49.それぞれの戦い | 【作品集】蒼色で桃色の水

【作品集】蒼色で桃色の水

季節にあった短編集をアップしていきます。

長編小説「黄昏の娘たち」も…

 礼二は唯一を立ち上がらせるとジョージと亘に

「取り敢えず、彼女を外へ連れ出すんだ。結花子も覚醒するかも知れない。少しとはいえ魔女の力が入っているからな」

「礼二さんは?」

ジョージが結花子を抱えながら不安げにいうと

「俺にはまだ大事な仕事が残ってるんだ。死ぬわけにはいかないさ」

そう言うと通路を進み出した。立ち上がった唯一は

「僕はヴラドとの約束があります。亘さん」

そう言うと聖母の絵を取り出すと口づけし

「ごめんなさい。僕、勝手に持ってきてしまって」
亘はいいんだと頷くと唯一の肩を叩き自分がつけていたロザリオを唯一の首にかけると

「行くんだろう。でも絶対生きて戻って来いよ!俺達は仲間なんだからさ…それにもっといい絵を描いてやるから」

そういうと結花子を抱いて歩き出した。

唯一は以前ヴラドから渡されていた剣を握りしめると礼二達に別れを告げて神殿へと入って行った。

ラドウは唯一の持っている剣を見つめると

「唯一、貴様がヴラドの息子か?完全体になった私を殺せるかな。黎明…お前も本気を出して闘わないといくらサバタリアンで優秀なハンターの子でもこ私を倒せまい。二人同時にかかってこい」

ラドウは再び余裕の構えでいる。確かにラドウに言うとおり唯一と二人掛かりでもそう簡単に倒せる相手ではない

「黎明よ。お前は良く戦った。もういいではないか…お前も私と共に闇の子となりこの世界を手に入れようではないか?私とヘスペリデスの娘が結ばれれば闇の楽園が訪れる。そこで我らは王になるのだ…さあ、手を結ぼう。お前達人間が好きな夢や希望が全て手に入れることが出来るんだ。未来は思うがままだ」

「ふん、未来ね…未来っていうのは常に前向きに生きている人間が使う言葉だ。不死者のお前が口にするな!」

その言葉と共にまた戦い始めた。


 通路を行っている礼二達もなかなか進むことが出来ていなかった。

通路内にはまだまだヴァンパイア達が残っていたのだ。

意識のない結花子を庇いながら進むのは大変な作業だった。

それにどう見ても来るときに入ってきた通路の先は塞がっている。

無線を通して入って来る音からしても神殿内に戻る訳にもいかない。

ジョージは昨日訓練したときから演技はしていたが礼二がただ者ではないことは判っていた。

暴走族の総長でもない…金持ちの単なる坊ちゃんでもない…何か別の組織の関係者。誰にも気付かれないように何処かと連絡を取り合っている事にも気付いていた。でも、どこの組織か?

