あたしは食べかけのおにぎりを噴き出した。
「……っ、蜂……! ……っ、けほっ、けほけほっ」
「きったねぇなー。吐くなよ」
咽ながら、顔を顰めてそこに立つ男を睨み上げたけれど、止まらない咳の苦しさに涙が出てくる。
ああ、もう、マジでムカツクこの蜂谷って!
「ちょっと、アオ! 失礼でしょ!」
末央が奴を詰った。けれど、しれっとしていて全くこの男は動じない。そこがまたムカツク。
「大丈夫?」
「だいじょ……ぶ……」
細い末央の手が背を擦ってくれて、あたしはようやく咳を治める。もう一度ねめつけた先のその男は、こともあろうかあたしの隣に座り、右手には卵焼き、左手には唐揚げ。口はもぐもぐ動いてる!
「美味ぇ」
「ちょ……っ! 何……」
してるの、の叫びは、再発した咳に阻まれる。もおおお、最悪!
げほげほと咽るあたしを、この男は平然と見下ろして。そして彼女に言った。
「末央、飲み物ねーの?」
「……えっ? あっ、やだ、そういえばない!」
「買ってこいよ、早く。コイツ、苦しそーだし」
何言ってんの! アンタが買ってこいっつーの!
そんな心の声が届かないまま、末央は「待っててね」とあたしに言い残し、慌てて走っていってしまった。
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