テレキャスター12/プロトタイプ | おんがく・えとせとら

おんがく・えとせとら

音楽のこと,楽器のこと,いろいろ。

 以前,ギター・マガジン08年1月号テレキャスター特集を取り上げた際に「大々的な特集は初めてではないか」と書きましたが、昔のギタマガを読み返してたら,ありました。ちょうど13年前の95年1月号に「COMPLETE TELECASTER STORY」と銘打った22ページの特集が。

 そりゃそうやろね。レスポール,ストラトに次ぐ人気機種だし,ソリッド・エレキの第1号やから,特集がないわけがないですね。13年の間にはさらにまた別の特集があったのかもしれない。また,この春,入学祝いで初めてギターを手にした少年・少女は13年前の幼児期には恐らくこの記事は読んでないはず,同じ記事を繰り返しても問題ない。

gm0501

GM9501

 さて,95年1月号特集は,プロードキャスターに始まり年代を追ってバリエーションを紹介するという全く同じスタイル。レギュラー品に加えてペイズリー・レッド,ブルー・フラワー,シンライン等々,お馴染みのラインアップが掲載されており,何点かの写真は08年1月号にも流用されているようです。

 が,このテレキャス特集で特筆すべきは,最初のプロトタイプの実物が紹介されているところ。(下写真参照) カスタムショップで復刻モデルも作られてたと記憶してます。ヘッドと回路セレクターがない点を除けばほぼ市販品に完成品に近い仕様です。
「スネークヘッド」と称されるヘッド部にはペグはクルーソンの3連タイプが左右にひとつずつ,パインボディは上下貼り合わせの2ピース,ピックガードはファイバー紙にクリアラッカーをコートしたものと思われます。コントロールパネルはこの後,ボディ下部に行ったり試行錯誤が続く。

proto

 さらに,米国のギター研究家・リチャード・スミス(Richard Smith)氏の著書からの引用と,開発に携わったジョージ・フラートン(George Fullerton)氏のインタビュー記事で,テレキャスター誕生前後の逸話を詳しく説明しています。(因みにインタビュアーは現ギブソンジャパン社長の岩撫安彦氏。)

smith
 Richard Smith「Fender The Sound Heard 'Round The World」

 以下は,記事からの抜粋。

・テレキャスの原型の開発は49年夏から始まった。デタッチャブル・ネックはすでにその当時,リッケンバッカー,ナショナル等で採用例(アコGのことか?)があった。

・当初のプロトタイプのボディ材には,軽量性という点でパイン(松)を使用していたが,樹脂分(松ヤニ)が多く塗装が剥がれる可能性があり,アッシュに切り替えられた。アッシュは軽量で当時流行の木目調のフィニッシュが可能だった。強度がやや低く家具向きでないため入手は容易で,材の継ぎ合わせなくボディを構成できた。

・初期プロトタイプには,軽量化のため中身をくり抜いたボディに蓋をするホロータイプも試作されたが,コスト高と軽いアッシュ材の調達が可能になったことから採用されなかった。

・あとで追加されるフロントPUは,プレイヤーが弦をヒットする位値にあり,断線防止のためカバーを付けた。当時は同サイズのプラスチック・カバーを作る技術がなく金属製になったが,これがシールドにより高音を抑える効果をもたらし結果として好都合だった。

・50年4月,最初に発売されたギターはブラック・フィニッシュの1PUエスクワイアで,定価は139.95ドル(当時価格で5万円くらい?)だった。
 その後レオ・フェンダーは当初スペックと異なるコスト高のブロンドフィニッシュ2PU版の製品をメインにしたいと推してくる。既に1PUエスクワイアのオーダーを抱えていた販売代理店(レディオ・デル社)は一計を案じ、2PU版を別のモデルとして併存させることにした。こうして誕生したのがブロードキャスターである。

esq
 1950年最初の広告。「エスクワイア ; スパニュッシュ・ギターの最新鋭機,素晴らしい反応,新しい音,完璧な音程」

・ブロードキャスターについては51年1月に87本,2月に65本という最初の出荷記録がある。同年2月にはグレッチから例の商標侵害警告が届く。販売代理店は即座に対応し、同月内に名称変更とカタログ類の廃棄等について同社と協議を完了させている。ブロードキャスターに変わるネーミングとして「デュアル・エレクトラ」(2PUエレキの意)等が挙っていた。

・エスクワイアについても同名雑誌からクレームがあったそうだが,こちらは異分野であることから問題なしとなった。

  ***************************************

 以前,ブロードキャスター~テレキャスターのスペック変遷年表があったらいいのに,と書きましたが,95年1月号にはちゃんと掲載されていました。

TELE CHLONO

 リットーミュージックのムック「TELECASTER」は発行時期がこの特集よりも前 (93年1月) なので,これらの記事は当然収録されていません。
 同じムックでもかたや「STRATOCASTER」は2度も改訂してるので,そろそろこちらも過去記事を再録して改訂していもいいんじゃないでしょうか。


<追記>
・記事ではGeorge Fullertonをフーラトンとしてますが,綴りからするフラートンとしか読めんけど…。ほんまはどうなんだろう。
・古くは70年代のヤングギター以来流通している説ですが,テレキャスのヘッド・デザインに対する「クローシャン・ヘッド」という表現。「クローシャ」って何やねん?
 原語は「Croatia」(発音は「クロエイシャ」),ギリシアの近所にある「クロアチア」のことです。「クロアチアの」は「クロエィシャン」。昔はヘッドデザインはクローシャの帽子が起源とか,民族楽器が起源とかいう説明があったけど,絵や写真は載った試しはなく,これも真贋よく分からない。
 しかし「ロシア」を発音にあわせて「ラッシャ(木村?)」と書くと何やら分からんし…。外国の固有名詞の表現は難しい。