この間はじめて「あらすじで楽しむ世界名作劇場」というTV番組 を見ました。
ご覧になったことのおありの方もおいででしょうし、内容はまさにタイトルどおりですので、
どういう番組なのかまでは触れませんけれど、
「あしながおじさん」やら「レ・ミゼラブル」、「ロミオとジュリエット」などのお話が、
面白おかしく、そしてかいつまんで紹介されたわけです。
ここで興味深いは、有名な作品だからこその「読んでないけど、知っている」と思っていることが
原作とは大きく食い違っている可能性があるということなのですね。
その食い違いの最たるものが、コロッディー作「ピノッキオの冒険」ではないでしょうか。
大きな相違に二つだけ触れますと、
- 旅の友たるコオロギは、物語早々に「説教ばかりでうるさいヤツだ」とピノッキオに殺されてしまう!
- ピノッキオとゼペットじいさんが飲み込まれたのは、何と!クジラではなかった!
ということです。
こうなったら、今さらですけれど「ピノッキオ」を読んでみるしかないかなと思うわけでして、
近くの図書館に行ってみたところ、あいにくと貸し出し中。
いつの世も「ピノッキオ」は人気だということでしょうか・・・
それではと、館内のデータベースでキーワード検索をしてみますと、
新潮新書の「ディズニーの魔法」という本に出くわしました。
これは、なかなか凄い本です。
(ディズニーの夢の世界がお好きな方は、ここから先、立ち入らない方が・・・)
紹介されているディズニーの長編アニメが6編。
全て、おとぎ話や童話に基づくものですけれど、
その6編のタイトルと、目次に記されたコメントを紹介しますと…
- 『白雪姫』 ゾンビと死体愛好者のロマンスはいかにして消毒されたのか
- 『ピノキオ』 ピノッキオを食べたのは体長1キロ、喘息持ちのサメだった!
- 『シンデレラ』 原作には登場しないガラスの靴と太った世話好き妖精
- 『眠れる森の美女』 116歳の老婆を愛する白馬の王子とは・・・
- 『リトル・マーメイド』 自由恋愛を楽しむヤンキー娘に作り変えられた人魚姫
- 『美女と野獣』 消えた意地悪な姉と、突如登場したマッチョな男
ということなのですよ。凄いですよね。
どうやら、これらのおとぎ話や童話の類いで、知った気になっている内容というのは、
おおかたディズニーが、夢と希望に満ちた(しかも親子での鑑賞に差し障りなく)物語に
原話を作り変えたものであろうことが分かってきます。
「いくらディズニーでも、勝手に話を変えてしまうとは不届きな!」という気持ちにも少しはなりましたが、
よぉく考えてみると、おとぎ話は民間伝承ですから、
世が移り時を経ることによって変化するのは自然にあることですよね。
グリム童話と言われるものだって、グリム兄弟がオリジナルを作ったわけではありませんし、
フランスのペローも、ペローなりの童話を作るために原話に手を入れているわけです。
ディズニーのリメイクがどんなものだったのか、ひとつひとつ引用したい気にもなりますが、
ここではアニメ版『シンデレラ』の制作にあたって、スタッフが意図したシンデレラ像に触れておきますね。
シンデレラは(第二次大)戦後の女性たちにとって、我らがヒロインだった。彼女たちは、はっきりと自己主張し、みずからしあわせを掴み取らねばならなかった。
ウォルトとその優秀なスタッフは、このような時代の雰囲気をたくみに捉えてシンデレラのキャラクターを練り上げた。(気弱な少女の復讐物語である原話「灰かぶり姫」の主人公に代えて)シンデレラの忘れがたいキャラクターを作り出したひとつの要素は、第二次世界大戦後という時代背景だった。
ここまで考えられた改作(商業的側面も含めて)に対して、考えるかは人それぞれだと思いますけれど、
結局、ディズニーのリメイクした話の内容、そしてキャラクター・イメージが
その後の世界で「これこそオリジナル!」といった形でまかりとおっているということだけは言えそうです。
まさに、ディズニーの「魔法にかけられて 」しまったのは、我々見る側ということですね。