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第二十二話 主天その九

「このお抹茶を」
「抹茶か」
「はい、これです」
 首を引っ込めてからそのうえで彼のところに歩いてきて手渡すのだった。それは確かに鮮やかな緑の抹茶に他ならなかった。
「お抹茶はお好きですか?」
「茶はどれも大好きだ」
 その茶も受け取りながら答える牧村だった。右手に芋羊羹が置かれている皿を、左手にその抹茶を持って彼女に応えている。
「この抹茶もな」
「そうですか。それは何よりです」
 ろく子は彼の言葉を聞いて笑顔になる。その顔だけを見れば人間に見えるものだった。
「ではどうぞ」
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「うむ。しかしだ」
「しかし?」
「何時の間に抹茶を淹れたのだ?」
 彼が問うのはこのことだった。自分のところまで来たろく子に問うたのだ。
「気付けば出て来たが」
「研究所の奥でお茶会をしていまして」
「奥で!?」
「はい、今しているんです」
 にこりと笑ってそのうえで何でもないといった調子で彼に答えるのだった。
「皆で」
「研究所の奥か」
 その言葉を聞いてその研究所の奥に目をやる。いつも通り本棚が二列で奥まで続き一体何処まで続いているのかわからない程である。
「この研究所の」
「そこでしているんですよ」
 また牧村に告げるのだった。
「雪女さん達やぬらりひょんさん達と」エルメス バッグ 種類
「雪女に熱いものは駄目だろう」
「はい」
 ここでその雪女が出て来た。にこりと笑って彼に言うのだった。白く整った顔と楚々とした容姿は人間好みのものだった。その白い着物にもよく似合っている。
「その通りです」
「では茶会は無理ではないのか」
「すぐに冷やすんですよ」
 ろく子はここでこう牧村に説明してきた。
「氷は雪女さん御自身が用意されますし」
「その中に入れて一気に冷やします」
 また述べる雪女だった。
「そうして飲んでいます」
「そうだったのか」
 牧村はここまで話を聞いてそれで納得したのだった。
「それでか。抹茶を飲めるのか」
「熱いものが飲めないなら冷ませばいい」
 博士も言ってきた。
「それだけじゃ」
「そういうことか」
「私もお茶は大好きなんですよ」
 可愛らしい仕草で両手に小さく湯飲みを持ってその抹茶を口の中に入れる雪女だった。
「他には紅茶も好きです」
「紅茶もか」
「後は西瓜も」
 それもだという。
「やっぱり熱いものは駄目ですけれど」
「雪女さんがいればかき氷だって食べ放題だしね」
「果物もアイスクリームもすぐに冷やしてくれるし」
「有り難いよ」
 妖怪達はここでその雪女を一斉に褒めだした。
「しかもこんな美人だし」
「どうかな。牧村さん」
「どうかとはどういうことだ」
 朴念仁そのものの声での返答だった。
「それは一体」
「だから。どう?雪女さん」
「美人だし性格もいいし」
「誰にだって好かれる性格だよ」
「しかも」
 それだけではないというのだ。