45.戦闘開始 | 【作品集】蒼色で桃色の水

【作品集】蒼色で桃色の水

季節にあった短編集をアップしていきます。

長編小説「黄昏の娘たち」も…

 ジョージはビルの入口で様子を伺っていた。

「始まった。…やっぱりあの総長だったんだ。やっぱり放蕩息子か…陽が完全に沈んだな。おっヴラドのお出ましだ。黎まだか?中の奴等が出てきやがった。取り敢えずヴラドの援護する」

ジョージはバイクの後ろに身を潜めるとそこからエアガンでヴァンパイア達に狙いを定めた。一発ずつ確実に相手に当てて行くと、当たった処から煙の様なものが出てきている。殺傷力は弱いがこれなら確実に相手を弱らす事が出来る。

「亘。この弾奴等に効くぞ…やっぱりあいつはすげえよ。もう地下の扉の方に行ってやがる」

ジョージはまたバイクに跨るとエンジンを掛けた

「ジョーまだ動くなよ。もう俺等も見えてる」

黎明の声で道の先の方を見ると先の方でキャンピングカーがパッシングしているのが判った

「オーケー。急いでくれよ。地下部隊調子はどうだ?」

「おうよ。誰が放蕩息子だ!俺様をなめるなよ。でも、どんどんわいてきやがる。おやっさんは死体の処理で大忙しさ」

ジョージは少しニヤリとすると荷台に乗っけてある段ボールの横にナイフで大きな穴を開けると、ナイフを鞘に戻した。バイクのエンジンを吹かすとウイリーさせてビルの中へと入って行った。

ジョージはバイクで奴等に体当たりしながらあっちこっちに段ボールの中に入っている缶を落として行き、全て落としきると、ビルの前を車が通り過ぎるのを確認してジョージもその後を追った。

 亘はマンホールの近くに車を止めると、自分の荷物と神父達の荷物を取ると中へ放り投げた

「今、残りの道具を落としました。がんばってください」

無線機にそう言うと礼二が運転してきたバイクに跨った。黎明も荷物を背負うと手にジョージ用の補充弾を持ちながら外へと出るとそれをジョージに投げ渡した。

茉莉子もエアガンを構え、ポケットに入るだけのカートリッジを入れ降り立った。

唯一もほぼ同時に車から降りるとドアを閉めた。

黎明、茉莉子、唯一の三人は確固たる足取りで歩き始めた。ジョージと亘のバイクが横に並ぶと二人で親指を立て合うとエンジンを同時に吹かしたジョージの

「BEAT TO DEATH,」の叫び声と共にビルの中へと入って行った。

亘もそれに続き、黎明達も中へと入って行った。

「あっちも始まったみたいだな」

「ええ、神のお恵みを…」

「でも、此奴等本当に俺達と同じ人間だったのか?」

「そうですよ。ヴァンパイアはよく誤解されていますが、なかなか小説や映画のように巧い具合に仲間は増やせないんですよ。単なる食料として殺されたものは殆どがこの様に変異した状態でしか奴等の仲間にはなれない。生まれたばかりの者も仲間を作る事は出来ない。長い時を生き、熟練した者だけが完全なるヴァンパイアを作る事ができる。それも手順を踏まないと出来ない。でなきゃ、この小さい島国はとっくにヴァンパイアに占領されていたでしょう」

「へえ、そうなんか…じゃあ、こいつらは奴等の食べかすか…何か許せないな。好きでこんな身にされたわけでもないのに、死ぬこともできないなんて…」

礼二は次から次にわき出てくるゾンビと化したヴァンパイア達を時には蹴り、時にはエアガンで撃つを繰り返している

「何十年か分でしょうね。私達の手で成仏させて挙げましょう。もう一度照明弾を撃ちますよ。礼二君頭を下げて」

そういうと神父は礼二の後ろから撃つと

「今のが最後です。少し下がってもう少し灯りを増やした方がいいですね。弾はまだありますか?」

「もう、ボウガンはとっくに使い果たした。後はこのエアガンだけ…それも残り少ない。そっちは?」

「こっちも残り少ない…接近戦で行くしかないですね。首と腰の骨を折るんです」

「痛っこいつ俺を咬みやがった…俺もこうなっちまうのかよ…あああーーー」

神父はヴァンパイアに咬まれて混乱している礼二の肩を思いっきり掴んだが振り払われると今度は思いっきり頬を殴りつけた。

「落ち着きなさい。咬まれた位大丈夫です。致死量の血を吸われるかしない限り奴等の仲間にはならない。何処を咬まれた?」

礼二は神父に腕を差し出すと、空いている方の手で何発か弾を撃った。神父は傷口に聖水をかけて呪文を唱えると

「これで大丈夫ですよ。また咬まれるような事があれば、コインでも十字架でも聖なる物を傷口に当てるといい。でも咬まれない事が何よりです」

礼二は立ち上がると

「わかった。でも今唱えたのはお経じゃなかったか?」

「あっ気付いてしまいましたか?私は元々密教の修行をしていましたから…言霊って聞いた事はないですか?言葉には力があるのです。神も言っておられます。最初に言葉ありきとね」

「それは判るけど…おやっさん、じゃあ何で今は神父なんだよ。修験道のままじゃヴァンパイアを倒せないのか?」

「まあ私も君達と同じですよ。兄と一緒にハンターになってから神父の方が…何ていうんでしょう、今の若い人がよく言う」

「らしい…か?」

「そう。…らしいと思ってね。どんな神でもよい神を心の底から信じればいいのですよ。見ていて下さい言葉の力を…臨!兵!闘!射!皆!鎮!裂!在!全!」

そう神父が唱えながら手を内縛、外縛、剣、索、内獅子、外獅子、日輪、宝瓶、隠、力印を結び四縦五横の線を空中に切ると一瞬光の矢が放ち近くにいたヴァンパイア達が消失した

「すっげー。やっぱあんた凄いわ。最初からそうやってくれれば良かったのに…おいっどうした?」

礼二は蹲っている神父に寄ると

「これは凄く気力を使う…ので…あまり使えないのです…まだまだ私も修行が足りん」

「歩けるか」

「大丈夫です。一度入口に戻りましょう。亘が何か差し入れてくれたようですし…」

「どうにか中に入れたわね。神父様大丈夫かしら」茉

莉子は黎明の後ろを歩きながら呟いた

「おかしい…静か過ぎないか?あいつが全部倒したのか?」

黎明は周囲を見ながらゆっくりと進んでいくと目の前に拓也が現れた

「黎さん。前っ!拓也さんが…」

「唯君。あんたの後ろにも」

三人は挟まれたことに気付いた。

茉莉子は唯一の背中を引っ張るとエアガンをカートリッジの中身がなくなるまで撃ち続けた。

黎明は剣を抜くと拓也へと向かっていった。

唯一も体勢を整えると茉莉子の援護を始めた。