大転換点に立つ中国 | ブギウギ・チャイナ・オンライン(番外編)

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下記は、本日の勤め先のウェブサイト 発信メールにて掲載)

中国では、毎年この時期に全人代(全国人民代表大会、日本の国会に相当)が開催される。今年は、ちょうど一週間前の3月5日に、北京の人民大会堂で開幕した。

  今回の全人代で、特に注目すべき内容は、中国政府が提出した2006年からの第11次五ヶ年計画案であろう。投資主導から消費主導成長への転換、農村への重点的な財政投入で農民所得の底上げを図るといった内容をみると、中国政府が、高度成長に伴う格差拡大などのひずみを是正する方向に政策転換を図っていることが分かる。

  中国はこれまで、1979年に改革開放に踏み切り、1992年に故鄧小平の南巡講話で高度成長期に突入するといった二度の大転換期があった。今回の全人代からは、中国が新たな大転換期を迎えようとしていることがわかる。

  実は、今回の全人代開催までには、改革開放以来の、国をあげての大論争が繰り広げられてきていた。鄧小平氏の南巡講話以降、江沢民前政権は、基本的には経済発展を最優先する政策を推し進めてきた。中国は7―9%の高い成長率を継続し、昨年2005年末には、国全体のGDPはすでに世界第四位のレベルに達し、国民一人あたりのGDPも1700米ドルに達している。しかし、国有企業の悪しき平等を打破するために導入した「先富論」、つまり「一部の人が先に豊かになれ」という政策は、競争メカニズムを機能させ、経済発展の加速化をもたらすと同時に、経済格差の拡大といった社会的ひずみを招くこととなった。そのため、2年程前から、国有企業改革、医療制度、教育制度、地域格差、貧富格差および社会保障制度をめぐり、学者だけでなく、庶民もインターネットを通じ、大論争を繰り広げ始め、これまでの国の発展戦略の正当性が疑問視されるようになったのである。

  経済発展に伴い、庶民でもマイホームやマイカーの購入が可能となり、個人資産を所有するようになった。中国では、これら中産階級に準ずる人口が、既に約1億人前後の規模となっている。

  筆者の知人でもある、中国清華大学社会学部孫立平教授は、2004年以降起こっている中国の大論争について、「庶民が自らの利益のために、国の公共政策について直接、意見を申し入れるようになった」と述べている(2006年3月9日、中国・南方週末紙)。庶民が国の政策決定にこれほど深くかかわろうとするようになったのには、第一に、豊かになり、個人資産を持つようになった庶民が自らの利益に対し、より敏感になったからである。さらに、インターネットの発達によって、庶民もネット上で政府に対して意見を申し入れることができるようになったからである。

  結局、今回の全人代で公表された第11次五ヶ年計画案をみると、市民の間で繰り広げられてきた論争は、国の政策決定に少なからず影響を与えたといえよう。第11次五ヶ年計画案では、「今後、社会公平をより重視し、全国民が経済発展の成果を享受できるよう努力する」と述べられている。

  温家宝首相は施政方針演説で「安定した速いテンポの成長」を目指すと表明、今後5年間の成長率目標を年平均7.5%に設定した。中国は多くのリスク要因を抱えたまま、これまで高度成長を維持してきたが、今後は、安定成長を持続するためには、人治から法治への転換が非常に重要であろう。少なくとも今回の全人代の開催までの中国社会の動きをみていると、このような傾向の強まりを感じずにはいられない。(了)

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