怖がらせることに全力を注いでいるので、非常に怖ろしいところにある。
 スティーヴン・キングのエッセイ集の中に、子どもの頃にベッドの下から手が伸びてきて足をさわられるという恐怖のあまりに、足を毛布で包まないと眠れなかったというエピソードがあり、自分もホラー映画を見た夜には同じことをしていたのを思い出したことがあった。
 この映画はそういう子どもの頃に感じた懐かしい恐怖心を想い起こさせてくれる。映画の中では、突然物音がしたり、部屋の暗がりに何かがいる気配がしたりする演出が繰り返されるだけなのだが、子どもが自分の想像力に縛りつけられて恐怖で身動きが取れなくなる過程に忠実に脚本と演出が寄り添っているので、見ている間は子どもの頃に戻って、幽霊はいると信じていた頃の懐かしい恐怖を経験することが出来た。

 ジェームズ・ワンのホラー映画マニアぶりも1971年という最適な舞台を得て、『エクソシスト』や『回転』、『ヘルハウス』、『たたり』などへのレスペクトに満ちており、カメラは家の中を動き回りときどきは手持ちカメラ風に揺れたりもするが、短いショットの積み重ねなので気にはならない。アップがほとんどない演出とセットへの手間のかけ方が格調の高さをもたらしている。
  IMDB
 公式サイト(日本)

conjuring01 冒頭のアナベル事件(1968年に起こった呪いの人形にまつわる事件)を解決するエピソードが映画のつかみとして効果的に観客を画面にくぎ付けにした。
 登場人物はすべて実在の人物で現在も健在な人が多く、物語はすべて事実に基づいている、という悪魔祓いに関連したホラー映画によくある宣伝コピーだが、ホラー映画であるからには、うそだろうと本当だろうとどちらでも良い。
 キリスト教文化圏の外部の眼から見ると、全部がうその作り話っぽいが、映画の本当の主題は『ダークスカイズ』と同じく、家族の愛の物語にあり、そこに真実があるかどうかが映画の価値を決定する。この映画ではウォーレン夫妻とその娘の物語とペロン一家の物語を平行させて描くことで、家族の愛のきずなという主題が3D映画みたいに飛び出して浮かび上がってきた。

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 1971年に合わせて映画の中でも当時のヒット曲がつつましげに流れていた。ゾンビーズの『ふたりのシーズン』(Time Of The Season)が聞こえてきたが、この曲は一体いくつの映画で使われてきたのだろうと思うほどに色々な映画で使われ過ぎている曲だが、聴こえてくるたびに相変わらず、クールでカッコいいのはすごい。ラース・フォン・トリアーの『DEAR WENDY ディア・ウェンディ』のテーマ曲にもなっていた他、青春映画、ラブコメでも多用されている印象があったが、具体的には思い出せない。

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