本当に信じられない。
あたしは口元に掌を当てながら蜂谷を見る。
蜂谷は目を細めながらあたしを見る。
「ダイジョブか?」
「大丈夫じゃないし! もう、何なの? アンタ、何様?」
「何様って何? オレ、何かした?」
「アンタのせいで咽たんだし! それなのに何で威張って末央に飲み物買いに行かせるのよ!」
「オレのせいって、意味わかんねー。どーゆーこと?」
オーバーに両手を上げながら、蜂谷は首を傾げた。
「アンタが急に現れるからでしょ!」
そうあたしが言うと、彼は目を剥いて。それから、くくっと笑った。
「へー、それでオレのせいなんだ? まーいーけど。だって、オレ、お前のこと、探してたんだし」
「……え?」
「末央に買いに行かせたのも、二人っきりになりたかったから」
「――!」
突然な意味深の言葉に、あたしは口を噤んだ。
二人っきりって、何を言って……?
驚きのまま、彼を見上げる。――と。
「顔、赤ぇ」
「あっ、赤くなんてないし! 大体、アンタが変なこと言うからっ!」
反射的に反論したけれど、無駄だった。笑い顔は、くっくと声も上げるだけ。
「……ちょ、ちょっと!」
「思い出した? 昨日のキス」
「なっ……!」
何を言ってるのと言う前に、ヤツの手があたしの頬に触れた。
ぴくりとあたしの身体が小さく跳ねる。なのに、それ以上身体が動かない。
夏の光を帯びた明るい茶の双眸が細められ、あたしに近づく――。
あたしは瞳を見開いたまま、やっぱり動けなかった。
跳ね除けられない頬の指。距離が縮まる唇。
またキスされるのかと思った――けれど違った。唇は触れないまま通り過ぎ、耳元に寄せられた。
「末央に近づくな」
低く凄んだ声が鼓膜に響いた。
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