つぶやき横町 遺失物係

つぶやき横町 遺失物係

記憶を写生し、景色に彩色する。
写真/文

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「影の無い世界?」
「そう、どこから見ても影が無いんだよ」
「変な事考えるのね」
ヒカリさえ無ければ、影が出来ない。
無理して押さえたシャレたホテルはいたるところにヒカリが溢れて何がどのアカリのスイッチなのか分からなかった。全部灯けると四隅まで照らし出し、幾重にも影が重なった。
彼女はうっすらと背中に汗をかいてベットに横たわっている。
呼吸するたびに背中にヒカリが走った。
「全部アカリ消していいかな」
影の無い世界はオレの輪郭を消して、彼女との境界線を無くしてしまうものなだろうか。
そうすればより深く繋がるのだろうか。ヒカリがオレたちを分けて邪魔しているのか。
スイッチを切ると闇になった。
しばらく目を凝らしたが何も見えなかった。歩き出すのが怖くなって、動けない。
唯一足の裏に感じる絨毯だけでオレはやっと立っている。それ以外はすっぽりと切り落とされているように思えた。急に不安になって四つん這いになった。
「これじゃ、すぐに寝ちゃうね」
「どこ?」
「?、、ここだよ」
けど動けない。ホテルの壁が消えて、無限の闇に浮いているようだった。
二三歩歩いて手を伸ばせば彼女に届くのは分かっている。
「鬼さん、こちら」と甘えた声がする。
今度は闇が壁になって迫ってくる。あるはずも無い黒い壁がグルグルと回転しながらオレを閉じ込めて行く。
「動けない」
「それじゃ、掴まえられないよ」

オレはヒカリがあれば、掴まえることができるのか?
鬼にならなければ、闇の中に歩き出す事はできないのか?
絨毯に沈み込む自らの重力から逃れなかった。