1964年。アメリカ。"TWO THOUSAND MANIACS".
  ハーシェル・ゴードン・ルイス監督・脚本・撮影。
 『悪の経典』を見て、『2000人の狂人』を思い出した。『悪の経典』とこの映画ではどっちがすばらしいのか、と考えても、素直に『2000人の狂人』のほうがすばらしいとは言えないところが、この名作映画の困ったところだろう。
 『2000人の狂人』は100年後にも残っているだろうと思われるホラー映画の古典と呼ばれる名作だが、どこがすぐれているのかと問われても、特に良いところなど何もないような気がする。
 2000人というわりには、低予算のために町の人たちは20人くらいしか出てこないし、何もかもがチープ過ぎる。しかし、この映画を見た後では、やっぱりこれは古典という呼び方がふさわしい傑作だったな、という気分になる。

 この映画にはバラク・オバマ大統領を筆頭とするアメリカの民主主義を信じたい人々がなかったことにしようとする、あるいは取るに足らないものとして無視しようとするアメリカ合衆国の物語が偶然そうなったようなふりをして描かれている。
 こういう映画は南部を舞台とした映画にはよくあるし、ホラー映画の設定には、南部はわけがわからなくて怖いという北部人の恐怖心を利用したものは数多い。
 クリント・イーストウッドが共和党を支持していることの秘密の一端はこの映画の物語とも共通しているような気がする。

 この映画が特別なのは、作為的なものではなく、適当にでっちあげたような物語の投げやりさ加減が絶妙で、全体にただようチープさと相まって、アメリカ恐るべしという感慨に至ることが、これはアメリカに限らず全世界に共通するもので自分の国にもあることだと気付かせる点にあるのかも知れない。
 『悪魔の追跡』という1975年製作のホラー映画を見たときにも似たような感触があったが、こちらは一種のポップアート映画としても鑑賞することができて、無邪気なふりをしているがふてぶてしく、絶対に理解しあえないだろう悪意が感じられるぶん力強い。
          IMDB
映画の感想文日記-2000maniac01
 アメリカ南部を訪れた北部出身の人々が怪しげな町にたどり着く。南部連合の旗をふって彼らを歓迎する町民たちはお祭りには北部出身の人々が不可欠なのだと意味不明なことを言う。
 この町は100年前の南北戦争のときに北軍によって村人たちが大虐殺された場所で、町の人々は奴隷解放の美名のもとに殺された人々が北部への復讐のためによみがえった幽霊であることが明らかにされる。
 陽気なカントリーミュージックを演奏しながら笑顔をふりまく町の人々と、同じアメリカ人同士でありながら会話がまったく成立しない互いに理解しあえない感じがなかなか怖い。
映画の感想文日記-2000maniac02
 北部の人々が趣向をこらした殺され方をするのが見せ場にはなっているが、低予算のためにせこい。
 スプラッター映画の元祖といわれるわりには、流れる血はペンキにしか見えない。
 出てくる人物も観客に共感されることを拒否するかのようにイライラさせられる人ばかりで、素直には物語を楽しませてもらえない。
 何だこれはと思いつつも単調な信号音を繰り返すだけのテクノ音楽を聴くときの感じに似ているような気がしないこともない。
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