2007年。「夕凪の街 桜の国」製作委員会。
  佐々部清監督。こうの史代原作。
 田中麗奈、麻生久美子、吉沢悠、伊崎充則、中越典子、堺正章、その他出演。
 広島への原爆投下後13年経過した昭和33年と、平成19年の現在とを舞台にしたある家族の物語。
 2部構成で、第1部が「夕凪の街」。
 麻生久美子主演のドラマで、これが素晴らしかった。
 昭和の映画から抜け出してきたような顔つきの吉沢悠の好演が光る。麻生久美子が、これまでの俳優キャリアで最高ではないかとも思われるすぐれた演技を見せていた。一瞬、木下恵介監督映画での高峰秀子とイメージが重なるような顔に見えるときもあった。

 第2部が「桜の国」。
 平成19年の東京から、田中麗奈の眼を通して、原爆被災者の現在へとつながる物語が語られる。ここでは、田中麗奈が、何とも言えず素晴らしい。明確な言葉になる手前の、感情がはっきり定まっていない発声のような声が演出なのかアドリブなのかわからないが、良かった。
 劇場で見る日本映画でこれほどに感銘を受けたのは、『パッチギ!』以来のような気がする。世界に誇れる日本映画が、また誕生したのだ、と思った。
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昭和30年代の映画の雰囲気を意識したような画の中で、平野皆美(麻生久美子)と打越豊(吉沢悠)との報われない愛の物語が進行する。原爆の投下直後の描写は被爆者自信が描いたという絵で表現されて、より一層むごたらしさを強めていた。
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 通勤や帰宅のときに、舗装されていない川沿いの道をスーツ姿の人々が歩いている光景は、小津安二郎監督の映画でしか見たことがなかったので新鮮だった。
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 皆美の弟、旭(伊崎充則)は、母親(藤村志保)の手伝いをしていた被爆者の京花(粟田麗)に結婚を申し込む。
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 伊崎充則がすぐれた演技を見せていただけに、それがその後、堺正章の姿と結びつかないのが、難点のように思われた。動きも長年のコメディアン的なものが染み付いているような印象があり、素直に感情移入できずらかった。
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 中越典子と、七波(田中麗奈)の弟、凪生(金井勇太)との恋のエピソードが、いまひとつ印象が弱い。
とは言っても、こんなに良い映画に出会ったことに感謝したい、という気持ちの方が強いです。
 この監督の作品は1本も見たことがなかったので、見てみよう、と思った。田中麗奈主演の『暗いところで待ち合わせ』も見ずに放ったらかしなので、近く見てみたい、と思った。
東北新社
夕凪の街 桜の国
こうの 史代
夕凪の街桜の国
 
国井 桂, こうの 史代, 佐々部 清
夕凪の街桜の国―小説
 
サントラ
「夕凪の街 桜の国」オリジナル・サウンドトラック