唯川 恵「とける、とろける」
さる書評で、阿刀田高さんがこう書いていました。

本書は軽い風俗小説集を装っているが、同様のドラマを秘めている人は、思いのほか多いのかもしれない。いわゆる女性の"女性の小さな死"(エクスタシィ)が本物の死につながるストーリーが多く、少し怖い。

これにつられて、読んでみたのですけれど、

確かに「男とは違う“情”のようなものがあるのだろうな」と思われて、

実際怖いような気がしたものです。


そして、人生における20代から30代にかけての、

他の年代の移り変わりとは比べ物にならないくらいの「何かしら」といったものを

感じるのでした。

もしかしたら、男性に比べて女性の方がなおのこと、感ずるところがあるのかなとも・・・。


それぞれが独立した短編9編を収めたものですけれど、

ひとつひとつに「女性」を感じさせるもの、そして先に言ったような年代を意識させるものがあります。


例えば、「みんな半分ずつ」の主人公、弓枝は夫と二人でインテリア・デザインを手掛ける事務所を共有し、

プライベートから仕事まで全てを半分ずつ手がけて、

半分ずつのバランスこそがすべてをうまく運ばせるものと考えているのですね。

ところが、突然に、まったく突然に夫が出て行ってしまうのですけれど、

以前事務所にアルバイトで来ていた女の子と暮らし始めた夫が、こんなことを言います。

君にはわからないかもしれないが、女が対等って言葉を使う時は、すでに優位に立ってるって宣言してると同じなんだよ。

男の身勝手とも言えるかもしれないのですが、

実質的な対等の実現が客観的な対等とは同議でない、

すなわち女性にとっての「対等」に男性も思いをはせなければならない反面、

男性の受け止め方を女性にも想像してもらわなければならないのではないかと思うのですね。


良くも悪くも、女性と男性は全く同じではないですので、

(生物学的に、違うだろなどと無粋なことを言うつもりはありませんが)

むしろ客観的に同じであるかのような状況を作りだすこと自体

実は不自然さが伴っているのではないかとも思えてきます。


すこし年代が上になれば、「人生には酸いも甘いもあるわけだし・・・」などと

わけ知り顔で応じてしまいそうな内容ではありますが、

いろんなことを考え、考えさせられる契機になるかもしれないですね、本書は。

タイトルだけは、夏向き?ですが・・・