法改正の経緯:安全性の向上ではなく、合理化の余波 | 音楽リスナーとPCユーザのための著作権パブコメ準備号

法改正の経緯:安全性の向上ではなく、合理化の余波

安全性の向上ではなく、合理化の余波

この法律に疑問を差し挟む事は、趣味や文化を国民の安全よりも重要だとみなす事に繋がる、という考えが散見される。しかし、法改正は安全性の向上のためのものではなく、「基準・認証制度等の整理及び合理化」のためのものに過ぎない。

平成10年3月31日に閣議決定した規制緩和推進3か年計画/行政改革推進本部のなかの経済産業省管轄のものとして行われたもので、平成11年1月の産業構造審議会基準認証部会(部会長:塩野宏 成蹊大学法学部教授)報告書を経て、規制緩和推進3か年計画改定(平成11年3月30日閣議決定)で、「通商産業省関係の基準・認証制度等の整理及び合理化に関する法律案」の国会提出が決定した。

与謝野国務大臣は衆議院で、この改正案について、

技術水準と事業者の安全確保能力が向上したことで消費生活用製品等の安全性と電気工作物などの保安水準も向上し、事故の発生件数も減少したことを踏まえ、これまで政府が中心となっていた基準・認証制度について、民間事業者の能力を活用した制度を構築することにより、消費者の安全等の維持向上を図りつつ、規制の合理化を図ることを法案提出の理由とし、要旨としては、「第一は、事前規制の合理化」で、極力指定代行機関に制度を開放する、「第二は、検査、検定等の業務における民間事業者の能力の活用」として公益法人に限らず民間企業の参入を可能とし、「第三は、安全水準の確保等を目的とした事後措置の充実」として、製品安全規制の分野においては回収命令等の流通後の措置の充実を図るとともに、法令違反に対する制裁措置の抑止効果を引き上げるため、法人重課の導入等罰則の適正化を図る。

と説明している。

つまり、安全性と保安水準の向上、事故件数の減少を踏まえての規制緩和なのだという説明である。

PSEマークがつくということは、これまで政府が中心となって行なっていた認証などが民間に移ったというだけに過ぎず、安全の基準や認証の条件が厳しくなったわけではない。言うまでもなく、PSEマーク事自体が安全性を向上させるものではない。政府が行なっていたものを民間でも可能にすることで合理化を図るするための法改正であり、PSEマーク導入以前の電気製品についても、改正以前の電気用品取締法は、政府が安全性を保証するための基準・認証制度が存在していた(旧26条2から5で製造業者を規制)。乙種電気用品(安全法でいう「特定電気用品以外の電気用品」)は、平成7年の改正で○〒マークを付ける義務を外してはいるが、事業者名や定格電圧などの表示が必要であり(乙種の表示については旧26条の6、施行規則24条12/別表第七の二。甲種の表示は25条)、販売に当たって表示を確認しなければいけないのも同じ(旧27条)。

国会では、共産党の「消費生活用品、電気用品等の政府認証の廃止は、製品流通前の安全性チェックをなくすものであり、これも事故の未然防止により国民の生命、安全を守るという国の責任を放棄するもの」「国の検査業務の公正さの確保に関する国民の疑問、不安にこたえず、官民癒着や業界と一体となっている指定検査機関の現状を放置したままで、指定検査機関等への民間企業の参入を認めるなど、検査・調査機関の公平性、中立性の確保が一層危ぶまれる」との指摘があったが、可決された。共産党の指摘は、今後の検査あるいは基準・認証制度を危ぶむものであって、改正前の制度によって製造された電気用品が危険だとするものではない。

では、なぜ電気用品取締法時代の表示がある電気用品の販売を規制するのか。その理由は、『電気用品安全法関係法令集』(2002年度版p44、2004年度版も同様の記述)にあった。

法律改正内容の解説及び経過措置/(9)経過措置/ii 流通に係る経過措置
なお旧法における適法品に製造や流通期限を定める理由については、多数の品目で新旧の表示品の混在が長期間続くことが効果的な事後規制を行う上で好ましくないこと、また新法の施行にあたり速やかな移行が求められることから、製造流通実態等を考慮し事業者等にとって影響を最小限とする範囲で用品ごとに製造流通期間の上限を定めることとしたものである。


事後規制について、与謝野国務大臣の説明には

「第三は、安全水準の確保等を目的とした事後措置の充実」として、製品安全規制の分野においては回収命令等の流通後の措置の充実を図るとともに、法令違反に対する制裁措置の抑止効果を引き上げるため、法人重課の導入等罰則の適正化を図る。

をとある。新旧の表示品の混在は、安全水準の確保にとって致命的なものではない。また、速やかな移行は、製造者および新品の販売事業者において求めればそれで足りると思われる。すくなくとも、中古店・リサイクルショップにおいての流通実態を考慮し、影響を最小限としようという考えは、上記理由からは感じられない。

そして、少なくとも、事後規制が、安全法施行以前の製品の販売を不可能にすることを指すとは、説明していない。

安全性と保安水準の向上、事故件数の減少を踏まえての規制緩和なのだという説明は別エントリにあるリンクで法改正、また改正後の意見募集の説明に至るまで、全体を通じて一貫している。また、『電気用品安全法関係法令集』(2002年度、2004年度版)を含めても、中古品・リサイクル品の安全性、また販売におけるPSEマークの表示義務による中古店・リサイクルショップへの影響などについて、検討された形跡はまったくない。

規制緩和策としてはじまった法改正ですから、旧法の基準をクリアしているがPSEマークが付いていない電気用品、つまり、PSEマークの制度がはじまる前、つまりおよそ2001年以前に作られた規制対象となる品目に該当する電気用品のすべて(と、その後現在に至るまでに作られた規制対象となるとなる品目に該当する電気用品の一部)の販売を規制することは、行政改革推進本部の意図だとは思えません。

法案提出時の説明を見ても、およそ2001年以前に作られた規制対象となる品目に該当する電気用品のすべての販売を規制することには一切触れていません。法案成立後のパブリックコメント募集時にも同様です。

この法律が改正された平成11年からの5年間の間に経済産業省がしたことといえば、官報とホームページの告知だけでした。製造業者などには説明があったかもしれませんが、中古品やリサイクル関係の業者には猶予期間が切れる直前になってようやく知らされたようです。そこでようやく、消費者・国民の一部が気付いた。広く消費者・国民全体には、まだまだ知らされていないといってもいいでしょう。

規制緩和の名の下に、行政改革推進本部を裏切り、国会と国民を欺いて、もっとも影響を受ける業者と国民の目からは隠蔽してきた。気付いた時には、2001年以前に作られた規制対象となる品目に該当する電気用品のすべての販売を規制しているのです。そして、この規制は、中古品を扱う業者と、経済的弱者と、さまざまな文化を抑圧するのです。