大きな美術館めぐりにいささかの疲れを感じたようなときに訪れたいのが、

個人の邸宅をギャラリーにしたてたようなところ。
「ウォーレス・コレクション」はまさにホッとできる場所でもあるのですよ。


オックスフォード・サーカスからボンド・ストリートの界隈は、

デパートや専門店が軒を連ねるショッピング・ストリートですけれど、
オックスフォード・ストリートをセルフリッジの角で曲がり、北側に向かっていくと、

今までの喧騒が嘘のように静まり返った住宅街になっています。


その一角に「ウォーレス・コレクション」を所蔵する旧ハートフォード侯爵家の

タウンハウスが現れるわけですが、タウンハウスというと、

どうしても長屋形式(ちんけだと思っているわけではありませんが)を思い浮かべてしまうのですね。


カントリー・ハウスに対してのタウン・ハウスですから、長屋形式とは意味合いが違うわけでして、
こちらはれっきとした一戸建て。レンガ造りの立派な建物なわけです。


その中に、絵画、彫刻、メダル、装飾品、そして家具の類いに至るまで、もうぎっしり!詰まっています。
絵画だけでも、こぢんまりめの居室の壁を埋め尽くすばかりか、

おそらくはパーティーに使われたと思しき大きなボールルームに架けられた大きな額の数々。
いやはや、お金持ちなんですなあ・・・。


コレクション的にはやはり貴族趣味というんですかねえ、

典雅な趣をたたえた作品が多く集められていたように思います。
そんな雰囲気を思い切り醸している作品が、ジャン・オノレ・フラゴナールの「ぶらんこ」(1767年頃)でしょうか。


ジャン・オノレ・フラゴナール「ぶらんこ」

「お嬢様!そのようにお戯れが過ぎますと、あのようなじゃじゃ馬では・・・と殿方に思われますぞ!」


こんな古参の執事の嘆きが聴こえてきそうな・・・と思っていたのですけれど、
どうもそんなあまっちょろい絵ではないようで。


勢いで飛んでしまったミュールの先には、茂みに若い男が女性のスカートを覗いているのですね。
後ろでブランコに勢いをつけているのは、下僕かと思いきや、なんと歳の離れた亭主だということで、
ほんの目と鼻の先に間男が忍び寄っていることも知らずに、若い嫁のお愉しみのためならと
老骨に鞭打って?頑張って揺らしてやっているという、何とも哀れな物語ではありませんか。

(ずいぶん前に「美の巨人たち」でも取り上げられていました。)


一方で、オランダ絵画のコレクションも充実しているのですよ。
オランダの風景画ではロイスダールが有名ですけれど、

あらためてホッペマの作品も素晴らしいなと思ったわけです。


また、スペイン絵画でもムリリョの「羊飼いの礼拝」(1668~1670年頃、もちろんプラドと別もの)は、

実に優しげな人物が集う、和みの一枚なのですね。


ムリリョ「羊飼いの礼拝」

こんなような作品群が自宅に架けられている。

しかも、無理なく、背伸びしているわけでもなく。
羨ましいような気もしますけれど、畳にゴロリも捨てがたい・・・と庶民じみたことも思いつつ、
邸宅コレクションを堪能するのも楽しからず哉なのですよ。