ひまわりが見た夢
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【無題】0

最初はただ『笑わせてやろう』
って…そう思うだけだった

初めて出逢った日
泣き顔で歌うお前

この人が笑顔でいられる時間

1回でも多く…ほんの少し
でも長く…なりますように

俺にできる事なら…こんな俺の
歌をあなたが選んでくれるなら

って…それでいいハズだった

いつからだろう

あいつの笑った顔…もっと
見たいと思うようになったのは

いつからだろう

こいつの笑った顔…
ずっと見ていたいと
願うようになったのは

       終       

【無題】185

【回想】

神崎母
『それじゃあ劇団まで
どうやって通うの?
また五反田で探すの?』

やまと
「大丈夫だよ…もう
新しい部屋みっけたから」

神崎母
『あらホント?なら
よかった♪今度はどこ?』

やまと
「えと…横浜」

神崎母
『横浜ぁ~♪…ん?そういえば
横浜って千絵ちゃんもアパート
借りてる所じゃない?』

やまと
「ぁぁ~…そうだっけ?
偶然じゃん?」

神崎母
『住み込みじゃなくなるんなら
どうせ掃除なんて自分で
しないんでしょ?お母さん
行ってあげてもいいわよ♪』

やまと
「掃除ぐらいするわっ!
来たってぜってー
鍵開けねぇかんな?」

神崎母
『お父さんと中華街で
おいしい物でも食べたいわぁ~』

やまと
「勝手に2人で行ってこい」

神崎母
『千絵ちゃんも誘って
一緒に来ればいいのに』

やまと
「なんであいつが出て
くんだよ…もう切るぞ?
…来んなよ!…ブツッ…ツーツー」





神崎母
「素直に言えばいいのに(笑)
お父さんにでも知られ
たくないのかと思って」

神崎父
「…」

古き良き時代を生き抜いた
大人達に囲まれ今も昭和の
面影が残る片田舎に育った私達

結婚前の男女が1つ屋根の下

正直に公表したところで認めて
もらえるかどうか…少なくとも
あいつはそう思ってなかった

”また”反対されるぐらい
ならいっそ…そう思って

千絵
「すいませんでした…」

神崎父
「…」

隠して…黙っていて

神崎母
「何言ってるの~迷惑かけてた
のはあの子じゃない?千絵ちゃん
にはむしろ感謝してるのよ」

千絵
「ぇ…?」

神崎母
「働けなくなって住み込んでた
部屋も無くなって…もう
いい加減音を上げて帰って
来るだろうと思ってたの
だからあの子が『横浜に住む』
って言った時は~ちょっと
意外で…でも真っ先に
千絵ちゃんの事思い出したわ
その時はまだお付き合い
してるなんて知らなくて~また
迷惑かけてんじゃないかって」

千絵
「…」

神崎母
「でもなんとな~く千絵ちゃん
なら心配いらないかな?って
勝手なんだけど~ね?…どこか
安心してたのよね♪心の中で」

千絵
「…」

どうしよう…

たかし
「兄貴が事故った時も千絵さんが
いなきゃ俺らその日の内に
病院まで行けなかったと思うぜ」

千絵
「…」

空っぽだった私の内側に…
温かい何かが少しずつ

聖なる一夜の続きだろうか

神崎母
「あの子の荷物が届いた
後も~すぐには開ける気に
なれなかったけど…贈り主が
千絵ちゃんの名前だったから」

たかし
「開けたのは俺だけどな」

神崎母
「母親の私以上にあなたはきっと
辛い思いをしたハズなのに
気づいてあげられなくて…
ごめんなさい…あの子の事
ずっと見守ってくれて…
最後まで本当にありがとう…!」

