2008年。アメリカ/ドイツ。"VALKYRIE".
  ブライアン・シンガー監督。
 1944年に未遂に終わったアドルフ・ヒトラー暗殺計画、通称ワルキューレ作戦 について、計画の中心人物だったシュタウフェンベルク大佐の視点から描いた物語。
 ナチス政権下のドイツを描いた映画には近年、傑作が多く、『白バラの祈り ゾフィー・ショル、最後の日々』、『ヒトラー 最後の12日間』、『ヒトラーの贋札』といった傑作が次々に製作されてきたが、
 ついそれらの魂を揺さぶる傑作、あるいはルキノ・ヴィスコンティ監督の『地獄に堕ちた勇者ども』などと比較してしまいがちになるが、
 比較してしまうとこの『ワルキューレ』は感動的なまでにくだらない映画で、果てしなく薄っぺらで登場人物は単なる記号のようなものに過ぎず、
 似た題材の岡本喜八監督のずしりと心に響く大傑作、『日本のいちばん長い日』を見て、もっと研究してから製作にいどんでもらいたかった、という気になる。

 しかし、そんな歴史に残る傑作と比較すること自体が間違いで、この映画はハリウッド・スター、トム・クルーズ主演の娯楽サスペンス映画で、消費期限はせいぜい3ヶ月程度の商品だと思って見ると、結末は誰でも知っていることながら、かなりハラハラどきどきする場面もあって、腐ってもブライアン・シンガー、サスペンスの演出にはてなれたものがあったようだった。

 金はかかっているような印象があって、特にナチス高官の制服や、さまざまな小道具の細部までていねいに造型された美術はすばらしかった。
 ナチスへの協力者だったココ・シャネルがデザインしたともいわれるナチの幹部の制服デザインが他の国のものと比較しても圧倒的に洗練されていたことをあらためて感じとることができるので、
 ナチスの制服マニアなどの人々には最高の映画となるのかもしれない。
 NHKの『その時歴史が動いた』の中の再現ドラマ程度のものだと了解した上で見ないと、かなりきつい映画にはなっていた。
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映画の感想文日記-valkyrie1
 かなり豪華なキャストが集められていて、配役をみると、この映画は大作映画だったことに気づくが、実際に映画を見てみると、スケールはしょぼくて、B級サスペンス映画にしか見えないところが、逆にすごいことかもしれない。

 トム・クルーズを常に疑いのまなざしで見つめていたトム・ホランダーの憎々しい好演が光っていた。
 ヒトラー役のそっくりさん俳優は哀しいほどにしょぼい印象だった。ブルーノ・ガンツに再びヒトラー役を演じてもらうわけにもいかないので、ヒトラーは映さなかったほうがよかったような気もした。
映画の感想文日記-valkyrie3
 実在のシュタウフェンベルク大佐とゲルマン民族の血筋も引いているらしいトム・クルーズは顔のりんかくがかなり似ている。
映画の感想文日記-valkyrie2
 シュタウフェンベルク大佐と、彼と常に行動をともにするヴェルナー・フォン・ヘフテン中尉(ジェイミー・パーカー)との間には明らかにホモセクシャル的なにおいが濃厚にあったが、そのへんはあまり深入りせずにあっさりと描いてあった。
 ラストでヘフテン中尉はシュタウフェンベルク大佐に対して、軍人としての尊敬の心を超えた愛の感情を抱いていたことを告白するような死に様を見せる。
映画の感想文日記-valkyrie4
 抑えた色調の画面にも格調の高さがあってよかったのだったが、シリアスさと娯楽映画としてのバランスが非常に悪く、何か不思議な居心地の悪さを感じる映画だった。
 雑誌などでボロッカスにけなされているが、それほどひどい映画だとも思えなかった。とりあえず、1800円の入場料金程度の満足度はあった。
 しかし、今月はオーウェン・ウィルソンとジェニファー・アニストン主演という、ある種の人々にとっては夢のような映画、『マーリー 世界一おバカな犬が教えてくれたこと』という大傑作に間違いない映画が27日から公開される(出来れば犬はいないほうがありがたい)ので、この映画はそのための助走に過ぎない。