№25

日付:2010/8/5

タイトル:ザ・コーヴ | THE COVE

監督:Louie Psihoyos

劇場名:シアター・イメージフォーラム シアター2

パンフレット:あり(\600)

評価:★★★


先ず、このドキュメンタリー映画は下手な娯楽作品よりもよっぽど面白い。

「わんぱくフリッパー」の元調教師でもあり、イルカを利用したショー・ビジネスを立ち上げた張本人でもあるリック・オバリー氏。彼がイルカの保護運動に走る経緯を、かつての愚行を反省した欧米人の贖罪行動として、この活動の倫理面における正当性の柱に据えている。

 
アウエーに乗り込んだ彼らと地元住民との軋轢。

証拠を押さえるべくリックが企んだ作戦を遂行する為の人集めは、先日観た「インセプション」顔負け。地元民の徹底した排除行為の網を潜り抜け、その決定的な瞬間を手に入れるまでの緊張感ある行動に息を呑む。


そしてラストに待ち受ける凄惨なシーン。


実はこのラストにこそ最大の問題が存在する。彼等が決死の(?)覚悟で潜入したあの入江は、地元のイルカ猟師にとっては「と殺場」に過ぎないのだから。凄惨な現場なのが当り前。イルカを殺して食べるのが当たり前の食文化である人達(≠国)にとって、あの現場をまるでアウシュビッツの処刑場であるかの如く紹介されてしまっては心外極まりない事でしょう。


ともかくお金を払って観に来る客への対処法(=映画を作る術)をちゃんと心得ている監督さんだとお見受けしました。
今回本作品の上映に反対する人達の行為が目立ったのは、この作品の持つ力を恐れたからではないかと思えてなりません。当然の事ながらこの作品はプロパガンダとしての機能も十分に持ち合わせているのですから。


また本作品において、彼等はイルカ漁を「悪事」と決めつけ、イルカが他の哺乳類とは異なり、知的生命体であるという前提に立って問題提起をしているだけでなく、以下に挙げる別の側面も合わせて問題視しています。この辺、彼等は実に狡猾です。

  

・太地町でイルカを捕獲し、世界中の水族館に売り払う事で多大な利益を得ている(食文化以外の問題)
・毎年2万3千頭ものイルカを殺しているが、それがイルカという食材として市場に出回っているとは考えられない(クジラ肉偽装疑惑)。作品の中で市販の鯨肉のDNA検証も実施
・イルカの肉を検査したところ、高濃度の水銀汚染結果が判明(※濃度は部位により異なり、映画で用いられたのは内臓部分と推察されるとの事)


ちなみに、映画を観るとまるで太地町で2万3千頭が殺されているかのような印象を与えてしまい、まさに悪の総本山としてのレッテルを貼られていますが、農林水産省が発表している2007年度の資料(「海産ほ乳類捕獲頭数」)を見ると、イルカ・鯨類の捕獲頭数は1万3千頭余りで、その内和歌山県は1,600頭余り。一番多いのは岩手で、1万頭以上です。何故太地町がスケープゴートにされてしまっているのか、疑問です。

  

映画の記憶・・・と記録-THE COVE

  
 

「イルカを食べて何が悪い?」

と、そんな習慣などほとんどない日本人が欧米人の論理に過剰に反応し、この作品を嫌悪するのは何故だろうと思ってしまいました。


実は私も、この作品に出てくるサーファーと同じように、サメから助けてもらった(と勝手に信じ込んでいる)経験をした事があります。私の眼下で、イルカがサメを追い払ってくれているのを確かに目撃した(気がしています)。


という事もあり、他に食べるものが無くなるとか、イルカの肉がものすごく美味しいとか、そんな理由でも生じない限り、イルカを食べようとは思いません。

イルカショーに娘を連れて行った事があるくせに、イルカショーなんてなくなった方が良いと思っています(あーいう調教嫌い)。

学校給食にイルカ肉を提供なんて、絶対に止めて欲しいです。

 
それって、こういった作品を観る前も後も変わってません。多くの日本人同様に(イルカショーはどうだか判りませんが)。


リック・オリバー氏の活動が、徳川綱吉の生類憐みの令の如き愚行なのか、はたまた腐海の植物が自然を守っていると一人気付いて森を守ろうとするナウシカの如き賢者なのか。そんな事は個人で判断すべき問題。


少なくともイルカ論争を抜きにして、私はこの作品のやり口を、一つのプレゼン手法として非常に買います。

反論する側は上映禁止運動なんかでなく、この作品の提示する情報に対し、確固たるエビデンスをもって対峙すべきだと感じました。

 
映画の記憶・・・と記録-THE COVE