たかし
「…」

おばさんとたかし君に
頭を下げられる

違う…違うのに

私があいつを
死なせたも同然なのに

他人の私が家族に許して
もらえる資格なんて…

千絵
「…」

資格…なんて

神崎父
「…」

ふと留まった光景に
私は目を疑った

それまで…ただ無言のまま
怒りとも哀しみともとれる
表情を浮かべ私達が言葉を
交わす様子をひたすらに
眺めるだけだったおじさんが…

神崎父
「…」

テーブルに両手をつき
額を擦り付けんばかりに
私の方へ向かって頭を下げている

そのひれ伏し具合たるや
先程の私の比ではない

千絵
「ぉ…じさん?」

神崎母
「お父さん…」

たかし
「…」

私の声に思わず顔を上げた2人が
また改めて深々と頭を下げた

千絵
「あのっ…頭上げてください…!
だってあたし…あたしのせいで」

私はいたたまれず
椅子から腰を上げてでも
やめてもらおうと思った

まさかおじさんまでもが私に…
私なんかに頭を下げるなんて

千絵
「やめてください…」

神崎母
「千絵ちゃん…もう
いいから座って?」

たかし
「親父も」

千絵
「…」

神崎父
「…」

頭を上げたおばさんと
たかし君に促され私が腰を
下ろすのとおじさんが上半身を
持ち上げるのがほぼ同時だった

千絵
「そんなつもりで
送ったんじゃないんです…
だってあたしは…」

神崎父
「…」

千絵
「あたしはもう…
いなくなるつもりで」

神崎母
「…?」

千絵
「彼の後を追って…」

たかし
「…!」

千絵
「もうそれは…
思い留まりましたけど」

たかし
「ホッ…」

誰にも打ち明けたことのない
初めて口にする心情

千絵
「あたしがいなければ…
あたしと出逢わなければ…
彼は死なずに済んだんじゃ
ないかって…毎日そんな事
ばっかり考えて…頭の中
ぐしゃぐしゃで…彼の服とか
台本とか…見てるのも
段々ツラくなって…!」

1度口にすると止まらないもの

千絵
「でもっ…」

神崎母
「…」

千絵
「せめて家族には…
お返ししなきゃって…」

私がこの世に留まってるうちに

千絵
「だからっ…」

神崎父
「もういい…」

千絵
「…」

神崎父
「せがれは…あんたと
いられて幸せだったと思う」

神崎母
「…」

千絵
「…」

神崎父
「最後まで馬鹿な奴だったが…
あんな馬鹿息子の最期を
看取ってくれたのがあんたで
よかった…ありがとう…!」

千絵
「…」

たかし
「…」

千絵
「違います…あたしは
彼に何も…迷惑かけてたのは
その…あたしの方で…」

神崎母
「もういいの…だからあの子の
後を追おうなんてそんな馬鹿な
こと考えないで…!…ね?」

千絵
「あたし…っ」

私の内側に少しずつ
注がれていた温かい何か

熱い…とても熱い海水へと
変化し…この瞬間かろうじて
せき止めていた最後の壁が
自力では耐えられなくなり
タガが外れ崩れ落ち外側へ
向かって一気に溢れ出した

我慢しようと押さえつけたら
余計に溢れて出てこようとする

たかし
「………グスッ」

ねぇ…君はいま…何してる?

僕…私のこと…気にしてる?