「なんなんだよ。助けに来るなら今だろ…」

いつの間にか考えが声に出ていた。

亘は

「何いってるんだ?あの梯子を登って他の通路にでよう」

ジョージは先頭を歩いている礼二の腕を掴むと

「あんた何者だよ?ただ者じゃないって事は判ってるんだよ。教会でも誰かとメールでやり取りしてただろう…そいつら、いつ助けにきてくれるんだよ」

礼二はジョージの行っていることが判らないって風で

「お前何言ってんだ?」

「もう隠すなよ!何かの組織の一員なんだろ?救援呼んでるんだろう」

「否…」

ジョージが礼二に詰め寄るのを亘は結花子を抱えながら止めに入った

「ジョーっさっきから何ごじゃごじゃ言ってんだよ。今は出口を捜す方が先だろ!組織ってなんだよ」

ジョージはふてくされたように礼二を見ると

「此奴に聞けよ。仲間だと思ってたのに…」

礼二は辛抱強い態度で

「俺は仲間だよ。ただ君が思っているような組織には入っていない残念ながらね。ただずっとある会員には入っていてその会は世界の滅亡について調べている。でも半分は趣味の世界だ。オカルトのね。そして、俺は填りすぎた…ある意味狂気だな。君達の教会の様子が普通じゃないのに気付き自分なりに調べていった結果あの女神像にぶちあたり、いろんな国へ行った。そしてギリシアにも行った…そこでびっくり、黎明の母親に瓜二つの女が居た。これは運命だと感じた…きっと俺がこの滅亡の危機を救わなければいけない。使命だ。若い頃は散々やんちゃをした…それも自分が何者か判らずに身悶えていただけだったんだ。親に財産があるというのは想像以上に複雑なものなんだ…それから俺は二人の人間を監視仕始めた…二人の動きを見張っていれば滅亡の前触れは必ず判る…そして数日前、二人が一緒に目の前に現れた…ただそれだけだ…残念ながらね」

途中で気が付いた結花子が

「あんたストーカー?」

礼二は過去の経験の名残で思わず睨み付けると結花子は亘の背に隠れた

「ある意味そうかもな」

ずっと黙って聞いていた亘が

「じゃあ…ジョーが言ってるメールは誰に送ってたんですか?」

礼二はその問いに照れくさそうに

「自分にだよ」と答えると近くにあった梯子を登り始めた。

亘も後に続きジョージが結花子に登るように促すと、結花子は

「そりゃーそうよね。そんなオカルトおたくに友達はいないわ…」

と呟くと登り始めた。

ジョージも

「確かに…」

と続け、礼二以外は全員笑い出していた。

ジョージが隣の通路に降り立つと結花子が思い出したかのように

「他のみんなは?茉莉ちゃんはみんなどうしたのよ!」

みんなが沈黙すると

「何なのよ!!言いなさいよ」

「亘っ早く進むんだ!」

ジョージは茉莉子の名前を泣き叫ぶ結花子の腕を掴むと無理矢理通路を進み始めた。

「行き止まりよ。どうするのよ、水がだんだん上がってきてる。やっぱり茉莉子達の元に戻るべきよ」

結花子が叫ぶと

「あそこからまた他の通路へ出られるかも知れない」

ジョージの言葉で亘が結花子を抱きかかえて登らせようとすると

「嫌よ。あんた達仲間でしょう。どうして最後まで戦おうとしないのよ」

「もう…戻る道はないんだ。彼奴らなら大丈夫だ!今は俺達だけでも抜け出さなければ…急げっまた揺れが…」

四人は幾つかの通路を渡り進んでいくとヴァンパイアの気配は完全に無くなっていたが水かさは増えるばかりだった。結花子が扉を見つけると四人はずぶ濡れになりながらも其処へ避難した

「この奥なら出口がありそうね。早く地上に出て助けを呼んでこないと。まだみんなを助けられるかもしれない………今の何?」

何かが破裂し轟音が聞こえてくる

「水だっ」

亘が扉に近付く

と「くそっ中からは閉められない…ジョー。後は任せた」

そういうと誰も止める間もなく亘は鉄の扉から出ると扉を閉め外のバルブを廻し扉を固く閉め始めた

「ちょっと何すんのよ」

結花子が扉を何度も叩きつけると礼二が肩を抱き

「早く行くんだ!亘の行為を無駄にするな」

亘は扉の下で座り込むと迫り来る濁音を聞きながら濡れた煙草を取り出すと口に加えた

「やっと禁煙ができるな…唯一。ごめん。やっぱ絵描けないわ。俺の部屋にあるやつ全部お前にやるから…ラドウを倒せよ!みんなの敵を討ってくれ…ヴラドには俺からいっといてやるからお前の息子は立派に闘ったってさ…あとジョー………」

ここで轟音と共に亘の声は聞こえなくなった。ジョージは泣きながら結花子の手を握りしめると暗闇を歩き続けた

「あと何なんだよ…」