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27:墓参り


ベルルの喪服姿と言うのも、珍しく新鮮だ。
初冬の寒さが身にしみる早朝、僕らは墓参りの支度をしていた。


両親の墓は我が家の側には無い。
グラシスの館のある平原を、もう少し進んだ所にある、静かな教会の裏にある。

僕とベルルは、黒い服に身を包み、我が家の庭の花を摘んで、馬車に乗り込んだ。

「寒くないかい、ベルル」

「大丈夫よ。手袋も首巻きもあるもの。……もうすっかり冬の寒さね」

窓から見える、一面の霜。
草原だからか、遠くまでキラキラして見える。

「でも、雪が積もるのはまだまだ先の事よね」

「そうだね。リーバイス 501
リーバイス アウトレット
リーバイス 505
年が明けないと、ここら辺は積もらないと思うよ」

「今年も、平原に広がる銀世界を見たいわ。ふふ、去年は旦那様と一緒に、沢山遊んだわね!」

「……」

ベルルは花束を抱えたまま、僕の肩に頭を乗せた。
吐く息は白く、この寒さのせいで、彼女の鼻は少し赤い。

「旦那様、私、少し緊張しているのよ?」

「……なぜ?」

「だって、旦那様のお父様とお母様のお墓なのよ? 今までのグラシス家の人たちのお墓だってあるわ。私、私、受け入れてもらえるかしら」

「……そんな事を気にしていたのかい? だったら僕は先人に、きっととても怒られるだろうよ。両親が死んで、葬式以降墓に参る事は無かったからな」

「そうなの?」

「……ああ。何と言うかね、僕のせいで落ちぶれたグラシス家だから、会わせる顔が無くてね」

歴代のグラシス家の者たちに。
彼らが積上げたものを、僕の代で壊す事になったと言う事に、引け目を感じていた。

ベルルは僕に身を寄せ、膝の上の僕の手をぎゅっと握った。

「なら、きっと今日は、みんな旦那様を褒めてくださるわ。だって旦那様、とてもとても頑張ったんだもの! 私、緊張はしているのだけど、旦那様のお母様とお父様にお伝えしたい事が沢山あるの!!」

「……ベルル」

「旦那様も、堂々としていないと駄目よ? 旦那様のお薬が、おミネちゃんを助けたんだもの。それって、素晴らしい事だもの」

握った手を揺すって、彼女は僕の目を見て言った。とても嬉しそうな、輝かしい瞳で。









墓地は閑散としていた。
この時期に墓参りに来るものは、確かにあまり居ないだろうと思う。

墓地を管理する教会の老神父に挨拶をして、僕とベルルはグラシス家の墓が連なる場所へ赴いた。

父と母の墓の前に、それぞれが好きだった花の花束を置いて、しばらくぼんやりと見つめる。
冷たい風が吹いた。

「は……っ、はじめまして!」

「!?」

ベルルが、いきなり声を上げた。
黒いスカートを握りしめ、どこかモジモジした様子で。

「旦那様のお父様とお母様、ベルルロット・グラシスと申します。お、お、お日柄も良く……」

「どどど、どうしたんだいベルル」

「あ、あわ……」

目を回しつつ、両親の墓の前で挨拶をしたベルル。
やはりとっても緊張してる!!

「良いんだよベルル、無茶しなくとも。お祈りするだけで、きっと両親は君の思いを分かってくれる」

「……そ、そうかしら」

「そうとも。僕も、沢山の事を報告しなければと思っているんだ」

僕は指を組み、ベルルに微笑みかける。
ベルルも僕と同じ様に指を組んで、瞳を閉じた。

静寂の時間。
僕は両親に、まずベルルを紹介した。

隣に居るのが、僕の妻です。
とても可愛くて、健気で、僕の事を思ってくれる、最愛の妻です。

彼女が我が家にやってきて、色々な事がありました。
まず中庭に、妖精たちが増えました。
おかげで、父さんと母さんが愛した薬草は、今ではとんでもなく良質で、恐ろしい程成長しています。
どんな薬も、一級品になるほどです。