サンタさん…今日のこの日

誰から誰への…
贈り物なんでしょうか

続く

【無題】184

千絵
「…」

ほどなくして注文の
飲み物が運ばれてくる

店員
「ごゆっくりどうぞ」

爽やかな笑顔を残し店員さんが
私達のテーブルを離れる

たかし
「いただきまぁす…あつっ!」

たかし君はじっと
していられる様子もなく

神崎父
「…」

おじさんは何も言わず自分で
好きなように砂糖…ミルクと
コーヒーに加えカチャカチャと
ティースプーンでかき回す

おばさんは紅茶がガラスの
ポットで運ばれてきたのが
珍しいのか静かにポットを揺らし
クルクル巡る茶葉の様子を
少し嬉しそうに眺めている

神崎母
「…♪」

私はそんな3人の様子を
雰囲気で感じ取りつつ
今はただ静かにその時が
来るのを待っている

千絵
「…」

目の前のゆらゆら立ち上る
湯気の中に…ある日の夜の
思い出が薄ぼんやりと見える

けどその映像(え)も空に
溶ける湯気と共に…すぐ消えた

その向こう側でおばさんが
充分に蒸らし終えた紅茶を専用の
カップに注ぎ込んでるのが見える

神崎父
「…」

おじさんがカップを持ち上げ
コーヒーを口に含もうとしている

目で追うわけでもないが
ただ一口…すすり飲み込む
音をしっかりと聞き取り

自分自身でも重いその口を
やっとの思いで開いてみせた

千絵
「ぁの…荷物…届いてますか?」

神崎母
「!」

たかし
「…っ」

神崎父
「…」

誰も触れなかった話題…

千絵
「やまと…くんの」

神崎母
「…」

たかし
「…」

2人は急に落ち着きが無くなる

神崎父
「…」

おじさんはカップを手に持った
まま…未だ静かに佇んでいる

千絵
「何日か前あたしが…」

暗黙のタブー

千絵
「送りました…」

今この瞬間…私の手で
粉々に…壊してやった

神崎母
「…」

たかし
「…」

神崎父
「…(フー)」

鼻から息を吐きながら
おじさんがカップを
ゆっくりコースターに戻す

千絵
「…ゴクッ」

私は固唾を飲みテーブルの
下に隠している両手が
繋がって1つになりそうな程
強く…強く…握りしめた

カチャッ…とわずかに音を
立てたのが合図かのように
おばさんが答えてくれた

神崎母
「届いたわよ…お礼が遅く
なってごめんなさいね…」

お礼…?そんな言葉を
言ってもらえる立場じゃ

千絵
「ごめんなさい…」

たかし
「…?」

神崎母
「どうして謝るの…?」

『謝る意味がわからない』
とでも言ってるかのよう

そちらに無くても私には…いや
あなた方にこそ言わなければ
いけない…いけなかった言葉

千絵
「葬儀の手伝いもろくに
しないで…何も言わずにまた
こっち(横浜)出てきて…
やまとくんの荷物勝手に送ったり
して…ごめんなさい…!」

私は最後の言葉と同時に
テーブルとおでこがぶつかり
そうな勢いで頭を下げていた

立ってる時なら地に
這いつくばって土下座を
してたかもしれない

神崎母
「ちょっと千絵ちゃん…?」

たかし
「ど…どうしたんだよ?
頭上げろって」

幸いテーブル同士は上手い
具合に仕切られてるため声の
ボリュームさえ気を配れば他の
お客さんの目を引く心配はない

けどそんなことを
気にする余裕もない

神崎母
「ホントどうしたの?
いいから顔上げてちょうだい」

千絵
「…」

そこまで言われてようやく
ゆっくりと顔を上げる

神崎父
「…」

おじさんはカップの
取っ手に指を添えたまま
黙ってうつむいている

神崎母
「謝るのはこっちよ…荷物
なんてホントは家族が整理して
引き取らなきゃいけないのに
恥ずかしいけど…あの子が
死んだなんてずっと信じられ
なくて…お父さんに何べんも
言われたんだけど…とても
そんな気になれなくて」

たかし
「親父…葬儀が終わってから
兄貴の荷物『引き取ってやろう』
ってずっと言ってたんだ…でも
あんな凹んだおふくろ無理に
連れてくわけにいかなくてさ」

千絵
「…」

おじさん…1度は勘当
しても息子は息子のまま



『ホントは誰よりも
応援したいくせに』



いつか言っていたおばさんの言葉

悲しみこらえ生きてる
うちに応援の言葉も
かけてやれなかった長男へ

せめてもの償い…

おじさんの今の表情を
見ているとそんな気持ちを
物語ってるようにも感じる

神崎母
「辛い仕事させちゃって…
何も言わないのに代わりに
やってもらって…ありがとね」

千絵
「…」

私は正直戸惑った

否定こそすれ…お礼を
言われるなんて予想だに
してなかったからだ

あらゆる批判も文句も
悲しみや怒り…たとえそれが
罵声となって降りかかろうとも

全てを受け止める
覚悟はできていた

きっとそれが私に
課せられる罰と思い

でもご家族の口から出た言葉は…
意外と言うには失礼なほど優しく

神崎母
「あの子が千絵ちゃんの
所にずいぶん前から転がり
込んでるのは知ってたけど」

千絵
「えっ…」

知ってた?

たかし
「何驚いてんの?
もしかして俺らが知らない
と思ってたの(笑)」

千絵
「だって…葬儀の時にみんな
初めて聞いたんだと思ってた…」

私達2人が一緒に暮らしてたこと
集まった友人もそこにいた家族も

たかし
「聞いたのは聞いたけど~
やっぱりなって感じで俺ら別に
誰も驚かなかったぜ(笑)な?」

葬儀の時に誰も私に追及
してくる人はいなかったから

神崎母
「言わなくたって
態度でわかるわよ(笑)」

たかし
「まぁ俺はおふくろから
聞いてただけだけどさ」

ねぇ…とっくに知ってたって

家族は…

千絵
「はぁぁぁ…」

これが漫画ならガックリ
うなだれた私の頭上には今無数の
立て線が降り注いでることだろう

千絵
「ぃ…いつから知ってたの?」



続く
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