morning musume history review #9
「モーニング娘とファンクについて」

これまでの日本のポップスに取り入れられる「ファンク」という音楽、言葉から受け取るイメージは、「色気」「楽しさ」「バカバカしさ」のいずれかだったように思う。マイナー調の曲であれば色気(セクシーという言葉に置き換えてもいいと思う)、メジャー調の曲であればパーティ的な楽しさあるいはバカバカしさ。他の音楽に比べて、意外に表現の幅が狭いものだったのではないかと思う。そして、演者側からは、日本人のリズム感へのコンプレックスからなのか、「ファンクができます」というアピールがもっとも大きなポイントになっていた気がする。(プレイヤーの間では、ファンクができるかできないかは、けっこう明確な一線があると常々感じる)

モーニング娘のファンク曲からは、そこから一歩踏み込んだテーマを感じる。
具体的には、「Danceするのだ!」「青空がいつまでも続くような未来であれ!」「でっかい宇宙に愛がある」などの曲だ。
一般的に、ファンクのアレンジを施した曲には、あまり歌謡曲的なコード進行は合わない。ころころとコードを変えてメロディアスにするよりは、ワンコードで押したり、ブルース的な循環コードの方がが合う。簡単に言うと、コードチェンジしすぎると、ダサくなる。つんく氏の作るファンク曲からは、あえてそのダサいゾーンに踏み込み、そこから生まれる強烈なドラマ性のようなものを引き出しているように感じる。

「Danceするのだ!」などからは、曲調のイメージとタイトルの響きから、ただのパーティソング的な型にはまった曲であるという先入観をしばらく持っていた。みんなでダンスすれば楽しいよ、イエーイ!みたいなものだと。
しかし後になってちゃんと曲を聞いていくと、導入部こそそういうステレオタイプなイメージの言葉が連なるが、後半に進んでいくと、長い人生の中で一瞬だけ訪れる青春時代の美しさ、そしてその青春が過ぎ去った者が若い人に青春時代の素晴らしさを伝えたい思い、といったものが伝わってくる。
そして、それを青春時代真っ只中の女の子たちが歌っていることで、聴く者には両者の気持ちが大きな波動となって伝わってくる。

「青空が~」についても、下手をすると説教じみたメッセージになりがちなところを、まだ人生が始まったばかりの若いメンバーたちが歌うことで、リアリティのあるメッセージソングとしてうまく変換されている。その歌詞に込められた意味を分かっているのか分かっていないのかよく分からない子たちが歌うから、説教くさくならないのだ。この曲については、ライブで歌われると非常に感動的な一曲となる。(特に転調してからの展開には毎回涙が出そうになる)

「でっかい宇宙に愛がある」というタイトルからも、ちょっと子供じみた夢見がちな理想論が展開されているようなイメージを持ってしまう。
しかしこれも、怖いもの知らずな若者であるメンバーたちが声を合わせて歌うことで、不思議とすんなりと歌詞が心に入ってくる。
このあたりの効果は、偶然なのか、意図的なものなのか。聴く側としては分からないが、他にはないものであることはたしかだ。



シングル曲においても、ファンクと歌謡曲の化学反応の実験が見られた。
「ザ・ピース!」と「そうだ!We're Alive」だ。
ポップ性の強い前者をより実験的にしたのが後者だとみることができる。「そうだ!~」についてはファンク以外にもハードロックの要素が混じってきたりもするので非常に実験性が高い。この曲がリリースされた当初はあまりにも実験的すぎて受け入れられなかったが、時間がたって作者の狙いのようなものがおぼろげに見えるようになってからは、好きな一曲になった。(単に耳が慣れただけかもしれないが・・・)
「ザ・ピース!」に関しては、完全にマイナー進行なAメロと、完全にメジャー進行なサビを受け渡すBメロの流れが素晴らしいと思う。よくこんな展開考えついたな、と。つんく氏とダンス☆マン氏二人のクリエイティブなアイデアの結晶だと思う。





ちなみに、メジャーとマイナーという観点で見ると、上記シングル2曲より先にリリースされている「恋愛レボリューション21」も面白い作品だ。
以前にモーニング娘のシングルってメジャー調とマイナー調どちらが多いのだろう」と調べたことがあった。その中で、どちらとも判断しかねたのがこの曲だった。(ちなみにマイナー調の曲ほうが圧倒的に多い)
この曲は終始、AマイナーともCメジャーともとれる進行をする。一般的には、曲の最後の終わり方でどちらだったのかを判断することができるのだが、この曲のエンディングは、明確なコードが分からないままSEで煙に巻かれたまま逃げ切られてしまう。おそらく意図的だと思う。





テレビなどのメディアで「モーニング娘といえば」というような場面で必ずといっていいほど流されるのがこの曲なので、現在のモーニング娘ファンにとっては食傷気味なシングルなのだが、ヒットしただけの理由はあると思う。(toggle)