2007年。「実録・連合赤軍」製作委員会。
  若松孝二監督・製作。ジム・オルーク音楽。
 この映画をひと言で言い表すとすれば、今年の日本映画の最高傑作、というより、日本映画が誕生してから現在までの名作の数々の中でも、ひときわとび抜けた傑作であることには間違いがないはずだろう。
 ただし、この映画を傑作だと言ってしまうことには、違和感がある。のんびりした態度で映画鑑賞する類の作品ではないからで、似ているものをあえてさがせば、大島渚監督の『日本の夜と霧』 に感触が似ているかも知れない。
 すでに国際的にも評価されているように、世界規模で考えても、今年のすべての世界中の映画を集めた中でもベスト第1位の作品だと確信する。(世界中の映画を全部見たわけでもないのに、こんないい加減な断言が出来ることには、この映画の「強さ」があまりにも並外れているからで、フィルム自体が別の素材で出来ているような気さえする。)

 すでに見た、自分と同様に政治には無関心なフランソワ・オゾンとかが好きな人が「ものすごい大傑作だった。」と言っていたので、期待は大きかったが、その大きな期待のはるかな上空を飛ぶように「ものすごい」としか言いようのない映画で、改めて、テレビではなく、映画館が存在する意義を感じた作品でもあった。
 この映画がテレビで放送されることなど永遠に訪れないだろう、とも思った。
 予算は小さくとも映画は強い意志さえあれば作ることが出来る、という見本のようでもあった。

 あさま山荘事件がなぜ、どのような過程で起こったのか、全く知らないが、事件の映像だけはテレビで何度も見たことがあった。そのときには、必ずと言っていいほどに「過激派による卑劣な犯行」だというコメントが付けられていたように記憶している。
 そのたびに、ある違和感を感じたのは、もともと学生運動は夢と理想を持った、志の高い若者たちによっておこなわれたはずのものだったのが、なぜ過激派と呼ばれ、こんな事件を起こしたのか、ということだった。

 あげくの果てには、地下鉄サリン事件の後に、オウム真理教と連合赤軍事件とを同じようなものとしてとらえたような本が出版され、テレビでもそういった趣旨の発言をする人物が出てくる始末で、いくら何でもそれは大ざっぱで無知と無教養でひど過ぎる発言だと思ったら、発言者は警察関係の人物で、なるほどそういうことか、と思ったことがあった。
 この映画は、その警察関係者が原作を書いた、『突入せよ!「あさま山荘」事件』というつまらない映画を監督が見て怒りを感じたことがきっかけになっているらしい。(あのゴミのような映画に主演したせいで好きな俳優だった役所広司が大嫌いな俳優になってしまった。)

 赤軍派と連合赤軍の違いもわからないほどに無知だったが、この映画では、赤軍派が連合赤軍という名前に変わる過程もくわしく解説している。
 はっきりいって、登場人物が話す会話の内容もほとんど理解していない。(1470円のパンフレットを買ったので、それを読んで少しは理解を深めたい。)
 それでも、3時間以上の時間が過ぎるのはあっという間の出来事だった。

 映画の中で繰り返し使われる「総括」という言葉と、それに続く虐待行為や処刑行為は異常な世界の出来事のように見えて、自分はこの世界にいたことがあり、現在もいるような気がしたのは、会社での毎週の営業会議で経験している空気と似過ぎているからで、「自己批判」と「総括」という言葉を、「現在までの営業実績と反省」と「今後の指針と達成目標」とでも入れ替えれば、組織というものは同じような形になってしまうんだなあ、といった感慨があった。森恒夫や永田洋子的な人物にこれまで何人も出会ってきた。
         公式サイト(日本)
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 この映画がすごいのは、自民党や日本共産党を支持するような人が、「ほら見てごらん、現実を見失った過激派というものはこういう末路をたどるんだよ。夢や理想を語ったりすると、このざまになるしかないのさ!権力に逆らわずに生きるのが、一番幸福なのだよ。」と言ってしまえるようにも作られている点で、70歳過ぎた若松孝二監督の冷酷なまでの視点が徹底している、
 と同時に、理想を追い求めながら、仲間に殺された連合赤軍兵士へのすぐれた鎮魂歌にもなっている。
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 殺された遠山美枝子を演じる坂井真紀の熱演には圧倒された。
 かつて赤軍派だった坂本龍一などの著名人はこの映画をどのように受けとめたのだろうか。
 元ソニック・ユース、というよりシンガー・ソングライターとしても名高いジム・オルークの参加はちょっと意外だったが、アメリカやヨーロッパでは若松孝二が人気があるということは雑誌とかで知っていたので違和感はなかった。
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 軍事訓練に本物のライフル銃を持っている場面を見ながら、1969年製作の『パルチザン前史』 の頃は、ずいぶんのんびりした時代だったのだな、と1970年を境に学生運動が大きく変質したことを実感した。
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 佐野史郎が出てきたときには、どう見ても学生役は無理だろうと思ったら、初期の頃には学生運動と労働組合運動とが共同で行動したりもしていたことに意外な印象があった。現在からは想像も出来ない。
 前半の派閥争いのシーンが深作欣二監督の『仁義なき戦い』シリーズに似ていることから、やはり『仁義なき戦い』シリーズは新左翼運動の分裂闘争を描いた物語でもあることを再確認した。『県警対組織暴力』 はあさま山荘事件への深作監督なりのやり切れない思いと激しい共感のメッセージだったことがわかった。
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 総括という言葉は殺すことをあいまいに言い換えただけだという実態が、繰り返ししつこいほどに描かれてゆく。
 姿勢を正して見るべき映画、というものに出会ったのは初めてのことのような気がする。
 今年はこの映画を見た年として記憶されるだろうし、生涯そのことを忘れることはないだろう。この先、この映画より激しく感情を揺さぶられる映画に出会うことはないような気さえする。

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