先の原発事故と国際金融危機は奇妙なアナロジーがある。


かつて、元米国の連邦準備委員会議長ボルカPaul Volcker)は、こう発言している。「わたしはデリバティブがいかに大切かという話を数多く聞いた。だが、デリバティブが、ヘッジ機能のニーズをはるかに超えて作り出されてしまったということにはほとんど疑う余地がないと思われる」と。


そして、金融工学が市場テストに耐えられなかったとし、金融工学のイノベーションを駆使した金融派生商品は最終的に利益よりもコストとリスクの方が大きかったと総括した。


これと同様に、先の原発事故も、かつて原発が人類への便宜提供を通じて貢献してきたかもしれないさまざまなメリットをはるかに凌駕するコストとリスクをもたらしてしまった。


はたして、このきわめて類似した深刻な愚行を見つつ、人類は本当に賢明な「種」なのか、いささか深刻な疑問がわいてくる


今年の2月、米国カリフォルニア大学のIrvine校に留学する学生の同行で、2週間ほど過ごした際に、大学の書店で何冊か書籍を購入したが、その中の1冊に「THE STIGLITZ REPORT」があった。


世田谷徒然日記


この2009年の論文は、かつて国連のwebsiteでも拝読したが、いま、あらためてペーパーバックになった原書のそれを再読して、先の原発事故と国際金融危機は奇妙なアナロジーを感じた。

デリヴァティブズのブラックショールズ等のごく一部の専門家が排他的に知りうる世界に大きなリスクをかけながら依存する仕組みそのものが、ある意味、そのガバナンスがしっかり管理監督できずに、大ごとになってしまった時点で収拾がつかなくなている点において、原子力村の住民と揶揄される一部の原子力研究者だけが知りうる世界に無思慮に依存し、大きなリスクをかけながら付託する仕組みそそのものが、妙に二重写しに見えてくるのは錯覚であろうか。


その共通項は、双方とも人類が起こした「人災」であること、被害者の多くは弱く貧しい人々であること、本当のところは、ごく一部の専門家しか理解できす、周囲はそのチェック機能を十分果たせぬまま、システムの暴走を放置してしまったこと。そして、その専門家といわれている集団に共通してみられる傲慢不遜な独善である。要すれば、サブプライムの被害者も、原発震災の被害者も、自らを賢者と錯覚した一部の自称「専門家」たちの視野狭窄な傲慢さと、それを管理監督できずに黙認放置してきた当局の不作為の罪の犠牲者なのである。


かのStiglitzは、この本の最後で、the crisis is man-made、it was the result of mistakes by the private sector and misguided and failed policies of the public. と、いみじくも語っている。


This is the most significant global crisis in eighty years. The crisis is not just a once in a century accident, something that just happened to the economy, something that could not be anticipated, less alone avoided. We believe that, to the contrary, the crisis is man-made: it was the result of mistakes by the private sector and misguided and failed policies of the public.


【THE STIGLITZ REPORT】

Report of the Commission of Experts of the President of the United Nations General
Assembly on Reforms of the International Monetary and Financial System(September 21,2009)

URL;http://www.un.org/ga/econcrisissummit/docs/FinalReport_CoE.pdf


世田谷徒然日記


<Table of Contents>

Foreword.............................................................................................................................................................7
Chapter One: Introduction.............................................................................................................................12
Chapter Two: Macroeconomic Issues and Perspectives.............................................................................23
Chapter Three: Reforming Global Regulation to Enhance Global Economic Stability.......................47
Chapter Four: International Institutions.......................................................................................................87
Chapter Five: International Financial Innovations....................................................................................109
Chapter Six: Concluding Comments...........................................................................................................132