2008年。ポニーキャニオン。
  マッコイ斉藤監督。
 かつてテレビ番組の企画で世界中をヒッチハイクで旅して回った元猿岩石の有吉弘行の1990年代後半の熱狂的な支持のされ方は、テレビの番組自体はそれほど熱心には見ていなかったものの、人々の話題ではたびたび語られていたので記憶に新しいが、あれからすでに10年以上が経過していた。
 その後の有吉弘行の転落人生の様子は、テレビで見かけなくなったので、すでに引退したのだろうぐらいに考えていたが、芸能界にしがみついて細々と生活していたらしい。

 2007年にユーラシア大陸ヒッチハイク後12年が過ぎ、有吉はもう1度自分自身の原点を見つめなおすために再びヒッチハイクの旅に出ることにした。
 ポニーキャニオンの出資による低予算の企画となったため、海外はあきらめて、人々の心が穏やかで優しいというイメージがある東北地方横断のヒッチハイクをすることになった。
 出発地点が山形県の酒田市で、ゴール地点が宮城県松島町というせこい距離での旅だという時点で不自然な印象があったが、
 これは有吉が自分自身を見つめなおすどころか、だましやすい東北地方の人々をペテンに引っかけて、ただで食事をごちそうになったり、寝泊まりさせてもらったりした、最低の人間と化した汚れ芸人、有吉弘行の記録映画となっている。

 演出担当のマッコイ斉藤という人物は、『ピューと吹くジャガー THE MOVIE』という哀しいまでにつまらなかった映画の監督で、主演の要潤が気の毒になったほどに失笑さえできない作品だったが、
 少人数のスタッフでの身軽で機動力のあるビデオ撮影だと本領を発揮するようで、
 この一種のフェイク・ドキュメンタリーでも面白い作品に仕上げることに成功している。

 しかし、この作品の面白さはフェイクの部分にあるわけではなく、撮影の時点では東北地方の人々を完全に詐欺に引っかけている有吉のペテン師ぶりと、だまされているとも知らずに有吉にやさしく接する人々の姿に、見てはならないものを見てしまったような居心地の悪い感覚を経験するところにある。
 それとともに、有吉のふまじめさに怒りを感じて次第に暴力的になってくるマッコイ斉藤も不思議なキャラクターとなっており、カメラさえ持っていれば何をやっても許されるのか、というメディア批判的な要素も作品に加わっている。
映画の感想文日記-ariyoshi1
 ヒッチハイクで心機一転して出直そうと殊勝に語る有吉だったが、長くつらい芸能生活は、有吉を汚れ芸能人へと変化させてしまっていることに気づいている人は少なかった。
映画の感想文日記-ariyoshi2
 スタート地点に哀川翔のスタイルで登場して、スタッフに注意される有吉だったが、有吉のふてぶてしさは農作業をしている老人にテレビ番組の取材のふりをして近づいてゆく態度にすでにあらわれていた。
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 ヒッチハイクをさせてくれた人に感謝するどころか、同じ事務所の片岡鶴太郎の画集を高額で売りつけて、小銭をかせごうとする有吉。
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 所ジョージや徳光和夫などの名前を思わせぶりに出して、これが地方の民家を取材したテレビ番組だと信じ込ませて、豪華な食事にありつく有吉。
 フェイク・ドキュメンタリーだとわかっていても、純朴そうな人ばかりを詐欺の餌食とする有吉の姿には次第にドン引きしていった。
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 ヒッチハイクどころか、こっそり電車に乗って移動していたことを知ったディレクターは怒りのあまり有吉に殴りかかり、Tシャツを引き裂く。
 カメラの背後にいるはずのディレクターの突然の暴力による介入によって、このドキュメンタリーが違った様相を見せ始めた。
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 ゴール地点で待っていたデンジャラスの安田はマッコイ斉藤と有吉との険悪なムードに戸惑うが、なぜか撮影したフィルムを商品化できるように編集を手伝わされるはめになった。
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