※ネタバレはありません。
岡田准一×麻生久美子
コーヒー豆を挽く音、くしゃみ、扉を開け閉めする音、何気なく口ずさむメロディ、フランス語の練習、鍵束の揺れる音────。
「音」に軸を置いた、春らしい前向きな恋愛映画。
色々な切り口の恋愛モノがある中で、これは比較的珍しい方の作品ですね。
本作、絶対エンドロールまで観て下さい♪
静かな余韻と映画の中でその後を「物語る」という行為を、こういう形で表現しているのはとってもオシャレですね。
不思議なのが、等身大のラブストーリーとしつつもどこか寓話めいているその作品の雰囲気。
全体を包むあったかい感じ、爽やかで穏やかな感じが醸し出されてます。
そのバランスが絶妙なんですねぇ。
どうやってそれを成立させたのか。
これは「主演2人」「フィルムと照明」「音というテーマ」「ロケーション」などの要素がそれぞれ組み合わさった結果じゃないかなーとか思います。
まずはあらすじのご紹介をして、その後上記4つの要素やその他おすすめポイントなどで感想を書いていこうと思います。
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■『おと・な・り』あらすじ
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人生の岐路に立つ30歳の男と女――――。
風景写真の世界への転向を考えながらも、友人である人気モデル・シンゴ(池内博之)の撮影に追われる日々に葛藤を感じているカメラマンの野島聡 (岡田准一)。
夢であるフラワーデザイナーを目指して花屋でアルバイトをしながら、フランス留学を間近に控えた登川七緒(麻生久美子)。
二人は同じ古いアパートに暮らす隣同士だったが、顔を合わせたことは一度もなかった。
それでも、古いアパートの壁越しに、音を通じて互いの生活が伝わってくる。
それぞれ、聡の前にはシンゴの失踪やその彼女を名乗る女が部屋に上り込んだり、七緒は花屋の客である男性の一人から素敵なアプローチを受けたりと、生活にも変化が。
そんな中いつしか、互いのその変わらぬ生活音に癒しを感じるようになり――――。
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■物語について
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これだけの秀作で何がすごいって、近年珍しいオリジナル脚本の作品でヒット作であること。
原作のある映画って、何かしらで既に物語を知ってしまっていたりして、場合によっては純粋に「物語を楽しむ」という要素が薄かったりします。
こういうオリジナルのヒット作が、原作モノと同じくらいまた増えてくれると楽しいですね(^○^)
新生活や春の雰囲気の中で観ると、とっても気持ちの良い、元気をもらえる映画です。
それとこの映画、ある意味では一つのチラリズムでもありますよね。
それぞれの生活音を聴き、それがふとしたもので親近感を覚え、嫌なものでない場合────、その音の"先"にあるものを想像してしまいます。
それは、惜しいところまで見せて妄想を掻き立てるチラリズムの構造と似ているんじゃないでしょうか?^^
チラリズムというと"視覚"の領域での話ばかりを想像してしまうのが普通ですが、それを"聴覚"の領域に転換した点が、企画として既に成功したところかなーと思います。
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■主演2人
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岡田准一と麻生久美子は同性からもとても支持される役者ですよね。
そこがまた恋愛モノで演じていて嫌味がなくて良い。
加えて年齢的にも、ある程度の酸いも甘いも知って、少し腰を落ち着ける年齢的にも設定が絶妙でしたね。
騒がしくなく、落ち着き過ぎてもいない。
ちょうどそういった人生の「凪」、だからこその葛藤や悩みがありますよね。
その訪れから出口までを絶妙に描いてます。
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■フィルムと照明
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加えてフィルムの質感と照明の具合が抜群。
「柔(やわ)い」
という表現がしっくり来ていて、とっても暖かい。
加えてドキュメンタリーっぽいハンディの撮り方をしているので、動き的にも主演二人の友達のような視点で傍で見守る形になっていますね。
それが温かさと等身大で身近な雰囲気を創り出しています。
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■「音」というテーマ
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隣人の音を聴くのは主人公たちと、観客。
だから映画の中では多々、自分たちも静かに音に耳をそばだてる瞬間があります。
「活動写真」と呼ばれる娯楽を体験する中で、穏やかな時間を体験できるのはその瞬間のおかげだと思います。
皆がひっそりと静かに、「画」ではなく「音」に注視する─────劇場で観ていて、貴重な時間というか体験の一つでした。
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■ロケーション
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今回もう一人の主人公が、2人が住むアパートだと思うんです。
隣の音が漏れ聴こえてしまう古さを、『レトロな良さ』として画面に映し出しています。
