『ピアニスト』 2000年/フランス、オーストリア/132分
監:ミヒャエル・ハネケ 出:イザベル・ユペール/ブノワ・マジメル

性的抑圧を強いられた鬱屈した生活の中で、異常とも言えるマゾヒスティックな性癖を持つようになってしまったエリカ。そうとは知らずに年上女性の美貌と才能に一目惚れし、無防備に彼女に近づく大学生の美男子ワルター。若さゆえにストレートにアタックするワルターだが、ついに彼女の秘密を知らされる時が来る。

愛したい、でも愛せない。そんな愛にはとても応えられそうにない。一筋縄ではいかないエリカの愛を手に入れるために苦悩するワルター。一方エリカはワルターへの要求について一歩たりとも譲る姿勢を見せない。何故そこまで彼女はこだわるのだろう。その結果待っているのは、当然ながら悲劇のシナリオだけである。

愛が形を変え歪んだ憎しみにも似た狂気をもたらし、ワルターはエリカを最悪の状況下でモノにする。翌朝エリカは確固たる決意の元、演奏会へと向かう。悪びれる様子もないワルターに瞬時にして果てしなく絶望したエリカは、ついに恐ろしい選択を実行。胸に広がる赤い染み。そして颯爽とした足取りでドアを開け、通りを歩き去っていくエリカ。

エリカに同情する気にはなれない。むしろワルターに同情する。あんまりだ。彼は被害者だ。エリカはもっと人に優しくすることを覚えなくてはいけない。確かにエリカは母親の犠牲者だったかもしれないが、人を愛したのであれば、人から愛されたいのであれば、自分の中の何かを変えていくこともひとつの愛の姿というもの。けれどエリカのような女性は実際に居るだろうし、自分があるとき突然そうなったらと考えるとぞっとするけれど、歪んだ愛の形は確かに悲しい。悲しすぎる。

映画の題材としてはheavyだし結末も悲惨だ。でも同時に映画的崇高さを与えているのが、映像とピアノ旋律のコラボレーションである。力強くて美しく、見事だった。

そして作品がどうであれ、イザベル・ユベールの勇敢なる演技には観客として拍手を送らざるを得ないだろう


自らの胸に突き刺したナイフが、血の花を勲章のように咲かせる。
誇らしげなエリカのぴんと伸びた背筋が果てしなく悲しい。



2002年3月20日 梅田ガーデンシネマにて鑑賞