chuang285のブログ

chuang285のブログ

ブログの説明を入力します。

Amebaでブログを始めよう!
08:不死蝶

夢を見た。
無数の鍵と蝶の夢だ。

小さな鍵、大きな鍵がこの世界の地面に並べられている。僕はその世界に立っている。
宙には無数の、半透明の蝶が舞っていた。

「……」

この世界から出たいのだが、出口の鍵を見つけなければならないらしい。
途方も無くそれらの鍵を拾ってみるのだが、どれも錆びていて使い物にならない。

早くベルルに会いたいのに……そういう焦りがあった中、目の前に金色の粉がチラチラと舞い落ちてきて、僕は空を仰いだ。

「……ディカ」

金色のドラコーチ アウトレット
コーチ メンズ
コーチ キーホルダー
ゴンが、ゆらゆらと帯を描いて真っ白な空を飛んでいた。
その瞳は寂しそうで、でもなぜ寂しそうなのか、僕には良く分からない。

何となくそちらへ手を伸ばすと、ふっと、半透明の蝶が僕の指先にとまった。


カチリ……


そのとき、どこかで“鍵”の開く音がした。










「……」

いつもなら起きるはずの無い早朝に、僕は目を覚ました。
隣ではベルルが寝ていて、いつもならその横にディカが寝ているのに、ディカの姿は無い。

「……?」

僕は起き上がり、キョロキョロとディカを探してみた。
書斎の入口が僅かに開いているのが分かる。

「書斎に居るのか?」

その書斎を覗いてみると、中でディカを見つけた。
ディカは机の上をしきりに見つめている。

「ディカ、どうしたんだい」

「……」

ディカは僕が起きてきた事に気がつくと、無言で、机の上に置いてある装飾の美しい箱を指差した。
そうだ。ミスティさんが現魔王の依頼で持って来た、あの箱だ。

僕は夢の中で響いた、あの鍵の開く音を思い出した。

「まさか……」

ふっと湧いて出た予感は、僕の心臓の鼓動を早める。
小箱の前までやってきて、息を呑んだ。そして、ゆっくりその箱の蓋を持ち上げようとした。

感覚で分かる。開いている。
鍵が、開いている。

なぜだ?

僕は今日、なぜこの箱が開いたのか、必死になって考えた。
何がきっかけだったんだろう。今日は……

「……なるほど」

ふと、今日と言う特別な日が意味するものに思い至り、口元を抑えた。
去年の、夏の終わりの、あの日。
僕は、黒髪で痩せ細ったみすぼらしい少女を、地下牢から連れ出した。

「そう言う事か……」

昨日から、こそこそと意識していた記念日だったが、まさか今日この箱が開くとは思わなかった。
一度息を吐いて、箱から手を離した。これは僕一人で開いて良いものではない。ベルルが居なくては。
ディカが隣で、じっと僕の様子を見上げていた。

「旦那様……どうしたの?」

ちょうど良くベルルが起きてきた。少々乱れた髪で、寝巻き姿のまま目を擦っている。
僕は彼女に向き直る。

「ベルル……前に、現魔王の大魔獣の、ミスティさんが持って来てくれた箱、覚えているかい?」

「ええ勿論。でも、鍵がかかっているんじゃなかったかしら?」

「それが……開いているんだ。きっと、今日と言う日に開く様、魔法がかけられていたんだ」

僕はベルルを見つめた。彼女はまだ気がついていない。
今日と言う日がどんなに大切な日なのか。

僕は箱を持って、寝室のソファに座る様、ベルルに促した。
ディカもてくてく僕らについてくる。

寝室に行くと、すでにマルさん、サンドリアさん、ローク様が、おのおの好きな場所で待機していた。
じっと、僕を見つめる視線は強く、でもどこか寂し気で、今日と言う日にこの箱が開く事を、あらかじめ知っていたかの様だ。

