もし、愛する人に「殺して欲しい」って言われたらどうしますか?


忘れていく自分。それが分かるのは、とても辛いこと。アルツハイマーで一番辛いのは、分からなくなっていく自分がわかる瞬間なのだ。


アルツハイマーは原因が分からない。食い止めることも、今の医療では難しい。一つ一つ消えていく記憶を大切に胸に刻もうとしても、病気は待ってはくれない。若いほど進行は早く、次第に笑顔は消えてゆく。


この物語の場合、子供を亡くすという喪失体験も一つの基盤になっている。その喪失体験を病気によって忘れてしまうため、子供はまだいると思い込んでしまうのだ。その度に事実を話す周囲の苦しみ。そして何度も喪失を受け入れていかなければならない本人の苦しみ。


それが「殺して欲しい」という思いに繋がっていく。


愛しているから殺した…という気持ちも痛いほど分かるから、胸が張り裂けそうになる。愛する人にこれ以上の苦しみを与えたくないという思いは、きっと誰しも同じだろう。


誰からも愛され、尊敬された警部。その人の起こした殺人。

その中で周囲の人びとも、本当に大切なものが何かを考え始める。


繋がった命を守るために黙秘を続けた、空白の2日間。

繋がった命が、きちんと理解し受け止める少年で良かったと思う。

生きて欲しい。少年が言うように、梶さんには生きていて欲しいと思った。


徘徊を予防するため、腕を紐で縛ったまま寝るというシーンも出てくる。不穏になった被介護者に、お元気だった頃の仕事の言葉掛けをすることで抑えることができるというところも、実際に介護者がやっていることだ。


その人を形作ってきたものは一生消えることはない。その頃を認め敬っていくことも、私たちのように介護に携わる者の使命だろう。マズローの欲求段階を遡りながら支えていくことが、心理的サポートにもなる。私たちはこれを肝に銘じておかなければならない。


被介護者が介護による疲労や心労で倒れてしまう「介護による共倒れ」や、この物語のようなことを防ぐためにも、介護施設などに対する理解をすすめ、介護保険などをもう一度見直して欲しい。


ところで、寺尾聰というと『ルビーの指輪』が頭に浮かぶ世代の私。あまり邦画やドラマを見ないので知らなかったが、かなり良い役者さんなんだなぁ。彼あってのこの作品という感じがした。