そして、グラシス家がとても明るくなりました。
ベルルは華やかで、無邪気で、我が家の誰にでも臆する事無く接し、その笑顔をふりまいています。
無知な所は多々あれど、その優しさは誰もが知る所で、僕は彼女を大事にしたいと思うのです。

とまあ、のろけは良いのです別に。

ベルルは、旧魔王の娘です。とても物騒な事情を沢山抱えています。
彼女は魔獣を使役していて、その事が様々な関係をもたらし、僕もまた、ロークノヴァ様という格の高い大魔獣と契約しています。

色々な事件がありました。
妖精のゼリー化事件、魔獣の王都襲来、銀河病の特効薬の開発……
何もかも、苦しい事無く上手く行った訳ではないけれど、どんな事があってもベルルが側に居てくれたから、僕は魔法薬を作り続ける事ができました。

楽しい事も沢山ありました。
遅くなってしまったけれど、結婚式を挙げ、新婚旅行に行きました。



ここまで報告していた時、不意に隣から小さな声が聞こえた。
ベルルが何か呟きながら、お祈りをしている。

「旦那様はこんな私に、とっても優しくしてくれます。旦那様がこの世界に居ると言う事が、私の一番の幸せです。旦那様が大好きです。旦那様はー……」

「……」

とりあえず、ベルルは無言でお祈りする事ができないらしい。
まあ、こう言う所も可愛らしいのだ。



僕は再び、静かに墓に向かって祈る。



だから、ベルルが居るから、僕は大丈夫です。
グラシス家もヴェローナ家から青の秘術書を取り返し、少しずつではありますが、軌道に乗って来ています。

何も心配する事無く、安らかなる場所で、僕たちを見守っていてください。


では、行ってきます。
ここからずっとずっと東にある、妻の故郷へ。










墓地からの帰りに、僕とベルルは教会の長椅子に座り、その中央の高い所にある、美しいステンドグラスを見上げていた。

墓地を管理する為に、神父が一人居るだけの静かな教会なので、この広い荘厳な空間に僕とベルルだけが居る様な気分になる。

「ベルル、年末に向けて、また新しいドレスを作らないといけないね」

「まあ、またパーティーがあるの?」

「そうだ。今回は勲章を頂くと言う訳じゃ無いけど、招待状が来たからさ」

「わああ。なら、ダンスの練習をしておかないといけないわね……」

ベルルは嬉しいのか強ばっているのか、良く分からない表情だ。

「はは……そう気張らなくても良いよ。今回は僕らを気にする人たちは少ないだろうからね」

「そうかしら。そうだと良いのだけど……」

足を小さくぶらぶらさせ、不安げなベルル。
僕は彼女の肩を抱いた。

「ねえ、ベルル、年が明けたら、また少し遠出をする事になるだろう」

「……どういう事?」

「結局、再びあのセントラルホテルの地下ラボに、王宮の指示で特別研究室ができただろう?」

「ええ、銀河病の特効薬の……旦那様の作ったお薬の、よね」

「そうだ。量産するには、これが一番だと思った。今、妖精もどし薬を開発したメンバーでせっせと作っているんだよ。……レッドバルト商会を通してこれを東の最果ての国に売るんだ」

ベルルに分かりやすい様、説明した。
ベルルはうんうんと頷きつつ、瞳をぱちくり。

僕は銀河病の特効薬の作り方を、国王に捧げた。
と言うのも、結局僕だけでは魔界を救う程大きな規模の量産は不可能だと思ったからだ。

本当に銀河病に冒された人々を助けたいなら、相当な施設と人材、資金が必要になるだろう。
僕はこのレシピを内々に王宮に提出する事で、これらの確保を願い出た。
レッドバルト伯爵も賛同してくれ、あの地下ラボを研究室として提供してくれた訳だ。

