morning musume history review #19
「モーニング娘。のアルバム論」


最近の更新の間隔が空いていることから、読者の方から「興味を失ってしまったのかと心配しています」というメッセージをいただいたという話を聞いた。
とてもありがたい話で、嬉しかったです。心配いただいてありがとうございました。しかしご心配なく。まだまだ興味を持ち続けています。高橋愛卒業でかなり気持ちの中では一区切りついたのは確かですが、最新アルバムのおかげで次への期待が膨らんでいます。



今回のアルバムでもう12枚目となる。
メンバーの入れ替わりがあるとはいえ、同じアーティスト名義でこれだけの作品を出し続けたことが、単純に素晴らしいと思う。

最近は、これを機に、昔のアルバムから遡って聴くということをしている。
曲単位でなくアルバム単位で聴き比べると、興味深い発見が多くて、面白い。

その中でも、モーニング娘を音楽グループとして見た場合、30人以上のメンバー変遷の中でキーパーソンとなるのは、やはり福田明日香と高橋愛だったと感じる。
この二人は、言葉を選ばないならば、本物の歌い手だ。
本人のキャラクターや小手先のテクニックに頼らず、しっかりと歌えて表現できていたのは、やはりこの二人だったと思う。
逆にいうと、この二人がいなかった「黄金期」は、ギミックの究極形だったのかもしれない。ギミックだったからこそ、テレビで映え、ミーハーな人にとって分かりやすい記号的な存在でいられたのかもしれない。
これから高橋が抜けた後、どちらの方向性に進むのか、興味がある。



最近、気づくと「Give me 愛」が頭の中で再生される。知らぬ間に、こういう曲調が体に馴染んでいたのだと感じる。
平日の午後に再放送されている昔のドラマのような、少々大げさでペシミスティックな色彩が、いつの間にか心地よく感じるようになってしまった。「泣いちゃうかも」「しょうがない夢追い人」「ララバイゲーム」あたりでずいぶん馴らされたものだ。

「シルバーの腕時計」を聴いていると、初期の名曲「Memory青春の光」を思い出す。
つんく氏は、こういう失恋を描くのが抜群に上手いと思う。
そして、田中れいなの歌唱にはびっくりした。福田⇒高橋の系譜には田中が連なるのかと、この曲での歌を聴いていると思う。
ビブラートを綺麗にかけられるようになったことで、歌の強弱が抜群に良くなった。
今までもかなり高いレベルにいたのだが、今まではあくまで「こんな(可愛いアイドルな)れいなを見て」だった。どんな曲を歌っても、田中れいな的にベストの表情や姿勢を崩さなかった。それがこの曲では、まるでその曲が自分の実体験であるかのようにリアルに歌っている。(特にライブを見ていてそう思った)
田中れいなのキャリアの中で、文句なしのベストアクトだと思う。ようやく、「田中れいな印」を取っても、自信を持てるようになったのかもしれない。

「この地球の平和を本気で願ってるんだよ」「彼と一緒にお店がしたい」の2曲は、シングルリリースから少し時間がたった今聞いても、素晴らしい出来だと思う。
どちらも甲乙つけがたいが、「彼と一緒に~」は、本当に素晴らしい。ハロプロ流ポップソングのお手本のような曲とアレンジだと思う。(道重のアクの強い声にもいつの間にか慣れてしまった)
メジャー進行の曲でありながらマイナーコードをこれでもかと多用するところも、大好きだ。
メジャー進行にマイナーコードを織り交ぜるのはポップスには必須だが、ここまでしつこく入れて切なさを演出できるのは、つんく氏の真骨頂だと思う。サビの進行は、「シングルベッド」とも少し似ている。
ついでに言うと、マイナー進行の曲なのにメンバーが笑っているというのも、ハロプロだけだと思う。最初は違和感を覚えるが、いったん受け入れると、これがとても癖になる。


「乙女のタイミング」での生田の歌にも、心を奪われた。
高橋、新垣、田中のようにたくさんの武器を持っているボーカリストに比べて、生田は丸腰。なんの武器も持っていない。
それが、逆に心を打つ。
最近の彼女は、何をしても楽しい!という気持ちが表に出ている。それがそのまま歌にも乗り移っていて、素直に「がんばれよ!」と言いたくなるようなピュアさがある。これからテクニックをつけるのか分からないが、加入したての今だからこそ発散できるフレッシュさが、彼女の歌に満ち溢れている。あまりに力任せすぎてちょっと面白い、というのもあるが。
ここまで「元気いっぱい」感丸出しな歌を歌ったメンバーは今までいただろうかと思い返してみるが、意外にいない。
素行は破天荒でも歌になるとしっかり「モーニング娘。」してるメンバーが多かった中、歌の中でも破天荒なのは、新しいのかもしれない。


「マジですかスカ!」は、聴いているとどうしても震災のあの頃を思い出して、胸が締めつけられる。
震災後しばらくは、震災関連のニュースばかりを見ていて、モーニング娘の曲を聴けなかった。
明日の日本がどうなるか見えない不安の中、偶然にもとてもポジティブな歌詞のこの曲。
思い切って数週間ぶりに聴いたときのほっと心が解けるような気持ちは、今でも忘れられない。



このアルバムで、高橋愛が参加するのは最後。
次は、新垣リーダー。
この人は、本当に腹の内を見せない。どんなことが好きでどんなことが嫌いなのか、いろんな発言を見返しても、未だによく分からない。
田中はこのまったく逆で、顔を見ればすぐに分かる。
この好対照な二人が残ったというのが、面白い。これまではその好対照っぷりからかドライな関係だったようだが、ミュージカルの舞台をきっかけに距離が縮まったようだ。
お互いの弱点を補い合い、長所を伸ばしあえる良いコンビになると思う。高橋という巨大母艦を失ったのは大きいが、この二人のタッグなら、それを補い、新たな魅力を作り出せると思う。(toggle)