恥ずかしいので、少しニヤけていましたが、
厳粛な面持ちで太宰治のお墓を探し当て、
太宰治生誕100年という節目の年に新朗読をやらせていただきますと、
まずは、ご挨拶と、ご報告をし、ちゃっかりとではありますが、公演成功もお願いしました。
どうぞお導き頂きますようお願い申し上げます。
「はじめまして、津島修治様。
必要が無ければこのようなことも無かったと思いますが、
こうして何かのご縁でお墓に参りました。
普通の人と、なんら変わりなく、
あなたさまの”生み出したいくつかのもの”を読んでいます一読者です。
お煙草の吸殻が散らかっていますね・・・すこし拾っていきましょうね。
ワンカップはファンの方が持ってきてくれたんでしょうね。
良かったですね。おいしかったですか?
お酒はいいですよね・・・
あなたさまのように、自分を見つめては、風景を見ては、いつも何かをお考えになって、
えらくなれるかしら、卑屈、絶望、愛という単一神、芸術は私である、書かなければロマンスを、
聖諦、汝隣人を愛するが如く・・・
はたまた、家庭も守んなきゃいけないし・・・といって上っ面でなく、
身を削り、身を削り、継ぎ足して、又削り、
下がったり上ってこられた方には、
頭を休めることができる唯一の楽しみだったでしょうね。
お花が枯れていますねー。
でも、私が捨てるわけにもいかないから、
そのままで、かわりにもう少しだけゴミみたいなものをつまんでいきましょう。
お墓の石・・・とても風合いが出ていますね。
お名前の字ととても合っていてとてもいいですよ。
なんだかお墓に少し手を当てたくなりました。失礼します。
はて・・・温かいですねー。なんででしょう。冬の寒い日に。
しっとりしています。わたしもこんな石がいいですよ。
いろいろ大変でしたが、いまは少し落ち着けていますか?
多くの月日が経ちましたね。
私ごときの言葉ではありませんが・・・。それが願いです。
お隣の奥様にもご挨拶をさせてください。
はじめまして、美知子様。
目の前の木瓜の花は何色ですか?
赤も白も好きですし、ピンクは二番目くらいに好きですが、
花の無い時のトゲは痛々しいですね。
お顔に向けて顕わにならないようにお花でも。
旦那様はお酒ですけど、
奥様は・・・お茶などいかがでしょうか。
金木の家の敷地内から滾々と豊かにあふれ出ていた水で、
食後のお茶を、誰にも気兼ねなく飲みたいですね~。
それとも、もう飲まれましたか?それならよかった。
倹しい戦時下、お腹に赤ちゃんがいて、でもって一人の子の手を引いて、
お米の配給の列にならんで、
金木まで疎開する時も、深浦で夫の気持ち(酒!)を汲んで、一泊した時も、
子どもの手を引いてかなり歩いて、
金の卵を抱く夫のために、頭をつかうからと、タンパク源をゲットするために
東奔西走し、
良質のものを見極める審美眼をもつあなたは、
夫のお召しにも気をくばり、頼るものはうまく頼り、贈進もちゃんとして、
しっかりと家の切り盛りをされていましたね。とても大変だったと思います。
でも、芒の穂は埃とりにはならないでしょうね(笑)
とはいっても、やりたくなりますね。私も今度やってみようかな・・・詩人の仲間入り(笑)
納税もね~自分でやって欲しいですよねー。
千代田区まで三鷹からどれくらいかかるかな?
電車乗っている間、「おしっこ」ってお嬢さん言わなかったですか?
乳飲み子のおしめは何処で?
国税でお乳を含ませたって。十分満たされたでしょうか・・・
顕わに督促若しくはそれに関わる申告の場にいるのは本当にいやですよね。
私もおなじ経験があります。いいえ!もちろん代理でです。
いやな汗が出ますよねー。
ジャバ汁はね、私初めて知りました。ワカオイのおむすびも。
旦那様自ら解剖の鶏鍋はどんなお味でしたか?
でも、最初は奥様なんでしょ?毛を毟るとこ・・・首ひねるのは”お酒飲んでちょっと神経を麻痺させた旦那様”ですけどね(笑)味つけは塩だけですか?
・・・なんだか永く居座ってしまいました。
スカートの下から冷たい足が二本出ていました。
踏み出した一歩が鈍くて倒れそうです。
ひらめきました。
奥様も一緒に舞台にいらっしゃいませんか?
いたずらに生活のお話などいたしません。
あなただからこそ、太宰の世界はあったのです。
では失礼します。」
森鴎外のお墓にお辞儀をして、まだいろいろお話ししたかったのですがきれいな墓地を後にしました。