42.束の間の休息 | 【作品集】蒼色で桃色の水

【作品集】蒼色で桃色の水

季節にあった短編集をアップしていきます。

長編小説「黄昏の娘たち」も…

「楽しそうじゃん」

「レイもやってみれば、気持ちいいよ。競争しようよ。どっちが高く迄漕げるか」

二人は楽しげに声を挙げながらブランコを漕ぎ出した。

互いに無理している事を隠しながら、青空に向かって漕ぎ始める。

茉莉子は突然、ブランコから飛び降りると

「昔さぁお姉ちゃんと二人でよくこうして遊んだんだ。お母さん仕事でいなかったし…あの人はこんな綺麗な青空をみれないんだよね…」

茉莉子は黎明がおいた缶コーヒーを手にするとまたブランコに戻った。

「お姉ちゃんさぁ、きっと本気であの人の事が好きなんじゃないかなあ…唯君だってあんなに一生懸命あの人を庇って…レイだってあの時本気を出せばあの人を倒せたんじゃない?」

「あのな…あの人あの人って!あいつは人間じゃないし…あの時は唯がお前に銃を向けてたじゃないか」

「違う。あの人は自分からずっと隙を与えていた…んだと思う」

黎明は空を眺めながら

「吸血鬼は吸血鬼なんだってば」

「私、お姉ちゃんがヴラドを本気で好きなら…一緒に行かせてあげたいと思う」

「お前。あんだけ姉さん達を助けるって言いながら…今度は自分から一番好きな姉さんを吸血鬼に差し出すのか」

「……そうだね。そうだよね。でも平々凡々と生きていくより生涯一度の恋に寄って身を滅ぼすのも女にとっては幸せだったりするんだよね。滅多にないことだし…私だって命賭けてるもの…まっそれはおいといて…レイのご両親だってあの人と協力し合ってたそうじゃない…それに教会で始めて戦ってみて、正直怖かった…本当に死ぬかと思った…レイの事凄く憎らしかったのに…自分が死ぬと思った瞬間、レイのことしか頭に浮かばなかった…きっと姉ちゃんもそうだと思うんだ…あの人がどうやって吸血鬼になって、どうやってこの長い年月を生きてきたのか私達には判らないわけだし…あの時唯君も言ってたじゃない、私達二人に近付くなって…レイもサバタリアンなんでしょう。いざとなれば二人で倒せるよ。だから…夕方迄私達も休んで、その後もう一度みんなで話し合いましょうよ」

茉莉子は立ち上がると空き缶を手にしながらキャンピングカーの方へと歩き出した

「俺だって、あの時お前の事しか頭になかったよ」

黎明はそう呟くと茉莉子の後を追って車の中へと入って行った。