折り紙の著作物性 | 知財タイムス

折り紙の著作物性

折り紙作品の著作権についての続きです。

日本折紙学界(JOAS)公式サイト「折紙探偵団」に、「折り紙の知的財産研究」というコーナーがあり、さらにその中に「知的財産としての折り紙について」という文章(PDFファイル)が掲載されています。今回は、この記事について検討してみましょう。

「音楽における楽曲や科学技術における理論などと同じように、多くの情熱と時間をかけて生み出されたものですから、創作者の知的財産であると考え、その利用にあたっては創作者に対して敬意を払うことが必要ではないでしょうか」と書かれていますが、科学技術における理論は著作権によって保護されることはありませんし、特許権等の産業財産権が付与されることもありません(特許の対象は理論ではなく「技術的思想」です)。また「多くの情熱と時間をかけて生み出された」ことは、知的財産で保護する理由とはなりません(※1)。例えば、ものすごい情熱と時間をかけて作られた「明治期の小説一覧」というようなものがあったとして、それが著作権によって保護されるかといえば、そうではないのです。さらに「創作者に対して敬意を払うことが必要」というのは、個人的にはその通りだと思いますが、「敬意」は主観・心情の問題であって、法律がどうこういうことではありません。

もう少し読み進めると「折り紙の折り方そのものが著作物であるかどうかについては、同法に明記されておらず、また判例も知られていないため、意見の分かれるところですが、日本折紙学会では、折り方も著作物に準じて保護されるべきものだと考えています」とあり、ここにも著作権に対する理解不足が表れています。そもそも「折り紙の折り方」が著作物であるということは考えられません。というのは、著作物は具体的な「表現」でなければならず(著作権法2条1項1号)、折り方すなわち創作手順・方法は著作物たり得ないのです。問題にすべきなのは、折り紙作品そのものの著作物性です。そして、「著作物に準じて保護されるべきものだと考えています」とありますが、いかにも中途半端な物言いです。「著作物に準ずる保護」というのは、一体どのようなものであり、何を根拠にして、どの法律で保護されるというのでしょうか?

この「知的財産としての折り紙について」を読んで感じるのは、折り紙の著作権についてはまだまだ議論が不足していること、そして、指針を示す側の日本折紙学会もいまだ手探り状態にあるということです。「折り紙の知的財産権検討基金」を募っていることからも同学会の苦労が伝わってきます。どうやら、著作権についての理解が不十分なまま、必要に迫られてガイドラインである「知的財産としての折り紙について」が策定されてしまったと思われます。

私の意見では、創作性ある折り紙作品は著作物であり(※2)、著作権によって保護されると堂々と胸を張って主張すべきだと考えます。「著作物に準じて保護」などという歯切れの悪い表現をされたのでは、折り紙作品も泣いていることでしょう。絵画や彫刻に劣っていると自ら宣言しているようなものではありませんか。
折り紙作品は絵画や彫刻と同様、美術の著作物です。

次回、さらに掘り下げて考察してみたいと思います。

※1 著作権の世界では、このことを指して『著作権は「額の汗」を保護するのではない』という表現がよく用いられます。
※2 すべての折り紙作品が著作物になるというのではなく、あくまでも著作権法2条1項1号の定義に合致するものだけが著作物となります。