音を飛ばす、響きの層を作るには、一般的な奏法で当たり前のように使う伸筋が働いているうちは、鍵盤を押さえ込んでしまうので、そのようなことは絶対にできません。


伸筋もそうですが、やはり一般的な奏法では当たり前のように指の関節で支えてしまい、同様の理由で、絶対に音は飛ばず、響きの層もできず、すなわち豊かな倍音は出ません。


それを何とか早く回避する、すなわち屈筋のみを使い、屈筋のみで支えられるようにするための「荒療治」の方法がいくつかあります。


その1つは、関節を放棄して、指を伸ばしきった状態で練習することです。そうすることによって、伸筋も使いませんし、関節でも支えられなくなるのです。ただ、これは少々難しいことで、今まで弾けていた音型が弾き辛くなるという難点がありますが、効果はあるようです。ただ、ある程度、屈筋で支えることを行ってきて、すでに強い屈筋がないと、まったく弾けませんので、いきなり行っても無理です。


ほかの方法として、例えばある一定期間、まったくピアノを弾かないようにします。個人差はありますが、2週間も弾かないでいると、指の筋肉が落ちてしまい、弾けなくなってしまいます。この筋肉が落ちてしまった状態、すなわち伸筋が落ちてしまった状態を作ることにより、伸筋を使おうと思っても筋肉が落ちてしまっているので使えないわけです。そこで正しい使い方である、屈筋のみを使いやさしい曲から徐々に弾いていくのです。


ほかにもいろいろな方法がありますが、今挙げた方法は「荒療治」といえる方法です。普通に弾きながら、少しずつ使う筋肉を変えていく、その感覚を養うことができ、そして、実際に伸筋が落ちて、屈筋が強くなり、関節ではなく屈筋のみで支えられ、弾けるようになりますが、最低でも5,6年かかります。これには、教師も生徒も忍耐が必要になります。私は今まで、約250人程度の生徒たちと出会ってきましたが、これが出来るようになったのは、たったの5,6人です!難しいことなのですね!


このことを認識されていて、なおかつ生徒に実践させる教師は、残念ながらモスクワ音楽院でも少数派のようです。ですからモスクワに留学したといっても、残念ながら、そのような指導をされずに、響きは変わらず、重力奏法が何たるか?を知らずして帰国している方は大勢いるように感じます。

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