2006年。BoriughFilms."DEATH OF A PRESIDENT".
ガブリエル・レンジ監督・脚本・製作。
 すでに過ぎ去った2007年10月19日、シカゴを訪問していたジョージ・W・ブッシュ大統領が暗殺された、という架空の状況をもとにテレビの報道特別番組のような形式で作られたフェイクのドキュメンタリー映画のようなフィクション。
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 現職の大統領を題材に使ったことで波紋を呼び、アメリカでは上映拒否した映画館もあったらしいが、すでに次期大統領選挙に向けた動きが報道される現在では、インパクトが弱くなっている。
 次期大統領の最有力候補らしいヒラリー・クリントンがこの映画に寄せたコメントは、「卑劣で言語道断な映画。こんな恐ろしい話で利益を得ようとしている人に、うんざりします。」という、
 こういうことを言う器しか持っていない人物にしか過ぎないとわかってはいたものの、実際に知ると、医療の分野での貢献があっただけに、残念な気持ちになる。

 この映画は、生真面目すぎるくらいまじめな映画であり、アメリカ合衆国の将来を不安に思う善意から作られた映画で、見てもいない人物が非難するようなものとは正反対の内容を持っている。
 すぐれた映画かどうかとなると、疑問点が多いのも事実だが。
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 緊急手術を担当する医師団の記者会見など、本物らしい雰囲気だった。アメリカの情報に疎いので、ニュースフィルムとフィクションを混ぜて編集された映像は、どれが本物でどれがフェイクなのか、簡単には見分けがつかないくらいよく出来ていた。
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 暗殺シーンはブッシュがちょっとつまづいたようにしか見えなかったものの、シークレット・サービスを演じる俳優たちの迫真の演技で、緊迫した現場の様子は再現されていた。
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 大統領の死を報道する場面もそれなりに本物らしくは見えたが、これは全員が俳優なのがちょっと見え透いた感じもした。
 驚いたのは副大統領から自動的に大統領に就任したディック・チェイニーの映像で、追悼演説はそっくりの声による吹き替えなのか、別の人物の葬儀に出席したときのものなのか、わからなかった。
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もっとも迫真の演技を見せた元シークレット・サービスの男性。あの場で何となく嫌な予感がしたと言い、自分の至らなさを嘆き、涙をこらえようとして声を震わせる場面など、いかにも報道番組でありそうな光景に見えた。
 大統領暗殺後のシュミレーションがこの映画の見せ場だが、
 真犯人は湾岸戦争に参加した元軍人の白人男性だと早い段階でわかっていながら、テロリストの仕業ではないと都合が悪い、というチェイニーたちネオコンの意向を反映して、アラブ人男性が犯人にでっち上げられる過程には現実味があったものの、結局それだけに終わっており、
 ブッシュが「良い人」として描かれ過ぎている点も気にはなったが、バランスを考えた監督の判断だろうと思われる。
 わざわざセンセーショナルな題材を扱ったにしては、何となく詰めの甘さも感じられる。テレビの報道番組とはそういうものだと言いたいために、わざとそうしたとも思われない。政治状況や経済界の反応など、もっと恐ろしい事態が起こってゆく展開になるのかと思ったら、冤罪の容疑者の再審請求が無視される、というところで終わっていた。
ジェネオン エンタテインメント
大統領暗殺 デラックス版
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