僕はこの薬の開発者として、新たな研究チームのリーダーに任命された。
と言っても、以前の妖精ゼリーの時とあまり変わらないけれど。


「で、その薬の事を現魔王に説明しにいかないといけないんだ」

「……東の最果ての国に?」

「そうだよ。……君も、行かないかい?」

「……」

ベルルは、少しの間固まった。
そして、一度視線を落として、また僕を見上げる。

「東の最果ての国は、私の、故郷……なのよね?」

「そうだよ」

「私、私……思い出しちゃうかしら……色んな事」

「怖いのかい?」

「……分からないの」

呟くように言ったはずのベルルの声が、酷く澄んで聞こえた。
迷い無くそう言いきったからだ。

僕はベルルの頭を抱く様にして、撫でる。

「大丈夫だよ。怖い事なんてもう、何も無いよ。僕が大変な時、ベルルがずっと側で支えてくれた様に、今度は僕が、君の側に居る。良い記憶も、悪い記憶も、全部、一緒に受け入れるよ」

「旦那様……」

「それに僕も、君の生まれた場所に行ってみたいよ」

「……」

ベルルはしばらく黙っていたが、次第にウルウルとし始めたから、僕は慌てた。

「ご、ごめんベルル……、嫌なら、無理にとは言わないよ。ああ、言わないとも」

やはりベルルには気の重い事だっただろうかと、僕は彼女をあやす様、背を撫でた。
だけどベルルは、僕の腕の中で小さく首を振る。

「違うの、旦那様。……分からないけれど、涙が出て来たのよ。きっと心のどこかに、故郷を思う気持ちがあるのね。怖いと言う気持ちと一緒に、とても懐かしいの……何かが」

「……ベルル」

「それに、旦那様が居れば、へっちゃらよ。大魔獣のみんなも居てくれるもの。……私、こんなに小さくて、弱虫で、すぐ泣いちゃうし、子供っぽいけれど、最近、少しだけ……少しだけ、大人になれた気がするの。大人ってどういうものなのか分からないけれど、なんとなく、よ。……み、見た目は、そりゃあ、変わらないかもしれないけれどっ」

「そんな事は無いよ、ベルル」

僕はベルルが言おうとしている事が、何となく分かっていた。
それは僕自身も、ふとした時に思わされる事である。

「ベルルはこの一年で、随分と立派になったね。料理もできる様になったし、裁縫だって、最初の頃よりずっと上手くなった。魔法の勉強だって、僕の居ない時にしているんだろう? ディカの面倒もしっかり見ていたし……。凄いよ、ベルルは。もう立派な、グラシス家の奥様だ」

「旦那様だって、凄いわ。沢山の凄い事、してしまったじゃない。お家を守ったんだもの!!」

「……」

そうだっけ……と思って、ああ、そうかもしれない、と素直に思う。
大変、濃い一年だったな……と。

「思わず泣いてしまったけれど、何だか楽しみになって来たわ。東の最果ての国って、どんな風なのかしらね」

「……ああ。僕も楽しみだよ」

静寂と、張りつめた冷たい空気と、神聖な時間。
大きな丸いステンドグラスが溜め込んだ、その一つ一つの光が、僕らの元までゆっくりと落ちてくる。

しばらく僕らは言葉を交わす事無く、ただ寄り添い、手を握り、心地よい静けさに身を任せていた。
僕とベルルは、こんなに落ち着いた時間を共にできる、夫婦となったのだ。

感慨深く思っていた所、ふとベルルを見ると、彼女が物足りなさそうに眉を寄せ、僕に上目遣い。
大人びた黒い服と、その表情がどこかちぐはぐであったが、僕はプッと吹き出した後、もう一度彼女を抱き締め、そっとキスをした。
寒くとも、温かい。

教会の中央で、僕らを見下ろす女神の像の視線は柔らかい。

だけど、火照った頬で瞳を揺らし、口元に手を当て僕を見上げるベルルの方が、よほど神々しいなと思った。罰当たりな事だ。