1972年。フランス。"La Course Du Lievre A Travers Les Champs".
  ルネ・クレマン監督。デヴィッド・グーディス原作。
 2009年7月25日、その日は一部の犯罪映画ファン、ギャング映画ファン、フィルム・ノワールファンにとって、1年でもっとも重要な日となった。
 伝説の映画、『狼は天使の匂い』がついにDVDとして紀伊国屋書店から発売された日だった。

 1970年代に1度日本でも公開されたらしいが、その後ビデオにもDVDにもならず、長い間、伝説であり過ぎたせいで、待ちくたびれたところもあるが、監督は『太陽がいっぱい』や『パリは霧にぬれて』のルネ・クレマンだし、ハードなアクションを期待していたわけではなかった。
 それにしてもわけがわからない映画だった。しかし、素晴らしい。ひとつひとつの場面のわけなど理解できなくても良いものは良いに決まっている。
 ひとことで言い表すと、ロマンチック過ぎるギャング映画。

 物語はロマ(ジプシー)の子どもたちを誤って飛行機事故で死なせてしまい、命を狙われている男が、ギャング団に参加して、悪徳大富豪の証人誘拐事件を計画実行するが、ひとり、またひとりと殺されてゆき、全員死んでしまうまでの破滅型ギャング映画だが、
 ルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』が重要な主題のひとつとして利用されていて、オープニングから思わせぶりな鏡の移動シーンから始まる。
 よく晴れた昼間がほとんどの舞台なのでフィルム・ノワールとは呼べないが、ノワールの濃厚な雰囲気はある。
 ギャング映画といっても、対立する組織があるわけではなく、警察との銃撃戦がほとんどで、犯罪計画も大胆なようで、けっこうずさんな部分もあり、緊迫した犯罪サスペンスを期待すると裏切られる。
 面白いか面白くないかは好みによると思われるが、個人的には最高に面白かった。
      IMDb   trailer(予告編)
映画の感想文日記-champs1
 冒頭に階段を色とりどりのビー玉が転がり落ちる美しいショットに重ねて、「愛しい人、われわれもまた年老いた子どもに過ぎず、寝る時間が来たのを嫌がっているだけだ。」というルイス・キャロルのわかったようなわからないような言葉が引用される。
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 ロマから逃亡しているトニー(この当時はまだ若くカッコいいジャン・ルイ・トランティニャン)は、チャーリー(ロバート・ライアン)をリーダーとするギャング団のアジトにかくまってもらうことになる。
 デヴィッド・グーディスの原作は設定だけ残して、『鏡の国のアリス』に取りつかれた脚本家、セバスチャン・ジャプリゾのほとんどオリジナルの物語となっている。
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 誘拐の実行の前のギャング団ひとりひとりのエピソードが長く、実際はそちらが物語の中心だが、誘拐計画から実行までは急にテンポが速くなり、スリルとサスペンスも高まる。
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 誘拐するはずの人物はその場にいなかった。結局、悪徳富豪側と銃撃戦になり、まず富豪を射殺する。
 互いに傷を負う。
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 ギャング団の仲間に必ずいる美女たち。
 シュガー(レア・マッセリ)は愛を求め続けたが孤独な人生が長すぎたために愛を信じられなくなった女だった。最後に真実の愛を賭けて密告者の道を選んでしまう。
 ペッパー(ティサ・ファーロウ)は兄のポールを殺したトニーをうらむが、やがてトニーを兄の代わりのように慕いはじめ、やがてそれが愛に変わる。トニーと二人でニューオリンズへ逃亡する、というかなわぬ夢を抱いた女だった。
 ティサ・ファーロウはこの後すぐに女優業を引退し、現在まで看護士として働いているらしい。
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 致命傷を負ったチャーリーの最後の銃弾が火を吹いた。敵は皆殺しにした。しかし、仲間もおおぜい死んでしまった。
 芸術家肌で彫刻や絵画の腕はプロ級のリッツィオ(ジャン・ギャヴァン)、ボクサーくずれのお人よしのマットーネ(アルド・レイ)、ペッパーの兄ポール(ダニエル・ブルトン)、それぞれに印象的な死にざまを見せて、『鏡の国のアリス』と関連があるらしい謎のショットがはさみ込まれている。
映画の感想文日記-champs6
 警官隊に包囲されて、死を覚悟したチャーリーとトニーだったが、ここで冒頭のビー玉遊びに戻って、ふたりでビー玉を賭けて、看板を撃ち抜く遊びを始める。警官隊の銃撃が身体をかすめる中で陽気に笑い転げながら死出の旅に出かけるチャーリーとトニーだった。
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