さて、ここんとこ古典やシブイ純文学系作品が続いてたので、ちょっと今ドキの作家さんに戻ってみることにしました。
「でかい月だな」は小説すばる新人賞受賞作で、水森サトリさんのデビュー作。
「友人」である綾瀬に崖から蹴り落とされ、生きがいともいえるほど大好きだったバスケが出来ないカラダになってしまう中学生の幸彦。
家族や周りの人たちは理由なき少年犯罪に憤り、驚き、幸彦に寄り添おうとするが、当の被害者である幸彦の綾瀬への感情は大人や周囲の想像よりずっとフクザツ。
そして一年遅れて二年生に進級した幸彦の周りに現れる二人の変人、超優等生で植物と話をする()機械を操る天才少年中川に、「邪眼」を持つオカルト少女かごめ。
更に次々と幸彦を襲う不可思議な現象。空を泳ぐさかなたちに突如到来した「やさしさブーム」、ネット上にはびこるアヤしいウワサ。「キャラバン」の正体とは...
シリアスな場面、コメディな場面、家族との葛藤や中学生らしい甘酸っぱラブ、SFっぽい要素も取り入れつつ、物語はこの物語の主題でもある綾瀬と幸彦との関係へ、クライマックスへとなだれ込んでいきます。
小説すばる新人賞の受賞作は何冊か読んでますが、他の受賞作に比べてもレベルが高いです。繊細で流れるように美しい文体も、全体の構成も、人物造形も。
絶対にリアルには存在しないような超優等生中川(なんせ自分で自分を錬金術師なんて言ってる...笑)に、周囲を頑なに拒絶するかごめの本当のキャラクターや彼女の抱えるモノなど、ぬかりナシ
ファンタジーっぽくて突飛な展開も多く、「少年犯罪の被害者と加害者」という微妙な問題を扱いながらも、青春らしい青春小説であり、ぜひ幸彦の同世代に読んでほしい作品です。
ラストは押し付けがましくない、爽やかな感動が待っています。
評価は☆4つ。しかしこの賞、レベル高いなぁ(^^;)
千姫程度じゃ絶対無理な気がする汗
11月も残すところあと1日ですが、あと1冊ぐらいは読み終わりたいと思ってます。