花の季節⑧からつづく
盛大な拍手が街中に響いた。
その中には「お帰り」という声も雑じっていた。
温かな、自分を迎え入れるかのような拍手に
イレイナは胸がいっぱいになった。
自分は一人じゃない。
自分の歌を心待ちにしてくれるみんながいる。
父の伴奏がないのはやはり寂しいが、
これからも大好きな歌を歌い続けようと心に誓うイレイナだった。
それからは毎日、イレイナは噴水の前で歌を歌い続け、
街の空には暖かい拍手が響き、コインが弧を描いていた。
歌うたびに春が近づいているような気がした。
イレイナは歌の最中、ふと
あのピンクのバラの花束をくれた人のことを想う。
歌を聞きに来てくれる人の中に、その人はいるのだろうか。
できればその人に直接会ってお礼が言いたいものだ。
しかしイレイナには、
その人が誰なのか知るすべはなかった。