◆『七夜待』 長谷川京子 × 河瀬直美監督 インタビュー | 映画情報なら「シネトレ」…最新映画&DVD情報 + 試写会・映画グッズプレゼント

◆『七夜待』 長谷川京子 × 河瀬直美監督 インタビュー

七夜待


「京子ちゃん」 「直美さん」――そう呼び交わす言葉に、信頼と親密の情がこもっているのを感じる。『萌えの朱雀』『殯の森』でカンヌを沸かせた河瀬直美監督が、女優・長谷川京子を主演に迎えた最新作。1人の日本人女性がタイの人々と自然、タイ古式マッサージに触れ自分を見つめなおす姿を描く『七夜待』での出会いは、監督と女優、女性同士、はたまた人生の先輩と後輩として、さまざまな収穫を2人にもたらしたようである。


河瀬 「得たもの? うーん……京子の愛かな(笑)。いや、まじめにいえば京子ちゃんのエッセンス。いままでの私の映画って素人のキャストが多かったけれど、今回は長谷川京子というプロの女優が(心の)鎧をつけず、役に素直に反応しながら演じてくれたから、私はとてもやりやすかった。京子ちゃんにとっても、新しい表情や演技が出せた映画になったんじゃないかと思います」


長谷川 「完成した作品を観て、今まで見たことのない自分にたくさん会えましたね。これまでは“こうしたら、こう映るだろう”と想像しながら演じることが多かったんですが、今回は想像を超えた自分に会うことができたというか。撮影以外でも、女性として私よりもたくさんの人生のステップを経験し、家族と切実に暮らしながらもこんな映画を撮れてしまう直美さんに、表現者の正しいあり方を教えていただいた気もしています」


本気で話し合って、ぶつかりあって……海外スタッフとの撮影の苦労


監督自身「トライだった」と語る本作は、これまで河瀬監督が映画の舞台に選び続けてきた奈良を離れ、タイで撮影された。スタッフもキャストも、タイ、フランス、そして日本から参加した混成チーム。言葉も考え方も違う者同士の共同作業は、当然のように苦労も多かっという。


河瀬 「そのなかで一番大切にしていたのはコミュニケーションですね。言語も違えば、文化もやり方も違う。そんなタイ、フランス、日本の人々が集まって一緒にものづくりをするわけですから、最初は混乱もあったけれど、本気で話し合って、ぶつかりあって。最後のシーンでは、スタッフも全員一緒になって踊れるようになって、あぁ、良かったなぁ~と」


固定観念をすべて捨てきらないと、乗り切れない現場


そう語る河瀬監督が今回の採用した演出スタイルは、かなり独特なものだった。出演者には脚本は渡されず、その日の撮影で取ってほしい“行動”が書かれたメモが1枚渡されるだけ。それはタイ、フランスから参加したキャストも同様だ。相手が何を話し、どんな行動を取るかも分からない状況で、役者は自らの役と相手が演じる役、そして自分の心と向き合うことになる。


長谷川 「とにかく“固定観念”を持たないように気をつけました。仕事によっては“こうでなくてはいけない” “ああでなくてはいけない”という約束事を求められることもありますが、でもそれでは直美さんの現場では通用しないんです。いままでの固定観念をすべて捨てきらないと、正直、乗り切れない現場でした」


河瀬 「やっぱり皆さん、脚本があって、セリフがあって……ということに慣れているじゃないですか。でも今回は、そういうやり方から離れてもらおうと思ったんです。“A地点からB地点まで、なにが起こるか分からないけれど歩いてくれ”、そういう漠然とした指示だけを出して、その間は自分で考えて作ってもらう。そういう中から、京子ちゃんや、キャストたちの“素”がにじみ出ればいいなぁということを狙った作品だったんです」


完成した作品を観て「自分でも”色っぽい”と」


そうして完成した作品には、まるでドキュメンタリーのような生々しい空気感が漂うことになった。ヒロイン・彩子を演じた長谷川京子も、全編ほぼノーメイクでカメラの前に立ち、着ている服もいたってシンプル。そこには等身大の女性としての、長谷川京子の飾らない表情も現れているようにも見える。


長谷川 「直美さんが求めることって、いたってシンプルで、ビジュアル的にも精神的にも、余計なものをそぎ落として演じるということだけなんですね。実はそれがとても難しいんですけれど……。私も、きれいな服とメイクで公の場に立つことは好きですけれど、本当に心地よい環境って、やっぱりそこではないんですよね。家に帰ってお化粧を落とすと“はぁー”っと力が抜けて普段の自分に戻れるように、極力いろんなものをそぎ落とした先に、自然な表情も生まれてくるんだと思います」


河瀬 「大切なのは“外す”という作業なんですね。男の人だと多分、いろいろなものを“つけ加えていく”と思うんですが、女の子って気持ちが動かないとダメじゃないですか。だから気持ちの中の線引きを外して、心を解放させてあげる。そうすると表情もリラックスしてくるし、肌も憂いを帯びてくる。今回の京子ちゃんもそうだったんです。ばっちりメイクして用意されたセリフを言うのが当たり前の世界から解放された京子ちゃんの、生身の色っぽさとあでやかさ。それを引き出してみたいと思ったんです」


長谷川 「完成した作品に出てくる私を観て、自分でも“色っぽいなぁ”と思ったくらいで(笑)。もちろん直美さんは最初から意図していたと思うんですけれど、私、あんなに色っぽくなっているとは思わなかったので……。色気って、いろんな色気があるんだと、改めて教えてもらった気がしますね」


『七夜待』
シネマライズ、新宿武蔵野館他にて公開中
監督:河瀬直美
出演:長谷川京子、グレゴワール・コラン、村上淳
配給:ファントム・フィルム
オフィシャルサイト:http://www.nanayomachi.com/