ベルルは、このピリッと緊張した空気を、不思議に思っている様だった。







「ベルル、今日が何の日か、知っているかい?」

「……?」

「君が、このグラシス家にやってきた日だ」

「あっ」

ベルルが口元に手を当て、肩を上げた。
目を大きく見開き、僕を見つめる。
僕は頷いた。

「去年のこの日、僕らは結婚した。一年なんて、あっという間だったね、ベルル」

「ええ、ええ旦那様。そうよ、何で気がつかなかったのかしら……。私、去年のこの日に、旦那様に迎えにきてもらったんだわ」

すでに涙ぐむベルル。僕はそんな彼女の肩を抱き寄せた。

「ベルル、箱を開けてみよう。何が出てくるのか分からないけれど……きっと、僕らが一年間夫婦としての時間を積上げなければ、開く事の出来なかった箱のはずだ」

「……旦那様」

ベルルは、肩を抱く僕の手の上に、自分の手を重ねた。
大丈夫。何が出てきても、今の僕らなら大丈夫。

僕は大きく深呼吸をして、その箱を手に取り、膝の上に乗せて、そっと蓋を開いた。



「やーっと、この箱から出られたのじゃー!!」


箱から出てきた“それ”に驚き、僕とベルルは目を点にして、言葉も出て来ない。
手のひらに乗る程小さな、人形の様な女の子が、勢い良く飛び出てきたのだ。黄緑色の髪を二つに結ったその女の子は、ヒラヒラした衣を身に纏っている。背には半透明の蝶の羽があるようで、それを羽ばたかせながら宙に浮いていた。手には立派な杖を持っている。

「早く開けんかい!! なかなか開けてくれないから、何度フライング飛び出しをしそうになったか!!」

「……」

「肩が凝って仕方が無いわい」

可愛らしい声と容姿とは裏腹に、口調は若干年寄り臭い。
いったい何なんだ。

その人形の様な女の子は、僕の前をひらひらと舞って、ニコリと笑った。

「わしの名前はアリアリア・インフィネイト。“時”と“記憶”を司る蝶の大魔獣なのじゃ」

「あ……あ、どうも」

僕はとっさに頭を下げた。
アリアリアという名の大魔獣は、今度はベルルの方へ飛んで行った。
でも、大魔獣と言うにはどう見ても虫……

「ベルル様、お久しぶりじゃのう」

「うーん……アリちゃん?」

ベルルはさっそくニックネームをつける。蝶だけど、アリちゃんか……。

「と言っても、わしのことは覚えておらんだろう? ……ベルル様の記憶を封印したのはわしじゃからの」

「……え」

ベルルはアリアリアさんの言葉に若干戸惑った。
アリアリアさんはヒラヒラと舞って、今度は他の大魔獣たちの元へ行く。

「久しぶりじゃのー、マルゴット」

「……アリアリア様も相変わらずね。あんな小さな箱の中に居たなんて……お疲れさまだわ」

マルさんがアリアリアさんに頭を下げた。
あれ、とても小さな大魔獣だけど、何か畏まられている。

「サンドリア、いつの間にお前は雌になったのじゃ?」

「い、いいだろ、そんなのっ。同情するなら元に戻してくれ!! アリアリア様ならできるだろう!!」

サンドリアさんはやはり性別に関してつっこまれていた。
しかしサンドリアさんの要望は無視して、ふらふらとローク様の元へ飛んでいく。

「ロークノヴァ、お前もこっちへ出て来れたか。とは言っても、今はベルル様の大魔獣ではない様じゃがなー」

「……ふん。アリアリア様だって、とても曖昧な契約下に居るじゃないか」

ローク様は髪を払って、アリアリアさんからそっぽ向いた。
どうやら、ここの力関係も、アリアリアさんの方が上の様だった。
……どういう事だろう?

「ディカ、お前こんな所に居たのか。心配したぞー」

アリアリアさんはディカの頭に乗って、小さな手で額を撫でた。
ディカの無言はいつもの事だが、アリアリアさんに手を伸ばし、ぎゅっと掴んで頬擦りしていた。
ここは仲が良いのか?

