[あっかるウィッ!]morning musume history review #28

「田中れいな、卒業」

田中れいなの来春のツアーをもっての卒業が発表された。

予想されていたこととはいえ、実際に発表されるとやはり寂しい。

プラチナ期のモーニング娘に引き込まれた最初の入り口は間違いなく彼女だっただけに、思い出もたくさんある。

出会いは、リゾナントブルーだった。
本格派な佇まいをみせる高橋愛に対し、どこか挑発的な視線を送ってくる田中れいなが一体どんな人なのかにまず興味を引かれた。
ダンスの振り付けは他のメンバーと同じはずなのに、どこか一ひねりアレンジを加えているところに、強い自我を感じた。
と同時に、他のメンバーよりも背が低く、どこか幼い印象を与えるルックスとのギャップにも目を奪われた。

ステージを離れた彼女が誰よりもぶっちゃけた話をすることも知ったが、同時に彼女の素が見えてこないところにも惹かれた。
新垣里沙が、いつも建前のようなことしか言わないのにやたらと人間くさいのと対照的だな、という印象を持った。
(後から、両者が一時期犬猿の仲だったことを知ったが、それもまた納得だった)

ハロプロの世界は敷居が高いと思う。大量のメディア露出がない今、本質を理解するのには運とタイミングが必要だ。
その敷居の高いハロプロへの入門編として、田中れいなは非常に高い貢献をしたと思う。
髪型にしろメイクにしろ歌い方にしろ、彼女は簡単にスタイルを変えない。それが記号となって分かりやすさに繋がっている。

モーニング娘に入った当初の田中れいなの印象は、あまり良くなかった。
表情や態度から、思うように自分を前に出せないフラストレーションのようなものを感じたし、気の強さが悪い方向に作用しているようにもみえた。
モーニング娘の売り上げが下降し興味を失っていくにつれ、田中のようなメンバーが真っ先に腐って適当にこなしているんだろうな、と思っていた。
それだけに、リゾナントブルーでの強烈なインパクトに目を奪われた。これがあの田中れいなか、と。
腐ってるなんてとんでもない、一番自覚的に自分を見せ、全力でアイドルをやっている姿に、感動すらした。
気まぐれプリンセスでの小悪魔的な振る舞いも印象的だ。後ろを向いてお尻を振る振り付けのときにも、田中は必ず客側に視線を送る。


ライブにおける田中れいなは、替えがきかない。
ピッチの安定感は歴代でもナンバー1だろう。亀井・ジュンジュン・リンリン卒業の横浜アリーナコンサートでの歌を聴いていると、
他のメンバーが大きな会場の音の跳ね返りによるピッチとタイミングの調整に苦労している中、田中だけが正確に歌えていた。あれには驚愕した。

喉の丈夫さも特筆すべきポイントだ。どんなにツアーを重ねても、声が変わらない。彼女の声が掠れてるところを聞いたことがない。
ソロパートも多く、高音部分はだいたい田中が歌う。
「この地球~」の転調後などは常に高いところを遷移するが、いつもノーミスで歌っていた。

ここ1,2年の歌に関しては、文句のつけようがない。
「シルバーの腕時計」での歌唱などを聴いていると、「歌もやってるアイドル」という域を超越している。
歌の表現という意味では、あの曲での歌唱が最高峰かもしれないと思う。
あの曲では田中にしては珍しく、1フレーズ歌い終わったあとに下を向いたり、悲しい表情をしたりする。
高橋愛卒業ライブでのこの曲のパフォーマンスを何度見返したことか。

9期、10期が主体となる体制に移行しつつある現在も、田中は常に前に立っている。
ただし、以前のような勝気さは感じない。
その代わりに、「脱力」をうまく使いながら名人芸を見せるような領域に来た。
スポーツでも楽器でも何でも、ある一定レベル以上になると、脱力が重要になってくる。力まず、軽くこなしただけで十分なパフォーマンスを行うための脱力。
ここ最近の田中からは、脱力を感じる。(ダンスは脱力しすぎだが)
もう既に、彼女の中にはモーニング娘でやり残したことはないだろう。そんな本人の気持ちが、なんとなく伝わってくる。

彼女には、現在より少し前の時期を「実はあんまり楽しくなかった」という癖がある。
たぶん、どの時期のことをもそう彼女は表現するだろう。
そして、今が一番楽しい、と言うだろう。きっと卒業してからも、そう言うと思う。
それが、田中れいなという人間の偽らざる気持ちであり、リアルな言葉だと思う。


さて、困るのは残されたモーニング娘だ。
一人違う次元で歌っていた田中が抜けたあとのモーニング娘は、非常に厳しい。
他のアイドルとの決定的な違い、それは「ライブで生歌で(音楽のショーとして)楽しめる」ことだ。
その大部分を担っていた田中がいなくなった先には、相当な試練が訪れることは間違いない。
他のアイドルと同様にいわゆる口パクで誤魔化すようでは、ハロプロの未来はない。
かといって、「下手でも頑張ってればいい」といっても、耳の肥えたハロプロファンを楽しませることはできない。
高橋、田中をはじめとするプラチナ期メンバーによって、求められる水準はかなり高くなった。

個人的には、鈴木香音に期待している。
彼女の声は、非常に良い。
発声および発音が雑な癖はまだ直っていないが、きちんと曲の流れを意識して歌えるようになれば、彼女はメインで歌わせたくなる能力を持っている。
笑ってYOUの後半部分でのソロなどを聴いていると、他のメンバーにはない輝きを感じる。
最近は、元来の繊細で弱気な面が隠しきれず色々と悩んでいるようにみえるが、なんとかここを乗り越えてほしい。
自分の可能性を自ら否定してしまっているようにみえることが最近は多いので心配だが、秘めた能力はかなり高いと踏んでいる。
彼女に必要なのは、「アイドルという職業で人前に立って、お金をもらうプロの仕事をしている」という自覚だけだ。
田中れいななどは、その自覚の一転突破で突き進んできたようなものだ。
悪いところは学ばなくていいが、いいところはどんどん学び、自信をつけていってほしいと思う。


田中れいなにしては珍しくソロパートがそれほど多くない気まぐれプリンセス。
歌パートが少ないことで勝手にこっちが気を使ってしまうメンバーは田中れいな以外いないのだが、さすがに見せ方が上手い。(toggle)