2007年。フランス/イギリス。"MISTER LONELY".
ハーモニー・コリン監督。
 今まで、この映画やこの映画を作った監督、ハーモニー・コリンの存在を知りもせずにいたことが不思議にさえ感じるほどの驚異的な大傑作だった。
 こんな映画はこれまで見たことがなかった、ような気がする。
 人より多くの映画を見てきたつもりだったが、ハーモニー・コリンも知らずに映画通のふりをしてきたとは、人々は陰であざ笑っていたのかも知れない。
 今となっては、ハーモニー・コリンを知らない人は映画について語ってはならない、という気さえしてきた。
 ハーモニー・コリンの名前が話題になることはあったが、どうせつまらない監督だろう、と無視してきた。
 オタール・イオセリアーニ監督をしばらく無視していたときと似ている。

 この映画を見て驚いたときの衝撃度は、これまででもっとも衝撃度の高かった、ゴダールの『気狂いピエロ』を初めて見たときのビックリの度合に近いかも知れない。
 19歳のときのデビュー作『KIDS/キッズ』や、『ガンモ』などをレンタル店で探したが、脚本担当の『ケン・パーク』しか見つからないので、すぐにAmazonに注文したことは言うまでもない。

 マイケル・ジャクソンのそっくりさん芸人としてしか生きられない青年が、あるときパリでマリリン・モンローのそっくりさん芸人と出会う。
 マリリン・モンローのそっくりさんは夫のチャップリンのそっくりさんや、その他のそっくりさん仲間たちとスコットランドの田舎で生活しており、いずれはそっくりさんショーを開催できるような劇場を作るのが夢だと語る。
 マイケルはマリリンに誘われてスコットランドを訪れ、ある悲劇を目撃することになる。

 この映画にはもうひとつのエピソードがあり、パナマで布教活動をするキリスト教の修道女が飛行機から落っこちて奇跡的に助かったことから、神父はこの奇跡を布教活動に利用しようとする。
 何度実験しても奇跡は起こり、バチカンのローマ法王のもとへの訪問を許されることになったが、
 残酷な悲劇が起こり、それはかなわなくなった。

 物語は、マイケル・ジャクソンのそっくりさんとして生きてきた青年が、マリリン・モンローとして生きてきた女性に出会ったことで、人生の転機を経験し、マイケル・ジャクソンをやめるまでが描かれている。
 作品にはいろいろな解釈があるのだろう、と思って、パンフレットも買ってみたが、結局、解釈してもしなくても、この映画は素晴らしいままなのだ、という当たり前のことに気づいただけだった。

 マイケルが、卵の殻に、出会ったそっくりさんたちの顔を描き、歌を歌った後に話しかける場面の素晴らしさは特に印象に残った。
IMDb             公式サイト(日本)
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 これまで、ウェス・アンダーソンは最高!、などと言っていたことがアホらしくも思われてくるほどの素晴らしい作品だった。
 当のウェス・アンダーソン監督が『ダージリン急行』で、壁のようなものに突き当たっているようにも見えたので、ハーモニー・コリンの復活は、ウェス・アンダーソンや、その他のインデペンデント系の映画監督に大きな刺激を与えることになるのは間違いないだろう、と思った。
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 マリリン・モンローとして生きてきた女性を『コントロール』 や、『エリザベス/ ゴールデン・エイジ』でも素晴らしかったサマンサ・モートンが演じる。
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 この映画は今年見た映画の中のベストの中のひとつになることは確実だろう。
 というより、過去10年ほどの映画の中でもベストになるような気がしてきた。
 しかし、映画監督のゲスト出演もあって、ヴェルナー・ヘルツォークやレオス・カラックスなど、個人的には苦手で、映画監督としての才能はゼロだと思い込んでいる監督が出演しているのが気になる。
 この『ミスター・ロンリー』も時間の経過とともに印象が変化していく、ということはあり得ない、とは思った。
 ダメ監督と仲が良くても、ハーモニー・コリンの才能に揺るぎはないだろう。
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 主演のマイケルを演じるディエゴ・ルナは初めて見かけたような気がしていたが、スピルバーグの『ターミナル』や、ジョン・C・ライリー主演の『クリミナル』にも出ていたらしい。
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 この映画ももうすぐDVDが発売されるらしいので、予約注文することにした。
ミスター・ロンリー
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ガンモ/ジェイコブ・レイノルズ
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