「あの……」

大魔獣たちの再会を、ただ眺めていただけの僕は、その一区切りを見計らって声をかけた。
アリアリアさんは僕の方を振り返ると、全身をくまなく見て、ニヤリと笑った。

「お前がベルル様の旦那様じゃな?」

「は、はい……」

「ほー……なるほど」

何がなるほどなんだろうか。
手のひらサイズの小さな女の子だが、何だか偉そうに僕をチェックしている。

僕がぽかんとしていたからか、ローク様が見かねて説明してくれた。

「アリアリア様は、旧魔王様に仕えていた10の大魔獣の中で“最高齢”の大魔獣だ。“最初の魔王”から仕えていた、唯一の大魔獣……。魔獣には死の概念があるが、アリアリア様は特別で、それが無い。死んでも記憶を持ったまま生き返る“不死蝶”だからな」

「……不死蝶?」

それでやっと、ここにいる大魔獣たちがなぜ畏まっているのかを理解する。要するに、大魔獣たちの中の“お局様”と言う訳だ。

見た目は愛らしいが、どこか年寄り臭い口調にも納得がいく。
とてつもなく長生きなんだな。

「そうじゃ。わしは“時”の大魔獣。初代魔王から歴代の魔王の所業を記録をしてきた」

「……と言う事は、アリアリアさんの契約者は、現魔王ですか?」

現魔王にはもう一匹、大魔獣がついていると言っていた。
アリアリアさんが、そうだと言う事だろうか。

「いいや、旧魔王様が討ち取られた後、現魔王の所に居たのは確かじゃが、厳密に言えばわしの契約はいまだに旧魔王様にある。と言うのも、旧魔王様の命令がまだ継続しているからじゃ。この命令を全うした時、わしの契約は自動的に現魔王に引き継がれる」

「……命令?」

「ああ」

アリアリアさんはエメラルド色の瞳を光らせ、手に持つ杖を僕に向けた。

「わしは、東の最果てから見た二つの世界を記録する大魔獣。……ベルル様の記憶をお返しするのが、わしに与えられた旧魔王様の最後の命じゃ」

「記憶?」

僕はアリアリアさんの言葉を繰り返し呟き、徐々に目を見開いた。それはとても重要な事だったから。
ベルルはその事に少し萎縮してしまったのか、僕の腕をぎゅっと握って、目を泳がせている。

「……ベルル」

ベルルと結婚して一年。
知りようも無かった彼女の記憶を受け止める覚悟が、今の僕にあるだろうか。

だけど僕以上にベルルは、自分の記憶を受け止める覚悟が、いまだ出来ていない様に思えた。
僕に身を寄せるベルルの恐れと緊張が、嫌と言う程伝わってくるからだ。

************************************************
【大魔獣まとめ】
だいたいの大魔獣が出てきたので、簡単に情報をまとめました。
全部出てきたら、また詳しいまとめを作ろうと思います。
名前/属性/姿/召喚記号 【契約者】


◯マルゴット・プロロフィーナ/風/白狼/丸 【ベルル】

◯サンドリア・レカクーダ/水と砂/青い牡鹿/三角形 【ベルル】

◯カルメン・ダイアリーヤ/大地/???/ダイヤ 【レッドバルト伯爵】

◯スペリウス・グローバー/雷/虎/スペード 【テオル】

◯ロークノヴァ・スカルカーク/闇と炎/黒いドラゴン/六角形 【リノ】

◯ノーゴン・ペンタルス/空/フクロウ/五角形 【ミネ】

◯ミスティハート・ラキエル/海/朱色の海獣/ハート 【現魔王】

◯ディカ・アウラム/光と浄化/金色のドラゴン/十角形 【無契約】

◯アリアリア・インフィネイト/時と記憶/不死蝶/メビウスの輪 【旧魔王】

◯?????/???/???/??? 【現魔王】