脱北者の悲劇を描いた韓国映画「クロッシング」が17日から日本全国で上映される。韓国公開後、米韓で複数の映画賞に輝いたが、脱北者に対する韓国社会の無理解から、完成までは苦闘の連続だった。北の真実を追い求めた監督は制作のさなか、日本人拉致被害者の帰国を信じ続ける母の愛を知ることになる。(桜井紀雄)

  [フォト]厳しい強制労働のなか、うるおいの雨を全身で受け止める主人公ら

 「子供を思う母の悲しみの大きさを知った」。クロッシングの金(キム)泰均(テギュン)監督(49)は、拉致被害者の横田めぐみさん=拉致当時(13)=の母、早紀江さん(74)の言葉を知ったときの思いをそう振り返った。

 自分自身、脱北者や拉致問題には無関心だった。道に落ちたウドンを泥水ですすいで食べる北朝鮮の子供のテレビ映像を目にし、そんな自分が恥ずかしく、北朝鮮住民の本当の姿に迫ろうとメガホンをとった。

 だが、当時は親北政策をとる韓国政権のもと、北を刺激する脱北者問題への取り組みに批判的な人々が多かった。「SF(空想科学)映画を撮るつもりか。脱北者の話なんてウソだ」と皮肉る友人もいた。「だからこそリアリティーにこだわった」。政府から圧力をかけられかねず、秘密裏に撮影を進めた。

 3年かけ、約100人の脱北者に取材した。助監督をはじめ40人近い脱北者が制作にかかわり、脱北者が「違う」といえばすぐにシーンを撮り直した。価値観が全く異なる脱北者スタッフとの衝突もあった。

 北朝鮮に関する資料を読みあさるうち、新聞記事でめぐみさんの帰国を訴え続ける早紀江さんの言葉に目を止めた。「事件として拉致を知っていてもこれまで痛みまで感じようとしなかった」。南北分断で父以外の子供らと生き別れになったことを悲しみ続けた自分の祖母に重なった。「無関心が悲劇を放置している」と制作への意欲を高めた。

 映画は脱北した父親と生き別れになった11歳の少年を中心に描いた。別れたまま少年が死ぬという悲劇で終わる。「ハッピーエンドにした方が売れることは分かっている。でも今も国境をさまよい、消息も伝わらないまま死んでいく無数の脱北者の悲劇が終わっていない事実を伝えたかった」からだという。

 試写を見た早紀江さんは「いまも助けを求めている娘たちと重なってつらかった。拉致被害者を含め、別離で苦しむ人がたくさんいる。悲しいが、北朝鮮で何が起きているのか真実を描いたすばらしい映画で、多くの人に見てほしい」と語った。

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 「クロッシング」は17日から東京・渋谷の「ユーロスペース」などで上映される。

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