それぞれの部屋のインテリアもよくキャラクターを説明してくれているなぁと感心するばかり。
な~んだか分らないけど、聡の部屋みたいなオリジナリティってちょっと憧れたりしません?ww
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■タイトル
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『おと・な・り』というタイトル表記ですが、点が間に入っていますよね。
正式表記は「おと な り」で、文字同士の間に空白1つと2つが入ります。
もちろん「音」と「お隣さん」をかけたものであるのは間違いないんですが、監督によるともう一つ由来があるそうです。
まずひとつは2人を結ぶ「音」、サウンド。
それから隣同士の「お隣」。
そして最後は、「大人になります」という言葉の省略なんだそう。
以下、熊澤監督談。
↓
「聡と七緒(ななお)はちょうど30歳ですが、これぐらいの年齢は、自分なりに少し成長する時期じゃないですか。
自分を冷静に見られるようになったり、自分の気持ちに正直になれたりね。
そうやって、20代までとはちょっと変化して、それぞれが一歩前に進む。
だから、“おと”と“な”、“な”と“り”の間にスペースを入れたんです」
ダブルミーニングでなく、トリプルミーニング。
実に面白いですねぇ。
ちなみにチラシなどの一部に英語タイトル表記があるのですが、それは脚本の段階でのタイトル『A/PART』。
こちらも「apart(離れ離れ)」と「apartment(アパート)」をかけています。
巧いっ。
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■谷村美月
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京極堂シリーズ映画化作品『魍魎の匣』からずっと注目している女優さん。
彼女が演じる役がね、自由奔放、天真爛漫、自己中心的(笑)見事なまでに(笑)
まぁもちろん理由があってのそのキャラなんですけどね(笑)
観ながら彼女のキャラクターにイライラいらいらしてしまったんですが(⌒-⌒; )
でもそうさせられてる時点で、谷村美月の演技に取り込まれてる証拠(笑)
本当に谷村美月がそういう子なんじゃないかと錯覚してしまうほど自然に演じてます。
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■麻生久美子
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この女優さん、前から好きでしたが、しゃべくり007に出演した際に飾らない自然体な感じがすっごく魅力的でした。
本作もその魅力爆発(笑)
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■カメラ
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主人公の聡が使っているカメラがsonyのαシリーズの一眼レフ。
カメラメーカーが数多ある中で、sonyがスポンサーを引き受けたんですね(笑)
sonyのサイトで本作とコラボした特設ページがまだ生きているようですね。
>α×映画「おと な り」
よければ是非ご確認をば!
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■あとがき
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このレビューの中で「みる」という単語を使う際には、必ず漢字に拘っています。
「見る」ではなく「観る」
「見る」はそのまま「見る」全般に使えます。
「観る」は何かを観賞したり見物した時に使います。
「景色を観る」とか「演劇を観る」とか。
大きい「見る」のカテゴリーがあって、その中でさらに「観る」や「視る」「看る」「診る」など細かいカテゴリーに分かれているんですね。
「観る」の方にはその観る対象と、行為自体の主体性が表現されていますよね。
「演劇や映画、物語」を「望んで、自ら」見る=観る、だと思うんです。
「見る」は本当にそのまま見るだけですが、演劇や物語を楽しむ行為としては『観る』が適切なんじゃないかなと思ってこのブログでは『観る』を多用しています。
本作にもそういう違いで語れる部分があります。
「聞く」から「聴く」へ
「聞く」という単語には「聴く」「訊く」などの同音で用途の違う漢字が存在します。
「聞く」は自然に聞こえる、耳で音や声を感じとる。
「聴く」は耳を傾け、注意して聞き取る。
「訊く」は相手に質問する。
こういった意味があります。
そうすると前半、なんとなく隣の音を「聞いていた」主人公二人。
物語が進み、気持ちが浮き彫りになって相手を欲してくると意識して相手を「聴く」、という変化が現れる。
同音の単語で行為だけを取れば同じものだが、漢字によって微妙な表現の差がある。
そういったものが物語の変化や話の展開をよく表している気がします。
オススメのラブストーリーものの一つです♪
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■予告編
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■特集『新生活♪春映画特集』
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第1弾【プラダを着た悪魔】
第2弾【GO】
第3弾【おと・な・り】
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