morning musume history review #10

「モー娘がどれくらい好きか一回くらい書いてみようかな」と思って投稿したコラムがここまで続いてしまいました。
読者の方からの感想やメッセージを伝え聞き、「こんなことも書きたいな」と思いつつもなかなか
実現できず申し訳ないですが、反応をいただけるのがとても嬉しく、コラムを続ける原動力となっています。
毎回切り口がバラバラだったり、音楽の少し専門的なところに特化した内容だったりですが、いろんな切り口から楽しめるのがモーニング娘の最大の魅力ではないかと思って書いています。
こんな硬派な感じで書いていますが、普段は昔のハロモニをYoutubeで見てゲラゲラ笑っていたり、ユーストリー娘での生田のKY発言を楽しみにしているような、ただのファンです。よろしくお願いします。

--

最近の携帯音楽プレイヤーには、再生回数を表示する機能がある。
筆者のプレイヤーでモーニング娘の曲の中で再生回数が多いのは、「気まぐれプリンセス」の次に「笑顔YESヌード」だ。
今さらではあるが、2007年初頭に発売されたこの曲についてレビューしてみたいと思う。





この曲のレビューは何度も書きかけたのだが、なかなかうまく表現できずにその度に没にしている。
非常に陳腐な言い方なのでこう書きたくはないのだが、非常に完成度が高い一曲だ。

この曲の編曲は、松井寛氏。MISIAの「つつみこむように・・・」などを手がけた人物。モーニング娘のシングル曲は、なぜかこれ一曲しか手がけていない。こんな素晴らしい編曲をした人がなぜ一曲だけ?!という憤りすら感じるほど素晴らしいアレンジだ。
楽器の配置、ミックスも良く、何回も聞いていても耳が疲れない。モーニング娘の曲の中には、曲は良いのに音が良くなくて惜しい曲というのがけっこう存在するが、これに関しては1,2を争う音の良さだ。

ドラムトラックについては、生で叩いているようにみせかけたサンプリング。ベース、エレピなどは生演奏と思われる。曲中で何度も派手に鳴るシンセの音のチョイスもとても好みだ。この音がいいアクセントとなり、本格的なR&Bからポップスに引き戻す中和剤となっていると感じる。
コーラスも、通常はメンバー自身によるものが多いのだが、おそらく外部の人間のコーラスを使っている。
きちんと手間暇をかけて丁寧に作りこんだアレンジといえる。

メンバーのボーカル配置も良い。
サビで新垣の声がよく聞こえるシングル曲はこの曲くらいではないだろうか。少し抑え目にハスキーに歌った声が、この曲の雰囲気にとてもマッチしている。
吉澤、藤本の年長コンビも、年齢的にもこの曲に合ったパフォーマンスができている。高橋は言わずもがな(この人は本当に何をやらせても高度なレベルでこなす)。
ブリッジ部分での久住も、うまくはないが彼女にしか出せない味がある。それにしてもこの曲のMVにおける久住の美しさは尋常ではない。
光井にとってはデビュー曲になり、歌は不安定。それを補うかのようにすぐ次のパートを歌う田中の安定感もとても頼もしい。「ンー」という声が聞こえてきた瞬間に安堵する。
そういえばこの曲にはユニゾン部分が非常に少ない(「笑顔YESヌード」の部分だけ)。メンバーをソロシンガーの集まりとして扱った一曲ともいえる。この時期は、一人で歌っても鑑賞に堪えうる人材が多かった時期でもあった。そういう意味では、ボーカルパートの配置についてはモーニング娘というグループはけっこうシビアに選定されていると思う。

歌詞の内容は、前回の記事でも書いた「セクシー」にあたる曲。メッセージ性などはなく、「セクシー」の方角にのみベクトルが向いている。
藤本パートの歌詞などはけっこう際どいのだが、高橋パートの「お茶してみたり チャッ」などの遊びなどもあり、不思議と下品な方向には行っていない。あくまで「セクシー」であり、「エロ」にはなっていない。(凡百のアイドルグループであれば直接的に「エロ」を売りにしそうなところであるが)

メロディは、サビだけ聞くと、それほどインパクトのある曲ではない。しかし、Aメロから進めて聴いていくと、なるほどと思わされるメロディ構成だ。つんく曲にはこういう曲が非常に多い気がする。おそらく彼の作曲法は、サビから作って後から他を継ぎ足すのではなく、Aメロから作り始めているのではないだろうか。J-POPでよくある、サビはやたらキャッチーなんだけどそれ以外が全く印象に残らない駄曲との根本的な違いを感じる。多分彼は、サビを作るよりも、Aメロを作るほうが好きなのではないかと憶測する。


この曲は、ライブでの再現が非常に難しい。
基本、抑えた歌唱にしないと成立しないし、ユニゾン部分もなく、勢いで押し切れる曲ではない。モーニング娘のライブは、あくまでファン参加型の熱いものだ。おそらくこの曲は、ライブでの再現性を考慮せずに作られた異色のシングルだと思う。
たまにはこういう作品もいいのではないだろうか。ライブ会場でなく、ヘッドホンで聴くモーニング娘。


と、ここまでは絶賛の流れなのだが、ジャケット写真を見たときの脱力感は大きかった。
アイドルグループのCDジャケットなんて、メンバーが可愛く写っていればいい。たしかにそうかもしれない。ジャケット撮影日と曲が完成する日にギャップがあったのかもしれない。
だけど、もうちょっと、なんとかならなかったのか。可愛い衣装を着られて無邪気に喜んでいるメンバーの姿を見ていて、余計にそう思ってしまった。
ただ、この曲の素晴らしさについてだけは、変わらない。
またこのような、音源志向のクオリティの高いシングルをリリースしてほしいと思う。(toggle)