雪種
暗くなった頃、階下で叫び声をあげるおじさんがいました。
まさかと思ってベランダへ出てみると、暗くて顔はよくわかりませんが、聞き覚えのある声を発しながら、バイクに二人乗りしたのがいます。
昼間
の修理工がファンを含め、交換部品をもって夜、取り付けに来たのです。
やることは早いな、、と関心しました。多分来るのは、早くて明日かと思っていたからです。
ところが交換ユニット以外に、ギョッとするものを持ってきました。
"サービスで雪種を補充しておきますから、、"
要するにエアコンのガスです。
標準的な中国語でこういうのかよくわかりませんが、広東省では雪種と呼ばれています。
雪种 xue3 zhong3
これも10年以上昔の話ですが、工場の近所に空調修理をやっている小さな店がありました。
ある日の午後ですが、工場で会議をしていると、突然外でもの凄い爆発音が響き渡ったのです。
距離にして数百メートルの場所ですから、会議を早々に切り上げ、様子を見に行きました。
すでに道路を挟んで人だかりが出来ていて、表に運び出された2人ほどが路上に寝かされています。
救急車が来て、彼らを近所の人民病院へ搬送するのですが、そのとき担架で運び込まれる一人を見てしまいました、、。
片方の足の膝と、かかとの中間あたりから下が無い様なのです。
近所の噂で、伝わってきたのは、どうもエアコンにガスを入れていて爆発したらしいとのこと、、。
また私が行ったときは、一番重症なのはすでに救急車で運び出された後で(後死亡)、そのとき見た救急車は第2便だったとも聞きました。
お~怖、、、。
まあ、普通ああいう作業は、本体お持ち帰りしてもらって、業者さんでやるから、たまたま運悪くそばを通らない限り大丈夫か、、。
と思ってたら、持ち運びサイズのボンベがあるんじゃないですか!
なんて物騒なもの、持ってくるんだよ人ん家に、、、。
よく、門のところで門番に引っかからなかったな、、と思いましたが、よく考えてみるとこっちはまだプロパン使ってますからね、、ボンベ乗せたバイクなんてしょっちゅう往来してます。おまけに連中昼間一回来てるし、、、。
で、脚立が広げられ、交換ユニットの組み込みが始まりました。この暗さでよく間違わずに作業できるものです。
とにかく修理が済むまで、なるべく柱の陰とかにいないと、、。
そうこうすると、取り付けが終わり、電源を入れ始めました。どうやら終わったようです。
ホッとしていると、突然肝を冷やす情況が目に飛び込んできました。おじさんの一人が例のボンベを持って私に迫ってくるのです。
"な、なんだよ、そんなもの持って、、、"
"これから、雪種を入れるんですが、、ボンベ開けるのにスパナかなんか無いですかね、、、?"
なんか、昼間も来るなりドライバとニッパー貸してくれって言い出したな、、こいつら手ぶらで修理に来てるのか?そう思いましたが、持ってるものが尋常じゃありません、工具箱渡して柱の陰に再度身を置きました。
"シュッ、シュゥゥゥ~、、、、"という悪魔の鼻息みたいな音がベランダから響いてきます。そのたびに柱の陰で、体が萎縮するのが感じられました。
やがて電源を入れる音がピッと響き、どうやら無事終わったようです。
エアコンの室内機は、冷たい風を吐き出していました。
さすがに室外機の中身を取り換えて、ガスも入れたため、以前より冷たい風が出ているように感じます。今年の夏は暑くてエアコンの効きが悪いと思っていましたが、そういう問題だけではなかったようです。
いや、よかったよかった、これで今夜はお月見しなくて済みそうです。
二人のおじさんは代金を受け取ると、名刺を出しました。何かあったら電話を、、というお決まりの文句を言い、代金をポケットにねじ込むと、例のボンベを抱きかかえて帰っていきました。命知らずなやつらです、、、。
ちなみにボンベと交換ユニット以外は、本当に手ぶらだったようですね、、。
おそらくプロパンに比べれば、安全だと思いますけど、なにぶん事故現場を見てますから、、ああ怖かった、、。